【芝居】「愛でもないし、youでもなくて、ジェイ。」アナログスイッチ
2017.4.30 14:00 [CoRich]
30日まで王子小劇場。125分。
東京から母親の介護のために地元に戻った男を囲んで、高校の同級生がキャンプ場のバンガローに集まる。地元で仕事をしている人々、結婚を決めた人、東京にでている友人の一人も飲み会に参加することに決める。
アイとかユーとかジェイというタイトルは絶妙で、東京と地方の就職のありかたであるIターン、Uターン、Jターンを象徴的に物語の骨格に据えます。高校を卒業してしばらく経ち、仕事の行き先とかこれからの暮らしとかを考え始める年代ゆえ悩むこと。東京に出たもののおそらくはあまり芽が出ないまま地元に戻ることを決めたり、東京で仕事し続けていたり、地元で就職はしたものの、もっと可能性が欲しくて東京に出て行こうと決めたり、もちろん地元で就職し暮らし続けていたり。
いわゆる首都圏に生まれ育ちそこで仕事をしているアタシです。いわゆる地方に暮らしたことはあるので片鱗は感じられても、正直に言えば生まれ育った地元での仕事の幅がなく東京に「出て行く」就職観は実感としてはわかりません。それでも今作、さまざまな人々のありかたを重ね紡いでいく物語に奥行きがあることはよくわかります。
少なくはない役に対してそれぞれの物語を背負わせた上で、主軸となる地方と東京について、それぞれの役にきちんと視点を持たせ、しかもちゃんとそれぞれの物語に一応の決着をつけるというのは並大抵のことではありません。
コミカルなシーンも多いけれど説明しすぎない絶妙さで濃密なのです。たとえば、サプライズの仕掛けをたまたま事前に見つけてしまうけれど言い出せないまま、迎えるサプライズの瞬間に起きる別の混乱。一つのほころびが玉突きのように戸惑いや混乱を引き起こすことで駆動される物語は笑いも多いし、わくわくもするのです。
ここで生まれ育ちここで生活するか出て行くかという選択に加え、他で生まれたが結婚に伴ってここに引っ越してくるという軸がもう一つ描かれます。一人嫁いできてこの場所で暮らす妻と、ここで生まれ育った夫。周りはもちろん良く接してくれるけれど、それまでの積み重ねがモノを言うコミュニティの会話に入れないこともある寂しさ。この物語にもきっちりと決着を付けるのです。
東京から戻った男を演じた秋本雄基はナイーブな造形、実は中心にいて巻き込まれる側の描かれ方だけれど、フラットさが巧い。東京で頑張る男を演じた斉藤マッチュは圧倒的な存在感で攻め続けている人物の説得力。東京に出て行く女を演じた前園あかりもまた前向きな気持ちを内に秘めた造形が魅力的。送れて現れる男を演じた野口裕樹はコミカルに徹し強力に物語を転がします。恋心を秘めた男を演じた熊野利哉は終盤の存在感が凄い。バンガローオーナーの夫婦を演じた泉政宏、Q本かよの円熟、しかしまだ現在進行形で進む生活を持つ二人の説得力。
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