【芝居】「4センチメートル」風琴工房
2016.12.23 19:00 [CoRich]
紀伊國屋演劇賞の受賞など詩森ろばへの評価の高かった一年の締めくくり。車いすを搭載する福祉車両の開発を巡る物語なのに音楽劇という形式で130分。29日までスズナリ。
日本でも有数の自動車メーカー。車いすで生活する娘を持つ福祉車両担当のリーダーは、養護学校でのフィールドワークを通して、車いすの子供の乗降にかかる母親の負担を軽減する福祉車両の開発を続けている。
廉価なコンパクトカーをベースに車いすを車両後方から乗せつつ運手席からのケアが可能な1.5列目位置への固定、デザインとのねばり強い交渉から勝ち取った4cmのクリアランスupなどの課題をクリアしてきた。製造コスト低減を狙い特殊車両工程ではなく通常の組立ラインでのインライン架装を提案するが、コストと効率を最優先とする社風を実現してきた工場長は強く反対する。
今ではトヨタの多くの車種で用意されているウエルキャブ(福祉車両)のラインナップの最初となったラクティス福祉車両の開発ストーリーの要素を組み合わせて作られています(wikipedia)。実際の車では1.5列目シートと4cm車高は別の世代で導入されたりしたようなので、そのままというわけではないようです。企業に限らず組織で生きる人々の現場を描かせると圧倒的なリアリティをもって描く作演の力は圧倒的なのです。
音楽劇、という形式は正直に云えば物語の要素に対して時間が長くなるけれど「4センチメートル」についた節回しを繰り返して印象を作り上げること、問題点を抽出して提示する序盤、最後の最後は理詰めよりも心に訴える物語の構成にはうまく機能しています。ちょっとこまつ座な風味を感じるのはなるほど。
父親とリーダを演じた杉木隆幸、格好良くて優しくて、狙い所をきちんと狙い澄ます会社員をしっかり。娘を演じた ししどともこは、恋人に対して積極的の格好良さ。母親を演じた田中千佳子はとても素敵で、娘との二人のシーンがとてもいい。「車いすごと貰ってくれる」という台詞の破壊力や元経理という設定は作家の力だけれど、その表情の豊かさは役者の力。
あるいは恋人を演じた佐野功はしっかり王子、なんせ、お姫様だっこでカッコイイし、ロボ的なメカが楽しいというのも理系男子っぽい設定でいい。元デザイナーを演じた小玉久仁子はもちろん決めポーズの破壊力だけれど、流動食のために学校に戻るという母親のシーンも細やか。 担当デザイナーを演じた酒巻誉洋は与しやすくて真っ直ぐな気持ち。あるシーンのルンバ役ってのも楽しい。その上司を演じた根津茂尚はもちろん慎重、向き合って信じられれば手を尽くす責任感の説得力。元はデザイナーで今は工場で在庫管理というエンジニアを演じた三原一太はRPGの終盤に現れる賢者のようで希望の光。工場長を演じた寺井義貴、効率と規律を実直に続けることもまた正義というのはもちろん真実。ゲームで云えばラスボスの圧巻さもまたカッコイイ。
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