【芝居】「エキスポ」トローチ
2017.1.22 14:00 [CoRich]
道学先生で2001年初演作(未見)、劇団外での上演も多い人気作。ワタシはハイリンドによる2012年の上演を観ています。 135分。29日までRED/THEATER。
宮崎の田舎町、食堂と連れ込みで昼夜働きづめで亡くなった母親の通夜、父親も息子も使い物にならず、二人の娘も口ばかりで長男の嫁が仕切っているけれど、弔問客がどこの誰かも判らないなか、母親が抱え込んでいたであろう日記帳の秘密やなぜか一人分足りないまま申し込まれていた大阪万博旅行など、いくつもの謎やきっかけを仕込んだ物語。家族どころかその町の多くの人々が亡くなった母親のことを好きで感謝しつつも頼っていたのだということが描かれるのです。
ハイリンド版ではシンプルにシンボリックに作られたセットやスクリーンを使った投影で万博の風景を描き出しますが、今作ではセットはしっかりと建て込まれ、最後の万博の風景の描写もテレビを観ている一人、という余韻を強く残すのです。
役者の顔ぶれも演出の方向も随分違う気がするけれど、物語は実に強固で揺るぎません。少々登場人物が多い気はして、もう少し絞り込んでも良さそうな気はしつつも、2時間を超える上演時間がまったく気にならないぐらいにぐいぐいと引っ張るのです。
2012年の時点ではあまり気にならなかったけれど、2016年のワタシには1970年の地方での同性愛の置かれた厳しさがより強く感じられます。どちらかというとコミカルな描かれ方なのは現在の芝居としては少々気になるけれど、初演のわずか16年前からの感じ方の変化かと思ったりもするのです。なかなかこの題材は古びずに描くのは難しいところだけれど、それをも優しい視線で支えて居た、という物語の根幹の強さはここでもむしろより印象的なのです。
何もかも仕切る長男の妻を演じた小林さやかは、よそからやってきて働きづめ、登場しない母親の姿をどこか思わせる厚みのある役をきっちりと演じきります。出戻った長女を演じた浅野千鶴もまた居ない母親の親しみやすさの一面を醸し出します。象徴的な大正琴のシーンも実にいい。 長女の同級生でしっかりとした葬儀屋を演じた永山智啓、ちょっと軽くてしかし押さえるところは押さえて。長女が一瞬恋心を抱くシーンがよくて、格好よく、それを悪意なく結婚してるといなす軽やかさも実にいいのです。 正体不明で酔っ払い続ける男を演じた、山口雅義は笑ってるのに不穏さがにじみ出るという役、実に巧く。 東京に出たい三女を演じた納葉、可愛らしく負けん気強くて。
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