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2017.02.08

【芝居】「銀杏(シルバーアプリコット)はだれのもの」空飛ぶペンギンカンパニー

2017.1.29 15:00 [CoRich]

横浜の劇団。ワタシは初見です。29日まで100分。青少年センター多目的ホール。

静かで小さな町の神木に宿る妖精というキャラクターのバーチャルアイドルがネットで評判になっているがその作者は明かされていない。地域振興に役立つと目を付けた役場の職員は神木をめぐる町の祭りの目玉にしようと考える。
神木を代々守ってきた宮司はその周りでコスプレ撮影をするファン苦々しく思っている。いっぽう古くなり朽ち始めている神木をめぐり補強工事を請け負いたいと考える造園業者はその隙につけ込もうとする。

アニメやドラマで聖地とされるモデルとなった場所のツーリズム。面白いと持ち上げたかと思うと手のひらを返したようにdisるファン、その人気を利用したい大人の事情や地元の戸惑い、その作品を作るクリエイターの純粋さとその後のバランス。ニュースやネット周りでその喧噪や混乱や思いを目にはしていても、それを問題意識として取り上げ、どちらの側にも斟酌しながら物語として作り上げたという意味では作品の見え方とは裏腹に割と社会派な印象。どこにでもある問題ではないけれど、おそらく日本の(もしかしたら世界中の)あちこちで起きているかもしれないことを現在の私たちの視座で丁寧に作り上げているのです。

面白いものを作りたいという一心で作ったボカロ動画が人気を呼ぶ。それを作った男は日常生活では地味で目立たないけれど、その作品をすてきだと云ってくれたのが職場の憧れの先輩だったり、あるいは眩しいぐらいに社長業をこなしている同級生だったりという主人公のポジション。あるいはその土地で神木を守ってきた母親とそれを受け継ぐことを定められた娘。あるいは地元は好きじゃないけれど戻ってきて結婚して地味な日々を送ること。地元を好きだと思う気持ちもこの土地を嫌いだとおもう気持ちもないまぜにしたのも巧いアングルなのです。

ネットと現実の境界領域で起きた小さな事件は、一足跳びに個人の危機があっという間に拡散するという私たちの日常と地続きになったもう一つの現実もきっちりと描き込みます。金をとれるところから嘘をついてもとってもいいという旧来の価値観と、若社長が信じることの衝突というのももう一つの社会の現実。

どれか一つでもわりと社会派な話題だけれど、いろんなそれぞれを矛盾無くまるで弁当箱のように詰め込んだのは作家の手柄でしょう。田舎の狭いコミュニティという舞台を逆手にとって、たとえば造園業の娘のようにコスプレ側と地元側の役割を背負わせて人数をあまり増やさないのも結果的には成功しています。

ボカロ作家、工務店の若社長、神社を受け継いだ娘、明確に次の世代へのバトンが渡されたことを示すラストシーン、すがすがしいほどに大団円を感じさせ、次の世代が本格的にスタートしたことを明確に示していて、わかりやすくてかっこいい。

当日パンフは配役とそれぞれの関係をチャートで見せていてわかりやすい。物語のキモとなるいくつかの関係を載せないけれど、それなりに近い位置にかいてあったりして巧くできています。

バーチャルアイドルの中の人を演じた山之口晋也は地味だけれど想いを秘める男をしっかり。その憧れの先輩を演じた善村彩代はどこまでも前向きなヒロインらしさ。真っ直ぐな同級生を演じた菊本亘孝、清濁あわせもち老練な先代社長を演じた佐藤高宏も魅力的。ほぼ一人ヒールを担う宮司を演じた石田亜希子は芝居全体の雰囲気に対しては難しいポジションだし若い役者だろうと思いますが、ここをしっかりと踏ん張っていて物語が締まる気がします。

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