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2017.06.19

【芝居】「九回裏、二死満塁。」パラドックス定数

2017.6.11 15:00 [CoRich]

来年は風姿家伝での一年間のシリーズ上演が決まったパラ定の新作。 18日までテルプシコール。100分。

廃校になって数年が経った村立高校のグランド、当時の監督の法事に集まるに集まる野球部OBたちは四十歳になろうとしている。この野球部がたった一度甲子園に進んだ時のスタメンたち。 一回戦敗退のあと不慮の死を遂げた投手の話をするうち、キャプテンはあの奇跡の甲子園出場は八百長だったことを告白する。

集められた野球部OBたちの会話と彼らを見守るような二人の死者たちの現在を起点に、地方大会優勝し甲子園で敗退し戻ってきたあたりを中心にした当時のシーンを織り交ぜ、実にスムーズに時間を行きつ戻りつしながら物語が進みます。

あのとき、間違いなく時間を共有した野球部のメンバーもOBとなり一部は地元を離れ、野球部も高校そのものも無くなって徐々に遠い記憶となりつつある日常。それでも再会すれば歳をとっても当時と変わらないままのじゃれ合うことができるのは間違いなくあの時があったからだし、あれがあったからこそ、今でも言いたいことが言える距離感を保てていて。 その貴重な共有した時間すら失うことになりそうな、ずっと言えずに抱え込んできた秘密を打ち明ける決心は、時間が経ったからなのか、あるいは監督が亡くなり断ち切る決心ができたからなのか。

パラ定といえば、ワタシには史実を下敷きにその隙間の男たちの生き様を描くスタイルが印象深く、まったくの創作を起点にするとちょっと喰足りなさを感じるアタシです。当日パンフによれば作家は野球のルールすら覚束ないなかで書き始め、なるほど参考文献に挙げられるのもルールの解説とか入門書。結果、20年にわたるそれぞれの男たちの人生の時間の流れが濃密に醸された物語になっているのです。

地元に残ったOB(神主という設定が絶妙)を演じた小野ゆたか、軽さの中に学校と神社しかしらない、つまり地元しか知らない自覚の奥行き。 こつこつと歩む実直さが絶品。キャプテンを演じた植村宏司のまっすぐな造形は抱え込むことの説得力。デットボール王子を演じた井内勇希は人なつっこく、笑顔がかわいらしく、大人になっていてもこの野球部の裏を最後まで知らなかったイノセントな立場をしっかり。ホームラン打者を演じた西原誠吾はきちんと野球に向き合い続ける人生の説得力もさることながら、高校生時代のシーンでふざける姿が実にいい。投手を演じた皆上匠は初めて拝見するけれど、高校生時のまま時間が止まったような若い雰囲気がまた深みを。監督を演じた佐藤誓はもちろん抜群のプロフェッショナル、この規模の劇場だからこそ伝わるちょっと困った時の細かな表情もまた贅沢に楽しめるのです。

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