【芝居】「はたらいたさるの話」きらら
2017.5.19 19:30 [CoRich]
去年熊本と福岡で上演された作品。ワタシは初見です。珍しく勢い余って二回拝見。21日まで王子小劇場。そのあと宮崎。
会社をクビになった中年の女はうどんの自販機がある国道沿いの店に通っている。面白がる中年の男の紹介でスーパーで万引き防止の私服警備の仕事に誘われる。同じ日に寸借詐欺をしようと話しかけてくる若い男とその彼女らしい金髪の女とも出会う。
スーパーで万引き客を監視する中、あの金髪の女が商品を棚に戻している。事情を聞き家を訪ねるとおびただしく汚く、親から戸籍を分けたいといっている。若い男は就活中でいいところまで進んでいるが、潔癖性。中年の男はバツ3でふらふらとしている。
この世界の片隅で不器用に、しかし本人たちは至ってまじめに生き、暮らしている二組の男女。若い男女には親との距離感を常に感じながらの不器用さを描く役割で、男女の関係も何かのきっかけでつながりあうものの初々しさ。中年の男女には生きていくための仕事がより切実なものとなるのは一人で生きていくからで、男女の距離感はあれこれ知ってしまっているからむしろ簡単には踏み込めず、むじろストイックな関係に描くのがおもしろいし、二つの年代でのそのギャップがやけに説得力を持つと感じるアタシです。これをカップルの愛情の物語に観てしまうアタシはちょっとゆがんでるかもしれないとおもいつつ、めずらしく速報ツイートしてしまうのです。
働くことのみならず、生きていくことは何かをまねて、最初は心がこもっていなくても、それはめげずに繰り返し繰り返していくうちにサマになっていくということ。後半で童話として語られる「はたらいたさるのはなし」は山で木を切り金を手にして食事にありつく人間を見てそれを真似しても誰も金をくれなかった猿、という話で、しかしその失敗があったとしても繰り返すのではないか、繰り返していくうちに何かを手に入れるのではないか、と続ける中年の男の奥行き。
それにしても、「戸籍を分けたい」とか「液体と化した野菜に沈むレシート」とか「写真を撮られるためのぎこちない笑顔」とか「病気になった金魚に熱湯をかける」とか「するときにいちいちすべてを確認する」など、ちょっとずれてるような、しかしやけにリアルな描写の一つ一つがちょっとおもしろく、しかも切実さを感じさせる見事さ。
ハンバーグにまつわる女二人のシーンが好きです。 若い女がハンバーグを作ろうと思い立ち、クックパッド通りにフライパンまですべてを新しく誂え、その通りにつくろうとするもちょっとした失敗ですべてを投げ出そうとする。中年の女は目分量で適当に作っていって、拒否しようとする若い女にやや無理矢理に作らせて食べさせるくだり。ちょっとした失敗にくじけずに乗り越える図々しさをまるで教えているよう、一回で諦めないで何度も繰り返していくことを教える、という雰囲気が芝居全体の雰囲気にもよくあっているのです。
語り部を兼ねる中年の女を演じたオニムラルミは、心折れる序盤から元気になったり凹んだり、恋したりという振り幅が楽しい。若い男を演じた磯田渉は、ちょっと頭良さそうというかいいとこの子、いろいろなことが起こりすぎて処理できない感じも若い役をきっちり造形します。中年の男を演じた有門正太郎、ふらふらしてるようできっちりブレない強さ、その視点からの台詞、「おまえ、おもしれぇな、」が序盤で圧倒的な印象で、それが終幕背中で語るシーンまできっちり持続するのです。若い女を演じた、はまもとゆうかは金髪でジャージのようなツナギという出で立ち、台詞にもあるけれどわりと美人なのに笑顔がぎこちないという落差、ロビーで見かけてみれば普通に会話ができる女性、役者の凄さ。この世界をかき回すのは実はこの若い女なのだけれど、それをきっちり背負うのです。作演を兼ねて母親であったり、万引きした老婆の声だったりを演じた池田美樹はもちろんこの小さな世界を操りサポートし。二日続けて通ってトークショーも二回観られて嬉しいアタシです。
役者の写真を入れた白黒の当パン、実年齢がわかるように役者の誕生日を入れるのは物語の奥行きを補強するようだし、じつはとてもいいなと思うのです。
| 固定リンク
« 【芝居】「60'sエレジー」チョコレートケーキ | トップページ | 【レビューショー】「日本国 横浜 お浜様 〜yokohama music revue show〜」もじゃもじゃ頭とへらへら眼鏡 »
「演劇・芝居」カテゴリの記事
- 【芝居】「ハッピーターン」劇団チリ(2024.09.29)
- 【芝居】「昼だけど前夜祭」劇団チリ(2024.09.16)
- 【芝居】「朝日のような夕日をつれて 2024」サードステージ(2024.09.08)
- 【芝居】「雑種 小夜の月」あやめ十八番(2024.09.01)
- 【芝居】「ミセスフィクションズのファッションウイーク」Mrs.fictions(2024.08.30)
コメント