【芝居】「さようならドコニ村」肯定座
2016.12.10 18:00 [CoRich]
肯定座の新作。サスペンス仕立てのしかしファンタジーな85分。11日まで梟門。
小さな町、理容室を営む夫婦は夫がイケメンで大好き過ぎてスナックの女との浮気を心配している。悩みを抱えたまま真っ暗な川辺で独り悩みを抱えていると、倒れている男を発見する。男は記憶を無くしている。
都会に出ていた一人息子が戻ってくるのを喜ぶ酒屋の父母、とりわけ母親は息子を溺愛している。戻ってきた息子は田舎が嫌で仕方ない。スナックの女の妹は幼なじみの男のことを実は気に掛けているが両親の暴力のトラウマで先に進めない。
町の住人の一人が趣味で飛ばしていたドローンで山の中に死体らしきものを見つけるが、その場所を探してもそれらしいものはない。
夫が好きすぎるけれど子供ができないまま歳を重ねてしまった妻。もう夫は身体を触れてくることもないという寂しさとは裏腹に、夫の子供を残したいとまで切実に願う気持ちは、浮気相手と疑われるスナックの女にそれを頼もうというところまで追い詰められています。両親からの暴力の記憶故に結婚しないスナックの女がどうしても信じられない夫婦や子供への愛情がそこには間違いなく存在していてというコントラスト描き出します。スナックの女が実は女にはフラットで頼りがいがある、というキャラクタもうまく効いています。すこし後のシーンでワタシばかりが好きでと訴える妻の手を夫が優しくリードして優雅にダンスを踊るシーン、小劇場ではなかなかない長さのシーンで二人の深い愛情を描くのです。
のんびりと暮らす人々の小さな町で起きた、記憶を無くした男と姿を消した死体というサスペンス風味の要素が物語を推進します。このサスペンスの解決策として登場する天狗や貧乏神というアイテムは、それ自体は確かにサスペンスを解決するのだけれど、これ自体は少々唐突で生き返らせるというのはサスペンスの解決策としてもイマイチです。が、この唐突なファンタジーを理容室の夫婦の愛情の物語をもう一歩ファンタジックにするための仕掛けにするのです。理容室の夫がかつて一度は命を落としていて、それを生き返らせた、ということが終幕でさらりと語られるのだけれど、なるほど、生き返りということが成立するファンタジーの世界ゆえにこの夫婦にあったもう一つのファンタジーに想いを馳せ、そして叶う夢で終幕を迎えるのです。
夫を演じた安東桂吾はやけにいい男の役が続いた今年だけれど、とりわけイケメンで愛情たっぷり、ずっとそこに居る安心感のあるキャラクタ。妻を演じた舘智子は年齢を重ね女としての期限に揺れる大人をしっかりと。スナックの女を演じた平田暁子はなかなか観られない色っぽさも魅力、妹を演じた佐藤有里子は不器用さと男勝りという不思議な造形の役を印象的に。警官を演じた椎名茸ノ介は物語そのものに大きく関わるわけではないのだけれど、ややおネエの入った、しかし丁寧で細やかに気遣うというシンプルで安心感を与えるポイントを押さえていて印象に残ります。
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