【芝居】「1 on 1~役者の呼吸が聞こえる場所~」タヌキ王国
2017.9.23 15:30 [CoRich]
まつもと演劇祭、当初予定とは異なり、ホーム劇団のタヌキ王国のメンバーのみで上演する短編7本組。60分。深志神社 天神会館
慣れない合コンに来た兄弟が慣れたふりして「ぶるやつ」
断崖絶壁から飛び降りようとした男、女に声をかけられ利用料を払えと言われ「自殺の名所」
男が女に説教されている。そんな覚悟で詐欺ができると思ってるのか「オレオレ」
妻が入院した夫と息子、着替えを持って行こうと思うがあんまり枚数持ってないことに気づく「父の長い日」
客がこない骨董屋。アルバイトが暇だなというがオーナーはゆるやかに流れる時間といい「本日、凡日」
アイドル握手会の中で一人だけ列のないアイドルに繰り返し握手を求めるファンはアドバイスを「握手会」
ホームレスの前に座り込む青年、今晩はここで寝たいという「公園デビュー」
四方を客席で囲み、二人芝居を数珠繋ぎに上演。 10分に満たないぐらいの短いシーン。起承転結や成長というよりは、物語が始まりそうな予感をさせるさざ波のようなスケッチ。ちょっと不思議な話だったり、ほろりとした感じだったり、なにも起こらない雰囲気だったり、全体に穏やかな会話で紡がれます。そういう意味で勢いや突飛さで押し切るような芝居はなくて、あくまでの役者の地力だけで演じるのです。
「ぶるやつ」はイケてない兄弟があたかも鏡を見るかのように、こういうのやめようなといってみたり確認したり。兄弟で合コンというなんだか間違ったほっこりした雰囲気が、ああ、これは変わらないだろうし変わらないでほしいなと思っちゃういい奴感いっぱい。
「自殺の名所」は利用料を取るという発想のおもしろさと、自殺する人の気持ちが分かっちゃう女の存在と。前向きな感じになる感じがちょっと微笑ましい。
「オレオレ」は中途半端ななりすましに激怒してるのが、まさになりすましを生業とする役者。気合いを入注入するとみせかけて、このチャラい男をキャストに取り込もうとしてるというどん欲なハイエナっぽいたくましさ。
「父の〜」は男二人、居て当たり前の妻・母が居なくなって気がつくこと。もちろん頼りっぱなしだということもそうだけど、着替えを探すと思いのほかその数が少ないこと、若い頃はもっとおしゃれに気を遣っていたけど、頼りっぱなしの日々でそういう目を向けることもなかったし、自分たちばかり優先してもらってきたな、ということにもしかしたら気づいたかもしれない「買い物に行くか」という台詞の絶妙さ。
「〜凡日」は、なにもない暇な日々の切り取り。若者にとってはそれはやることのない暇そのものだけれど、上の世代にとってあるいはこの店の持ち主の感覚としては時間が緩やかに流れているということの感覚の差。それをバカにしたりするでもなく、その違いも含めて敬意を持ち合うおだやかな気持ちを共有できることのある種の奇跡。
「握手会」は列のないアイドルというワンアイディアだけれど、そんなものと諦めている本人に熱く語るファンのギャップ、その熱量が移っていく盛り上がり。四つん這いになりその気合いで蹴り上げてほしい、というのはどこかのラジオ番組の企画、もしくはアントニオ猪木のようだけれど、気合いを気合いとして感じたい、という感覚はなんか生ゆえにもっと迫ってくる感じがします。
「〜デビュー」はいつでも明日は我が身と感じてる身につまされる感じ。デビューだから先人に敬意を払い、そこでのしきたりを聞くところから入ること。ホームレスなりかけなのか、それとも単に家に帰りたくない夜もあるのか。でも不思議な連帯感と暖かさ。
そう、この7本のダイアログ、どこまでも穏やかなのが特徴で、相手に敬意を払っている二人たち、という共通点。おかげで物語そのものの盛り上がりという点では少々心許ないものだけれど、ちゃんと芝居として成立させるのは、気心しれた役者たちで濃密に作り上げた芝居ということなのかもしれません。
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