【芝居】「小さな短編演劇祭 in 下北沢」世の中と演劇するオフィスプロジェクトM
2017.7.7 14:00 [CoRich]
女性の作家による短編三本、75分。9日まで下北沢スターダスト。戯曲販売のほか、演出家の手による朝採れ野菜の即売も楽しい。
販売店のバックヤードらしい休憩室、学生バイトの店員が隣のクラスの男に声をかけて連れてきた。万引きをしたらしいが、そんなに親しい訳でもないが互いには何となく知っている。「きみにときめく」(作・長谷川彩)
屋上で下を見つめる男、警備員が入ってきて飛び降りようとするのをみかけて制止する。止めたのはここから飛び降りた男だが、飛び降り、何かを後悔していることだけしか覚えていない。押し問答の末もう一度飛び降りようとする警備員を屋上に現れた女が止める「屋上のおとこ」(作・美崎理恵)
太っているとふさぎ込んでいる女の元に現れたのはしばらく会えなくなる親戚の女。税金で暮らし自分のしたいことを言わないように育てられた女は、人々の考えることをくみ取ることを強いられてきた。ふつうの人が経験することを経験できなかった。それも自分が天皇にあると思っていたからだが「水の器」(作・河田唱子)
「きみにときめく」は 勉強ができて裕福な同級生の嘘を見抜くアルバイトの男。嘘で人の人生を台無しにするような人物にわくわくする、という性癖を持つ男、ある種キツネとタヌキの化かし合いというか、ヘンタイとキチガイのBLもののようですらあります。そういう特殊な性癖に惹かれてしまうどうしうようもない人という体裁。その性癖をを補強しようとして、兄にレイプされたという女が結婚まで追い込む話を同じ臭いがすると挟むけれど、物語のほかの部分に匹敵するぐらいに長く、だれる印象があってもったいない。特殊な性癖で惹かれあうふたり、みたいな感じで押し切るのは珍しくてちょっとおもしろい。
「屋上の男」は屋上に集う三人というフォーマットだと名作もあるけれど、もちろんそれとは関係ない物語。きっかけとなるのは、死にたいと思い詰め屋上にやってきた警備員だけれど、物語の中心はかつてここで自殺した清掃員、それを思い出した恋人。自殺した男の亡霊が死の淵の警備員には見えるのに、恋人からは見えないというのが構成の工夫で、その間をつなぐように警備員が終盤近く孤軍奮闘するのがちょっとおもしろく。その先で感じるのは、無いはずのペンキの臭い、女が再び警備員を制したことばが男に届き、亡霊となっていた男が姿を消す、というコンパクトな一シーンを丁寧に描いています。女を演じたこいけが現れてからが俄然物語りが回るように感じられ印象的。
「水の器」は女性の皇族をめぐり、女系天皇の議論を俎上にあげた物語。いわゆる皇族だったり政治のあれこれを茶化したようなところもままあるように描いてはいるけれど、実際のところ作家の問題意識の中心は(皇族で承継者の問題として)「女に生まれてごめんなさい」という台詞が象徴的に現している「この国で女性であることがつらい」ことのように思います。
それを女性の某大臣自身が「結婚すれば男系の仕組みの中で生きていける」とか「男系の維持こそがもっとも大切」とまで、少々道化のように言い切らせます。見た目こそゴーストバスターズのようなバックパックに黒眼鏡にタイツというクオリティと熱量の高いパロディだけれど、作家の冷静な視点はあくまで、この国で力を持つ一定の人々のある種の本音ともとれる視点からぶれることはないのです。
とはいえ、そのパロディっぽさや、大麻をめぐる首相夫人まわりのネタ、皇族の実名、はては女系の天皇を覚悟していたのに男子が生まれてみたいな話題をずばずばと放り込むのも、最近なかなか無い政治風刺の笑いという体裁でもあって楽しい。某大臣を思わせる女を演じた小杉美香の思い切ったクオリティの高さと突き抜けるテンションはちょっと凄い。
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