【芝居】「スロウハイツの神様」キャラメルボックス
2017.7.7 19:00 [CoRich]
辻村深月による小説をキャラメルボックスが舞台化。 16日までサンシャイン劇場。60分。
十代を越えると抜けると揶揄される作家の男。作品に影響を受けた子供が起こした事件のバッシングでしばらく仕事ができなかったが、作品に救われたという新聞への投稿に救われ、数年後復活を果たした。その男は、漫画家やイラストレーター、映画監督などクリエイターたちと暮らしている。新進気鋭の脚本家の女が偶然借り受けた大きな家をシェアしているのだ。
作家の連載は好調だが、よく似た物語も発表されていて、その作家の原稿がこのシェアハウスに送られてきたことでこの中に盗作した作家がいるのではないかとみんなが疑いを抱く。
脚本家は、かつて作家の作品に救われていて、なんとしても作家を救いたいと思う。
謎解きミステリーの体裁を持ちながら、バッシングや盗作、あるいは過労といったクリエイターにまつわる困難の数々。それを助けたいと思う気持ち。それを支えるものとして、少なくとも表立っては恋愛の感情としてではなく、あくまで感謝と作品や作家への敬意ゆえに見返りを求めずに相手を支えたいという気持ちとして描かれます。
いくつもの困難を乗り越えてきた長い時間、作家と脚本家という二人の人物の異なる視点でなぞります。作家のバッシングを救った一通の投書、その主の困難な日々を陰で支え続けた人物の存在、そして今また盗作という困難から作家を守ろうとすること。互いに好意を寄せていても、仕事の相手として対等であり続け、表向きはそれ以上に進まないふたりは、自分がした施しを他の人が知っていること以上には相手に伝えません。 それは好意の施しが、この少しの緊張感と誠意をもった対等の関係でいることを、もしかしたら壊してしまうという恐れを本能的に感じ取っているのかもしれません。終幕は、新たに二人が仕事のパートナーとして一つの仕事に向き合うことになることの予兆で、二人の関係が新たな段階に進んだことなのだけれど、まるで二人の愛情が成就したかのようにすら感じるあたしです。
ミステリー的な仕立てとしては、作家と脚本家それぞれの困難の時代をそれぞれの立場から描いた過去の回想が中心になっています。 脚本家の視点では、親の犯罪による離別など苦しい時代を作家の作品に支えてもらった強い気持ち。図書館に蔵書が増えたり、妹と週に一回会っていた駅の待合室に突然テレビが設置されて同じ作家のアニメ作品が見られるようになったり、一度は食べてみたいとあこがれていた東京のスイーツを口にすることができたりという幸運。それが支えとなって脚本家の仕事を手に入れ果たしてその作家との直接会うことができ、シェアハウスへ誘う。 作家の視点では、支えてもらった一つの投書から執念で捜し当てた彼女の不遇を知り陰から支え続けていることとして同じ場面をもう一度なぞります。じっさいのところ、互いがそういう裏表になっているだろうことはわりと早い段階(サンタクロースでわかっちゃうじゃん、はご愛敬。)でわかってしまいますから、謎解きというよりはわかったうえでなぞってディテールが肉付けされていく楽しさという感じか。終盤のこの謎解きは、あくまで回想シーンで時間が飛んだりはしてないのだけれど、不思議とクロノスの物語を思い出すあたしです。それは「会いたい人に会うために懸命」な人のすがたがそれを連想的に想起させるということなのかもしれません。
脚本家を演じた原田樹里が実にいい。元気いっぱいというよりは、きちんと仕事に向き合い続け愛情をひた隠しにする大人の女性を繊細に。 作家を演じた大内厚雄は挫折から復活した力強さを内包しつつ、とぼけた雰囲気の造形が実に軽やかでよいのです。シェアハウスの住人の一人を演じた玉置玲央、なかなか売れない瞬発力のバネ、人々を気遣う気持ちの深さ。編集者を演じた森山栄治のちょっと怪しい山師な雰囲気がいい。ヒール役を背負う木村玲衣はなかなかな小悪魔感、コミカルを背負う岡田さつきのいろんな表情が楽しい。
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