【芝居】「空と雲とバラバラの奥さま」クロムモリブデン
2017.4.22 18:00 [CoRich]
30日まで吉祥寺シアター。そのあと大阪。
樹海といってもいい山奥の村。
毒を流してイワナを捕る漁の実験をしていた男は誤って近所の男を殺してしまう。偶然居合わせた男の入れ知恵を受けて逆に殺されかけたと村に戻り、行方不明にした男の家族に償いをもとめてその娘を嫁にとり、家族を奴隷同然に扱う。やがて、この村にはこの家族だけが取り残され、全国各地から行き場を失った犯罪加害者の家族が進んで使用人となり暮らし、出産や会話、妾などの分業をさせてるため妻を何人も娶って暮らしている。
事件から半年が経ち、半年前にこの場所で偶然撮影された事件の現場のカメラを探し男たちが村を訪れる。
平等が正しいという世の中にたいして、女たちに特定の役割しか与えず越えられない壁をもつことで維持する大家族。描写は極端だけれど、大きな家族を自力で維持させることを望むとこうなる、という一つの形。当の女たちも皆がそれに不満というわけでもなく。声高に訴えるわけではないけれど、いびつに維持された世界のいびつなあれこれ。男は自ら望んだのに、そのいびつな世界にわずか半年で飽きてしまうある種の幼さが際だつのです。
カメラには事件の真実が記録されていたかもしれないというミステリめいた話は、終盤のわちゃわちゃとした騒ぎの中でカメラのSDカードが破壊され、謎解きはあっさりうっちゃられ、妻の一人に生まれた子供が天高く放り投げられ、それぞれの人々の腕の中に抱きしめられます。この終幕から直接何かを読みとるのは困難で、それぞれの中に生まれた何かの希望かもしれないと読みとるのは踏み込みすぎなのかもしれません。
このちょっと狂った世界を大きく包むのが、子供を産めず月日を経て会話を失った夫婦がやってきた樹海での悲劇。死体を埋めることを唆し、物語の所々で方向付けを行うこの男の心の中の風景のようにも感じたりもしますが、これもまた踏み込みすぎた解釈かもしれません。子供を産む女と死体を埋めることを唆した男が時折すれ違うふたりきりのシーン。どこかほっこりするこのシーンは、なくなった妻に少し似ているというつながりの向こう側に、樹海の悲劇に至るこの夫婦の間にかつて流れていた時間を描くよう。そこには優しさあふれる時間しかなかったはずなのにこうなってしまったという悲劇と。 高いテンションと大音響とリズムで紡がれる終盤は明確な解釈よりも、心に直接響かせる何かで心を揺り動かそうとするこの劇団の一つのかたち。ワタシにとってはちょっと苦手意識のある形ではあるのだけれど、この作家と役者たちが紡ぎ出すものは確かに独特で、それを圧巻でみせつけるのです。
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