【芝居】「60'sエレジー」チョコレートケーキ
2017.5.14 19:00 [CoRich]
人気劇団の割にはあまりアタシは拝見できていないチョコレートケーキの新作。140分。大型連休に3回の週末を含み21日までサンモールスタジオ。
独居老人の死の現場に立つ刑事と警官。遺書らしいノートには上京した頃の事が書かれている。
東京オリンピックを控えた東京の下町、社長とその妻、社長の弟とベテラン職人が働く蚊帳工場に会津から集団就職で上京した少年を迎える。仕事を覚え認められるうち、子供の居ない社長夫婦は息子同然に思うようになり、高校に通わせたいと考える。時代は進み、蚊帳の販売はじり貧になっていく。
次のオリンピックが迫る東京の独居老人の死を物語の起点とある種の救いを持たせつつ、全体として描くのは高度成長に沸く東京で、衰退し幕引きとなるひとつの工場の人々と、その中で成長していった一人の青年の物語。 世間の成長とは違う営みで、しかし人々はちりぢりになってもそれぞれ生きていく姿の十年を通して描きます。人情厚く世話好きでけんかっ早く。いわゆる下町の人間をベースに。
上京した金の卵が学生運動にかぶれていく、という昭和の物語は、正直にいえばわりと早々に見えてしまいますし、蚊帳づくりの十年となればそれが落ち込んでいくのもわかったこと。その中で人々がどう生きたか、ということを描くということはよくわかるけれど、衰退のなすがままに人減らしに会っていく人々を描くので実はそうそう突飛なことは起こらず、いわば予想通りに進みます。
現代を起点とするもう一つの物語にはもう少し仕掛けが用意されていて、実は独りではなかった、ということを描きます。ずっとここに住んでいたのか、あるいは独りになって戻ってくるようにここに来たのかはわからないけれど、そこには救いがなくて、ほろ苦いともちょっと違うテイスト。
東京オリンピックというキーワードで二つの時間を結びつけようという視点はもちろんわかるし、それはかつて何かを捨ててきたのと同じように現在も何かを捨てようとしているのではないか、という相似形を描こうとして意図もわかるけれど、現代パートの比重が少ないので、回想しているだけにも見えてしまうようで、現代の私たちへのノスタルジー以上のインパクトには少々欠ける気がしてなりません。
若い役者や作演が現実には肌感覚として理解出来ないであろうこの時代の風情と心意気を描き出していることは間違いなくクオリティが高くて(口調をあの頃の映画風にする必要はあるのかよくわからないけれど)、そこだけで十分エンタテインメントとして面白いのだけれど、彼らならもう一歩も二歩も踏み込めそうだとも思うのです。少年を演じた足立英は若い純朴から学生運動で少々ひねていくところまでという振り幅の広い成長期をきっちりと。ベテランを演じた林竜三は不器用な心意気とでもいうような造形で説得力を。社長を演じた西尾友樹のがらっぱちさと人情の厚さな造形、あるいは妻を演じた佐藤みゆきも下町の気っぷの良さとでもいう女将さんな雰囲気が楽しい。何より、弟を演じた岡本篤、とりわけ工場を辞めるまでのシーンでの下町の若者感が実にいい味わいで、そのまま寅さんの世界に出てきそうな厚みを感じるのです。
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