【芝居】「こんこん」「跡」世田谷シルク
2017.2.17 19:30 [CoRich]
19日まで関内のシェアオフィス・さくらWORKS。初演となる無言劇+2012年初演作で140分(休憩10分)。
引っ越してきた家に赤ん坊が生まれる1950年。ビートルズを聴き、女の子を家に呼んだり、結婚や離婚したり、娘が結婚したり猫と暮らし。2040年まで「跡」
目覚めた男、気がつくと妻は狐だった。驚いて飛び出し落ちた穴の中で古い家に住む妻に会うが貧しい。その中で餌を与えた狐が恩返しにやってくる。「こんこんこん」(初演時、 「Kon-Kon、昔話」)
「跡」は 一人の男を中心にして、赤ん坊から死ぬまで、周りの人々や状況の変化を早送りあるいはモーフィングのように描く一本。まだ戦後の色濃い1950年から着ているものが変わり、ビートルズが現れるという世の中の変化と、結婚し娘ができるが離婚し、あるいは母が亡くなり姉と再会し、自身が介護を受けという自分の変化。一人ギターをつまびく男、奥で跳びはねる女たち、という躍動のシーンを2017年の現在に置き、さらに先、一人で暮らしロボットに介護を受ける未来をも見据える2040年までを描きます。
無言劇は少々苦手なアタシですが、全体にテンポがよく短いシーンの連続であることや、どこかコミカルさが随所にあることもあって、思いの外飽きずに観られます。現在がもっとも躍動し、未来は静かではあっても少々寂寥を強く感じさせるように描くのは作家の何かの実感なのか、あるいな一人いきる男への客観視かはわからないけれど、娘も妻もないアタシでもちょっと身にしみるのは、ちょっと体の自由が利かなくなる実感がぼちぼち出てくる年代ということなのかもしれません。
男を演じた伊藤毅はコミカルさが強い印象の役者ですが、しっかりと真ん中に居続ける強さを感じさせる一本。とりわけ、娘が訪ねてきて結婚を告げるシーンの父親の表情が奥深く印象に残るのです。
再演となる「こんこんこん」、 初演では堀越涼が担った冒頭の落語からほぼすべてを再現した印象。不思議な国のおじさん、というおじさんをめぐる昔話のアソートという感じでもあるけれど、芝居用ではなく自由の利かないシェアオフィスという場所の上演でもそれにあわせたポータビリティが生まれた気がします。 もうひとつのポータビリティはマンガの放射線や効果音を動くついたてのようなものに写してちょっとコミカルに、テンポに変化を加えることで、これもいいスパイスになっています。
自分の子供を毛皮にして売っている母狐、あるいは恩返しに訪れた娘を吉原に売り飛ばしてその金で家を立て替えて暮らしていることなど、ポリティカルコレクトネス的にはまったくNGな昔話は、たぶんかつての現実の一面を核にして描く物語。娘が亡くなってるというのに感謝すらせずに改築した家にさぞ当たり前のように住む妻を前にして静かに絶望し絶命する男、実はなくなっていなかった娘が戻ってくるのもまた絶望なのです。
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