【芝居】「アンネの日」風琴工房
2017.9.16 19:00 [CoRich]
135分。18日まで三鷹市芸術文化センター星のホール。
生理用品大手メーカーの商品化チーム。開発中の高機能型に対して、天然素材にこだわり女性の身体に優しい商品の開発を思いつく研究者の女性。大人の自由研究と題された社内コンペに向けてチームを作り、業務の隙間をぬって、その困難に立ち向かう。
女性たちそれぞれの初潮についての語りを冒頭に置き、それがこの開発の現場の女たちのキャラクタを造形していきます。女たちが自分の身体について語るスタイルといえば、「ヴァギナモノローグス」(1)が思い浮かびます。題材が近いのもあって、それを踏襲するようで、同様にスタイリッシュに描くけれど、しかしちょっと違う生々しさと、男であるワタシからは見えづらい女たちの言葉が少しばかり生々しく。
ノンケミカル・オーガニックなナプキンの開発の物語、女たちのバックグランドの物語に並行して、生理やナプキンにまつわるさまざまを。金融にまつわる男たちの話しを描いたhedgeシリーズ (1, 2)と相似したスタイル。 少しコミカルでもあって、リズムを作ります。それはナプキンの登場、アンネフランクのこと、アンネの日という呼称の登場、ナプキンの構造、そもそも生理とはどういう現象なのか、あるいは「男女平等ランキング」 で日本が低いことなど。生理という現象を起点にして、女たちが置かれている立場を描き出すのです。
女たちが置かれている立場、という視点は核となる商品開発の物語のベースとなっています。 初潮を祝われた少女は成長し開発のリーダーとなり人々を牽引し、初潮の時に一緒に居てくれた幼なじみを亡くしたばかりのサブリーダーはこの商品に並々ならぬ思い入れを持ちます。あるいは、祖母が初潮を見守ってくれた女は何事にも真っ直ぐに向き合う研究者に成長しています。 もちろん、初潮が性格のすべてを形作るわけではないけれど、そういう描き方、という視点の面白さはあって、女たちの成長した姿の向こう側に、少女の頃の彼女たちの心細さや晴れやかな気持ち、恐怖だったりが透けて見えて奥行きを作り出しているのです。
商品開発の物語の過程ではシンプルでカラダによさそうと思われるノンケミカル・オーガニックを貫くのがどれだけ困難なのかということ。 薬事法で必要な漂白、薄さや機能を維持するための高分子ポリマーの存在は、もちろん便利さとコストのメリットなのだけれど、引き換えに何が失われたかということ。 それは食の向こう側にも透け見えること。ちょっと強すぎるように感じるワタシだけれど、自分のカラダのことを真っ先に考えよう、それはとりわけ女たちの物語だからこそ大切で、もっと強く主張してもいいことだ、という明確なメッセージなのです。
もう一つ特徴的なのは「生理が来ない」女の存在。身体機能の問題かと思わせる序盤だけれど、作家は少々貪欲とも思えるほどもう一歩。いわゆるLGBTなど性自認の違和感に端を発する性同一性障害で性転換を経験した人物を登場させます。その彼女に完成したナプキンを渡しつけてみることで「女の子として生きていく」自信を得るという力強さ。更に性同一性障害といっても恋愛の対象が異性か同性どちらもあるのだというところまで到達する終幕に舌を巻くのです。
性転換を果たした女を営業から内勤に異動させることも含め、生理用品を扱う会社であっても女たちの存在は軽いのです。半年で作り上げられたナプキンも正式なプロジェクトには昇格しない終幕は、女たちの困難はまだこれからも続くという認識でもあり、しかし彼女たちは明るく前向きに力強く進之です。
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