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2016.12.31

【芝居】「Dressing」fablaboプロデュース

2016.12.18 18:00 [CoRich]

2011年5月にエビス駅前バーで上演された作品(未見)に、続編となる「Dressing Up!」を追加して交互上演。19日までシアターミラクル。60分。

震災で店が被害を受けて、小さなバーを借りて臨時営業しているガールズバーの回転前。六本木・銀座などでホステスをしていた女が新しくスタッフとして加わる。実は伝説のホステスを追い、この町にいることを突き止めたのだ。学生や美容師の夜のアルバイト、ほわんとした雰囲気なのにナンバーワン、動画サイトやケータイ小説で人気のアニメ声などさまざまなスタッフを束ねるのが、女性のバーテンダーと家庭料理を出すママだった。

若い学生のアルバイトから社会人副業、水商売で生きていく女、あるいは夫あり子持ちでホステスからは卒業した女、おそらくは同じような道を辿ってきたママ。女の生きざまあれこれをショーケース。少年ジャンプのような熱さだったり、男の取り合いだったり、あっさりのナンバーワンなどいろんな属性をそれぞれに組み合わせることで短い上演時間のなかに濃密なそれぞれの人物を立ち上げるのは作家の確かな力。

青山四大と短大の確執と男の取り合いだったり、何でも器用にこなす女が煙草を止められてるのに止めないちょっと世間をなめてる感じだったり、あるいは女にモテる女の颯爽とした感じ。ほわんとして見えてナンバーワンなりの努力。感情労働といわれる水商売をそれでも日々乗りこなす女たち。

探されていた伝説のホステスが実は店を実質的にコントロールするバーテンダーで、尾ひれがついた武勇伝だけれど、枕営業も泡姫までもは真実で、それが「落ちていく」からではなく、単にセックスが好きだったというあけすけな感じはちょっと面白い。彼女に限らず、水商売や風俗を後ろ暗い商売と考える向きもあるけれど、今作では全ての登場人物が前向きに捕らえている、というのがこの物語をパワーを生み出しています。

伝説のホステスを探す新人を演じた川島佳帆里はそれこそ少年ジャンプのようなパワフルさで序盤を引っ張ります。役そのものでは無いけれど、スタイルの良さに目が泳いでしまうアタシです。バーテンダーを演じた加藤なぎさはずっと見つめる大人とその裏側の壮絶な厚みをもった役をしっかり。ママを演じた中谷真由美はコミカルに引っ張るけれど、肩の力が抜けた感じが、この店にスタッフが居着く雰囲気を創り出します。

ミラクルではめずらしくしっかりとしたセット。雰囲気あるバーカウンター。エビス駅前バーがリニューアルして今までのような演劇公演ができるかどうか怪しい昨今、扉の位置関係などこそ異なるけれど、このセットを使い回してあの場所ゆえに創り出され上演された名作の数々をアーカイブ的に再演できそう。

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【芝居】「どこまでも行けるのさ」第27班

2016.12.18 17:00 [CoRich]

鉄道路線とそこで暮らし乗っている人々を描く劇団の人気作をまとめて上演。アタシは中央・総武線と銀座線を描く二人芝居二本立てのCバージョンのみ。70分。21日まで新宿眼科画廊。

姉が妹を訪ねて上京してくるが、東京駅に迎えにいく朝は寝坊して迎えに行けない。姉は自力で高円寺を目指そうとするが、すれ違う「中央・総武線編」
女の実家の浅草に行くために男と二人、渋谷から地下鉄に乗る。「銀座線編」

「中央〜」は上京して地理に疎い姉が駅を間違えまくってすれ違う序盤。高円寺と高尾など少々無理筋なネタもあるけれど、東京駅から高円寺に移動するだけなのに多摩や千葉へ大きくスイングする物量作戦。徐々にみえてくるのは、地元が嫌いで飛び出し上京して数年が経った妹を呼び戻すためにやってきた姉という構図。上京の気合い、夢破れて地方に戻るみたいな構図は少々ステロタイプに過ぎる気もするけれど、30分のうち前半は笑い多く、後半をしんみりとするおかげでごく短い物語に見せるのは上手い方法。
序盤での電話、観光かといえばそんなわけないと答える姉、理由はわかってるはずなので少々ミスリードな気がするとか、あるいはトランクを返すと言って上京した妹、同じトランクを持って上京する姉というつながりに少々ひっかかる(台詞がやけに重く感じて、返さなかったと思い込んでしまった)のだけれど、そう大きな問題ではありません。

「銀座線」は渋谷から浅草に向けての各駅に止まるうち、シートに並んで座る男女が生きている時代が現在からバブル、高度成長、戦争と遡っていくのがポイント。そのカップルは初めてのデートから結婚の申込や子供ができたりと、おおむね順方向の時間軸になっているのもちょっと洒落ています。思いつきというか技巧の面白さがポイントなので、細かなブラッシュアップができそうな気はするけれど、東京では戦前に開業した唯一の地下鉄を選んだおかげで激動の時代を描けること、浅草から渋谷への一方方向の延伸を繰り返し他路線乗り入れもない路線を渋谷から浅草に向かって走らせることで時間軸にもうまく合致させるなど巧くやってるなぁと思うのです。

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2016.12.29

【芝居】「車窓から、世界の」iaku

2016.12.17 14:00 [CoRich]

2014年に兵庫県立ピッコロ劇団によって上演された作品を劇団として上演。兵庫からこまばアゴラ劇場、1月に三重。 90分。

住民の陳情で作られた駅のホーム。急行は止まらず駅前の開発も進まず乗客の多くは急行停車駅を利用していて、利用が伸びない。女子中学生三人が飛び込み自殺を図り二人は亡くなり一人は重傷で意識が戻らないまま二週間が経った。三人が通う中学はそれぞれ別だが、三人が所属していたガールスカウト団体が亡くなった二人のために「お別れの会」が企画された。
それに出席するために少女が通うクラスの副担任とその恋人、PTAの副会長、ガールスカウト団体のスタッフの三人の女が駅のホームで電車を待っているが、運転見合わせになっており電車は来ない。雨降りしきる中ホームの端で傘も差さずにずっと動かない男が居る。その場所は少女たちが飛び降りたその場所だ。

アゴラ劇場を幅広の横使いにして、小さな私鉄駅のホームという風情の舞台。自殺した女子生徒のことを思う大人たちの会話劇。現在の表の顔を知る学校の教師とPTAの副会長、三人が共通の知り合いだった子供の頃をしるガールスカウトのスタッフという三人の喪服姿の女たち。漫画や同人誌好きという、女子生徒たちのもう一つの顔と、その核となっていた男。

漫画描きと大人になりかけた少女たち、ゲスな関係と考えられがちな彼らを単純に断ずることはなく、ある種の気持ち悪さは認めた上で、漫画描きも含めた四人が未熟なままに、大人たちや世間からは隔絶したコミュニティの中に閉塞していたこと。それゆえに起きた悲劇だけれど 作家はそれを声高に断罪したり非難したりではなく、あくまで冷静に描き、大人たちは何が出来たのか、どうして自殺に至り、止められなかったのかということを寄り添うように描き、しかし結論は出ないままに終わる舞台は、観客にはずしんと重く、しかし同時に作家の誠実さにも重い至るのです。

未熟な男が、社会に埋没しそうな自分を見つけだしてほしいということに対しては、一歩を踏み出さないことを強くしかりつけるよう。断罪とは違う、これも誠実な描き方なのです。

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2016.12.28

【芝居】「組曲『遭遇』」空想組曲

2016.12.11 18:30 [CoRich]

2008年作の劇中劇を再構成。 10本を超える短編からきっちりと編み上げる120分。14日までサンモールスタジオ。

星を見上げているとUFOが落ちて、宇宙人が現れる「未知との遭遇#1〜#4」
猫を殺された友達を元気づけたい、再生させたい「メモリアルブルー」
作家と妻、迷走していて、オビに合わせて小説を作ったり、改訂してる。自信がなくなってる。おもしろいと云ってくれた最初の読者が居なくなって「作家が目指した銀河の果て」
今週食事に誘ってくれた男のところへ行きたい、でも終電はとっくになく、タクシーはもったいない。悪魔のような羽根でもいい。 「翼をよこせ」
イヤなことがあってもあの人は撃ってくれる 「ありがちベリー」(日替わり演目)
学校で男たちがみんな告白してくる、娘を亡くした母親が「ジュンコに捧げる愛の歌」
友達は居ない。母親の虐待、弟は空が青いといって逆鱗に触れてベランダに出されて死んだのに、僕は何も出来なかった「僕と君との二人芝居」
流星というリンゴを取って、かじって王子様が来たり、ゲストにも王子様が来たり、もう一回リンゴを採ってかじったけれど、誰も来ない。待って、探してみる「スノーホワイト・ランデブー」
エイリアン、腹から生物が食い破って、という手、という競技「さぁ、手をつなごう。」
クイズ、作家二人がシチュエーションを作る「フィクショニア」

マンガ原作やイケメン芝居など、大きな劇場外部での作演が増えてきた作家の舞台を拝見するのはずいぶん久しぶり。それぞれにフィールドを広げる小劇場の役者たちと作り上げる小さな空間での短編集の濃密さ。

思い悩む少年と宇宙人の出会いをきっかけに、おそらくは少年が好きな少女から笑顔が消えた理由、その犯人の物語を全体の背骨に据えます。 それ以外にも、妻を亡くした作家、娘を亡くした母親の話だったり、終電を逃した女のファンタジー、流星をとらえた女だったり、腹から生物出てくるエイリアンとのペア競技(作り物感が、一時期動画で人気だったスキージャンプ・ペアのよう)など、ときに出落ちたり、ときにしんみりだったり、というバラエティあふれるごく多くの短編をつないでいきます。

終幕近くになった「フィクショニア」はクイズ仕立てで作家となった二人の背景を描き出します。ひとつは猫を殺された少女のその後であり、ひとつは猫を殺した男のその後。するすると物語を紡ぎつなぎ合わせてこのたくさんの物語を一つにまとめていくのです。それはまるで一冊の本に綴じ合わせるよう。

「作家を〜」は自信なくしたが為にオビに合わせて小説を買くというツカミが楽しく、しかし第一の読者を失った男の悲哀と次への一歩が力強い。作家を演じた久保貫太郎は軽やかでコミカルでペーソスも滲む味わい。

「翼を〜」は終電がなくなるその時間まで食事にも誘えなかった引っ込み思案な恋心にタクシー代は出せない切実さが親しみやすくかわいらしい女の姿。演じる岡田アガサは切れッキレの芝居なのに演じてるのはあくまで可愛らしい女の子像なのがちょっとすごい。惚れてしまいそう。起こる奇跡もうれしい。

「ジュンコに〜」は若くはない女優にセーラ服の出落ち感を逆手にとって、そうなった悲惨な背景を描き出すワンアイディアの妙でやけに見せる感じ。 「フィクショニア」はクイズ番組という、ありがちといえばありがちな形式だけれど、高いテンションと裏腹に場を制圧するようなある種の威厳というMCを演じた中田顕史郎の確かな力。

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2016.12.23

【芝居】「ミカエル」MCR

2016.12.11 15:00 [CoRich]

13日まで駅前劇場。95分。

差出人不明の小包が届き、ガス爆発が起きて男は記憶を無くしているという。不自由なく暮らしていたがベッドは別で離婚が間近だった妻は、これを機会に前に同棲していた小さな部屋で暮らしていた幸せだったあの時を呼び戻そうとする。
その前に彼女だった女は酷い別れ方をしたのか男を許す気はない。そのときの男友達は詳しくは知らないけれど、あれだけ怒ってるのだから酷いことをしたんだろうと思っている。

記憶を無くしたという男を特異点にして、妻と元カノという二人の物語を広げつつ、狭い範囲の友人関係を足がかりにして物語を進めます。元カノは酷い別れ方と主張しているけれど聞いてみればそうでもなく、きちんと真面目に働き、時間を積み重ねてきたのに、妻はその生活に不満があってということが徐々に見えてくるのです。いわゆるSFではないけれど、周りの人を巻き込んで時間をあの時に巻き戻すよう。

もう一つ、喫茶店で語られる若い世代の恋物語。告白したい女と幼なじみのヤンキー風の女友達。男は誠実そうだけれど、処女かどうかという拘りどころのすれ違いでヤンキー女が惚れ恋人になっていくのは、もう一つ小さな男一人と女二人の三角関係を作るのは相似形のようなのです。

喫茶店の男を演じた澤唯は静かに見守る男、しかしバイトに来ている女への好意をここまで積み重ねて来たのに、あっさり時間が戻される無力感、それまでの客のめんどくささも含めて溜まりに溜まったストレスでちょっと椅子を蹴飛ばすシーンの静かな爆発の精度。しかし女が戻ってくる終幕が嬉しい。元カノかつバイトの女を演じた後藤飛鳥、好きすぎる気持ちのぐるぐる。妻を演じた外村道子は美しくシュッとした雰囲気。この二人の対峙する終幕の緊張感もいい。

特異点の男を演じた川島潤哉、基本的には誠実な男の造形だけで走りきります。酷いことをした回想を具体的には描かないのは巧くて、元カノ側が感じていた酷さはそうでもないということでもあるし、記憶を実は無くしてないということの担保だったりも感じるのです。

記憶を無くしてないのに、無くしたふり、というのはある種のイタズラ心の発露。友達の履歴書を勝手にアルカイダに送る、というのはイタズラとしては相当に秀逸というかひどいけれど、ちょっと凄い発想だと思うのです。

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2016.12.19

【芝居】「さようならドコニ村」肯定座

2016.12.10 18:00 [CoRich]

肯定座の新作。サスペンス仕立てのしかしファンタジーな85分。11日まで梟門。

小さな町、理容室を営む夫婦は夫がイケメンで大好き過ぎてスナックの女との浮気を心配している。悩みを抱えたまま真っ暗な川辺で独り悩みを抱えていると、倒れている男を発見する。男は記憶を無くしている。
都会に出ていた一人息子が戻ってくるのを喜ぶ酒屋の父母、とりわけ母親は息子を溺愛している。戻ってきた息子は田舎が嫌で仕方ない。スナックの女の妹は幼なじみの男のことを実は気に掛けているが両親の暴力のトラウマで先に進めない。
町の住人の一人が趣味で飛ばしていたドローンで山の中に死体らしきものを見つけるが、その場所を探してもそれらしいものはない。

夫が好きすぎるけれど子供ができないまま歳を重ねてしまった妻。もう夫は身体を触れてくることもないという寂しさとは裏腹に、夫の子供を残したいとまで切実に願う気持ちは、浮気相手と疑われるスナックの女にそれを頼もうというところまで追い詰められています。両親からの暴力の記憶故に結婚しないスナックの女がどうしても信じられない夫婦や子供への愛情がそこには間違いなく存在していてというコントラスト描き出します。スナックの女が実は女にはフラットで頼りがいがある、というキャラクタもうまく効いています。すこし後のシーンでワタシばかりが好きでと訴える妻の手を夫が優しくリードして優雅にダンスを踊るシーン、小劇場ではなかなかない長さのシーンで二人の深い愛情を描くのです。

のんびりと暮らす人々の小さな町で起きた、記憶を無くした男と姿を消した死体というサスペンス風味の要素が物語を推進します。このサスペンスの解決策として登場する天狗や貧乏神というアイテムは、それ自体は確かにサスペンスを解決するのだけれど、これ自体は少々唐突で生き返らせるというのはサスペンスの解決策としてもイマイチです。が、この唐突なファンタジーを理容室の夫婦の愛情の物語をもう一歩ファンタジックにするための仕掛けにするのです。理容室の夫がかつて一度は命を落としていて、それを生き返らせた、ということが終幕でさらりと語られるのだけれど、なるほど、生き返りということが成立するファンタジーの世界ゆえにこの夫婦にあったもう一つのファンタジーに想いを馳せ、そして叶う夢で終幕を迎えるのです。

夫を演じた安東桂吾はやけにいい男の役が続いた今年だけれど、とりわけイケメンで愛情たっぷり、ずっとそこに居る安心感のあるキャラクタ。妻を演じた舘智子は年齢を重ね女としての期限に揺れる大人をしっかりと。スナックの女を演じた平田暁子はなかなか観られない色っぽさも魅力、妹を演じた佐藤有里子は不器用さと男勝りという不思議な造形の役を印象的に。警官を演じた椎名茸ノ介は物語そのものに大きく関わるわけではないのだけれど、ややおネエの入った、しかし丁寧で細やかに気遣うというシンプルで安心感を与えるポイントを押さえていて印象に残ります。

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2016.12.15

【芝居】「トナカイを数えたら眠れない」イマジネイション(10周年記念公演[イマジン]①)

2016.12.7 20:00 [CoRich]

平日20時開演がありがたい。100分。18日まで劇小劇場。 小劇場の役者が多く所属するマネジメント事務所・イマジネイションの10周年記念シリーズのうちの一つ。

小さな民宿のリビング。毎年クリスマスイブになるとクリスマスを断固として祝わないと決めた元ボート部の三人の男が泊まりにくる。オーナーの女もそれに同調し、断固として祝わない一日を毎年過ごしている。向かいのホテルではクリスマスソングが流れ騒がしい。
今年はオーナーの女は結婚し、夫が手伝っている。珍しくオーナーの妹も訪れるが、その妹を訪ねケーキ職人の男がケーキを作ってやってくる。クリスマスは祝いたくないが、ケーキ職人はかつて学校で激高して後輩にボールペンを突き刺したことがあるのだという。

MONOの土田英生による原作。劇団ページによれば、1995年、今は亡きOMS(扇町ミュージアムスクエア)での「Holly Night」、2010年に改題した「トナカイを数えたら眠れない」が上演されています。 かつてのMONOのメンバーが目に浮かぶよう。ああ、水沼、奥村、尾方、金替、土田、そして女性二人は西野千雅子 増田記子。この彼がこの役者で、というぐらいに透けて見えてしまうのです。正直に云えば、MONOの役者だから成立する、という雰囲気で進む物語。それは役者がこういう人々を演じてきた、という積み重ねの上に成立するので、他の役者でやるのはなかなか難しいところではあるのです。

仲いい男同士の年中行事、かといってもあの時の嫌な気持ちは沈殿していて、徐々に変わることも変わらないことも積み重ねてきて、もう潮時という感じ。 クリスマスを無視しようという提案はおそらく女性のオーナーからではないかと想像しますが、クリスマスを亡かったことにしたい気持ち。記憶を無くした妹、というのは少々唐突だけれど、それを終盤に向かってねじ伏せるような熱量の物語。対面でトランプを続ける女二人、それぞれの人間だったり、裸の気持ちだったりという終幕は、やっと前に進めそうな気持ち。

姉を演じたザンヨウコ、自分の中で上書きした筈の記憶が復活する戸惑いだったり。決して清廉潔白で生きてきたわけでない複雑な役をしっかり。妹を演じた宮本奈津美は、あんまり気にしないサバサバした感じだけれど、亡くした記憶の齟齬を感じ始める頭の良さ、ふわふわとした衣装も可愛らしい。ボート部の男を演じた長谷部、いわゆるツッコミの役割というよりは、ちょっとした補足。なかなか無い役でめずらしい。

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【芝居】「明後日まで内緒にしておく」らまのだ

2016.12.4 17:00 [CoRich]

演出家コンクール2016で演出家が優秀賞、第22回劇作家協会新人戯曲賞で作家が受賞を受けた、らまのだの新作。110分。4日まで楽園。

田舎町に作られた全寮制の予備校、受験まで三ヶ月。教師たちの給料は安い。授業はほとんどDVDで行われ、スクーリングは行うものの、教師たちは特別講義や教材の販売で売り上げなどのKPIを管理されている。
家の余裕が無くなったので女子生徒が一人辞めるという。教師のことが好きで去りがたい。別の女子生徒と別の教師は日常から逃れるために部屋に行ったりして恋人な気分を味わっている。
この予備校のKPIは悪く、建て直しのために本部からもう一人派遣されてくる。が、状況はもっと悪く本部からもう一人やってくる。

田舎町、そう人数の多くない全寮制の予備校、日常に飽きていたり日常を暮らすことが一杯だったり。忙しかったり給料が安かったりしても続いていくはずだった日常が崩れ組織が底割れは今どきの日本という感じがしないでもありません。ごく狭い範囲での物語は、それぞれの夜があるという雰囲気だったり、それぞれの好きとかいけ好かないが混じり合う空間。

L字型の客席、アタシの座ったLの縦棒側の壁際、扉がこちらに向かって開く(ので、そこの芝居が何一つ見えない)のは演出なのか装置なのか責任の所在がわからないけれど、これはあまり巧くない。

モテるし包み込む教師を演じた井上幸太郎、格好良く、温かい雰囲気。本部から訪れる女性を演じた渋谷はるかの、リストラを背負い伝える重さ。私費でわざわざ来たという誠実さのキャラクタ。辞めて久々にベンツで訪れた男を演じた斉藤コータは浄水器の販売、騙しそうな口上が楽しいが、こういう大儲けは長くは続かず心折れるという落差をしっかり。リーダーの女性を演じた斉藤麻衣子は巧くいってないこの場所を続けるための心意気、それは厳しいと言われても売上が必要という組織の事情。

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2016.12.12

【芝居】「ジャパコン」チャリT企画

2016.12.4 14:00 [CoRich]

125分。4日まで座・高円寺1。

2020年東京オリンピック開会式を間近に控えた民泊を営む家。には外国人の客も来るようになっている。オリンピックの直後に予定されている改憲をめぐる国民投票に対して改憲には反対しているが、大学生の息子が最近右翼の活動に参加していると疑っている。
南海トラフ地震が起こり、夫の弟夫婦が愛媛から避難してくる。妻の姉夫婦は長崎に暮らしているが、オリンピック開会式のために半ば強引に泊まりにくるが、肝心のチケットは長男が盗んでしまっている。男尊女卑な義兄のことが苦手だ。

日本会議「ジャパコン」をタイトルに、右翼左翼に中道の親戚三家族を一同にあつめ、護憲ポスターが破られたりLGBTのことが許せない父親だったりを並べ、どちらかというとリベラル寄りに右翼を揶揄するように持って行くかと思えばさにあらず。 イメージに反して右翼でも穏やかに話す人だって居るし、逆に左翼リベラルといっても喧嘩っ早い人だって居るというごく当たり前のこと、改憲の国民投票が「緊急事態条項」といわゆる「家族条項」から行われると仮定し、それが冷静に議論が行われるべきで右でも左でも個々人としてのイデオロギーの独立が担保されるべきだ、というびっくりするほどど真ん中のしかし、徹底が難しいことをしっかりと描くのです。家族であっても独立した人間であり、生きたいように生きる自由が担保されるべき、という信念にも似た力強い声。

一回りしてそれぞれの家族が家族として暮らせる平穏にみせた終幕、何が起きているか知らされないままに「緊急事態」となり人が町から姿を消し買い占めに走る不穏さを感じさせて終わる物語は、しかし改正の危惧を感じ取る作家の気持ちだと思うのです。

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2016.12.10

【芝居】「15 Minutes Made Volume15」Mrs.fictions

2016.11.27 19:30 [CoRich]

人気の企画公演。125分。4日まで王子小劇場。

英語教育に熱心な母親のもと、大学ではもっと上が居てコンプレックスになったものの英語教師となった女、英語力が無いことがばれないような高校を選ぶが、教室はまったく機能しない。ネイティブの教師は腹を立てる。「イングリッシュ・スクール」(ヤリナゲ/作・演出:越寛生)
「天使なんかじゃないもんで」 (1, 2) (Mrs.fictions/作:中嶋康太 演出:Mrs.fictions)
ある朝、いつも居る猫が腹の上にいない。滅多に出ない東京に新幹線ではるばるでかけて、"しんじ君"の家に行くが、恋人と名乗る女がいる。猫を一緒にお墓に埋めたい。「ともちゃんの、メモ」(mizhen/作・演出:藤原佳奈)
卒業式当日、美術の女性教師に告白する卒業生と見守る友達、あっさりフラれるが教師は別の生徒と付き合ってるという噂が「卒業日和」(feblabo/作:登米裕一 演出:池田智哉)
包丁と研ぎ続ける四人。あの有名人のキッチングッズを作る奴隷労働をしている。「このまま」(トリコロールケーキ/作・演出:今田健太郎)
予備校の講習会が終わって気がついたら電車では反対方向、山梨で女に声をかけられ、民宿にたどり着いた。母親は別居している父親とともに連れ戻しに来る。「彼女が旅に出た理由」(競泳水着/作・演出:上野友之)

「イングリッシュ〜」は、元は英語が出来たのに大学でまわりの優秀さに折れてコンプレックスの塊となった女が教師となってもなお無力感の中に居て、という話。大学の同窓生たちも教師になってからの崩壊した学級も押しの強いネイティブも辟易する気持ち。大学、教師という二つの時間の中でどちらにも「英語はまったくもって下手だけれど、こつこつと前向き」という人物が出てきます。誉めそやすでもバカにするでもないけれど、作家の目線は明らかに彼女に対しての何かの引っかかりをもっているのです。

「天使〜」は東日本大震災を受けた頃に作られ、津波ですべてがもっていかれてしまった町を舞台に、東京から逃げるように、あるいはある種のノスタルジーをもってがらんとした港町に来た人々を描きます。ヤンキーの男たちのオラオラ感は変わらないけれど、全体におだやかではあっても、やけにドライな雰囲気に感じたのは何が違うんだろう。急速に縮まらない距離感というのもまた、関係の一形態としてはアリだなぁと思ったりするのです。

「ともちゃん〜」は、精神を病んでいる姉と、それをなかったことにして恋人と暮らす兄。遠く離れて暮らす日常を変えるのは、一緒に飼っていた猫の死で、姉にとってはそれがとても重要なことで。そういう人物であることをあっさりと「鞄に見えた障害者手帳」という言葉で、隠し立てすることなく物語に乗せる思い切りの良さ。 再会のぎこちなさであったりそういう姉を「恥ずかしい」とか「隠したい」であったり「結婚を一度考え直さなければ」という気持ちを持つのもまた一つのリアルなのだろうと思うのです。が、一緒に住んでいるアパートに行き、一緒に鍋を食べようという、おだやかに近づいていく感じはファンタジーのように理想的。けれど、心の中を描くモノローグが減り、表面的な見え方で進む後半は、本当のところ心の中でどう思っているかを見せないで、「理想的に」進んでいる、というギャップがあると思うのは考え過ぎか。

「卒業日和」は年上の女教師への淡い恋心があっさりフられて始まる話だけれど、生徒と恋人の関係にあるという噂話からもう一ひねり、まあ良くある官能小説のようといえばそうかもしれないけれど。教師の心は虜になっているのに、身体の関係は持たない理性、「レモンと蜂蜜、火を通した豚肉のぐちゃぐちゃ」という安っぽい官能小説みたいな台詞が、ちょっと楽しい。

「このまま」はテレビの有名人を揶揄して笑いをとるというよりは、テレビの有名人というパワーを使って、いまどき幽閉され奴隷のように働かせるという無茶な虚構を素早く作り出します。物語の核となるのは、その幽閉という束縛の中で暮らす日常になれて逃げる気がなくなっていて、そこで穏やかに暮らし続けたいと思ってしまうこと。なんでそんなひどい国から逃げ出したりしないのか、と云われてもそこが気持ちよく感じてしまっているかもしれない、という縮図。

「彼女が〜」はフルサイズで語ろうとする物語をぎゅっと15分に圧縮、という趣向。長い時間を暮らしてきた女に隠された不思議な話、それは怪談といってもいいような話だけれど、確かにこれを細やかにゆったり描いていけばフルサイズでも見応えのある文学作品に仕上がりそう。それを15分にしてもまたおもしろい話に出来るのは作家の力。

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2016.12.05

【芝居】「ふたつの時間」なゆた屋 1two3 THEATER

2016.11.26 14:00 [CoRich]

女優・ほりすみこによるユニット・なゆた屋の公演。もう一人の女優中野架奈を迎えてそれぞれが出演の短編二編、間に休憩を挟み95分。28日まで風知空知。

帰宅途中、近所の路地で鯰をみかけた。いくつか話すうち、鯰は醤油をのんでみたいと云い、腹を壊して女の家にくる。「鯰」(作・演出/小川拓哉)
屋台が開く深夜3時。猫が餌を求めて訪れる。店主は本をよみ、一杯つけて客を待つ。万歩計にしか見えない「二重空間移動装置」をもっていてどこにでも行ける。常連の女が訪れ、女優として主役がもらえないしもう田舎に帰ろうかという。もう一人常連のセンセイが訪れる。屋根裏に住んで雨を降らせる研究をしているが、唐辛子の本を切望して探し続けている。「月舟町余話」(脚色/BOOKAHOLIC 演出/北澤秀人)

「鯰」は 人間ではないものと心通わせる、という短編。川上弘美の熊の話(神様、草上の昼食)にも通じる雰囲気だけれど、こちらは(多分)両方とも女性で、九州から150年もかけて生き続けてここにやってきた鯰が男にフられたばかりの女を癒す雰囲気。構図はずいぶん違うけれど二つの話に近しいものを感じるのは、語り手である女性の気持ちを強く芯に持っているから、という気がします。おだやかに話す二人、どちらも声高に何かを叫んだりすることもないけれど、どちらの心も間違いなく揺れ動いていることがしっかりと見えるのです。

「月舟町余話」は原作の小説(未読)があって、そこに暮らす月舟町の人々にまつわる物語。キャラクターや物語の雰囲気を借りてある種二次創作のようなつくりですが、元々の話を知らなくても楽しめる雰囲気に作られています。 万歩計を「どこにでも行ける装置」と読み替えたり、価値があるのだか無いのだかわからない本を高く売りつけようとしたりな遊び心。あるいは、店主の妻が作っていたらしい鍋をメニューからは封印していたけれど、久しぶりに作ろうと思い立つことだったり。そういう町の片隅にいきる人々の楽しさと寂しさ、肩を寄せ合って生きていくことだったり、力強く、あるいは折れそうな気持ちを抱えても歩み続ける人々。町の片隅のスケッチ。

元の小説を未読のアタシにとって、正直にいえば、原作となる話に対してどの部分がオリジナルなのか、ということは少々気になります。何かを訴えなければいけない、というわけではないけれど、単なる引き写しではない、というなにかというか。いい台詞、いい雰囲気、いい人々はもちろん小説だけでは成し得ない、立体的に人物として立ち現れるということだけでも価値はありますが。 一番気になるのは、作品のタイトルこそあれ、原作者のクレジットがどこにもないということ。大人の事情かもしれないけれど、これは最低限の作家への敬意という点で少々気になるところなのです。

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【芝居】「ゆっくり回る菊池」僕たちが好きだった川村紗也

2016.11.23 19:00 [CoRich]

川村紗也が主宰するユニットの第2回公演、90分。クロムモリブデンの青木秀樹が外部に書き下ろすことも珍しい。27日までアゴラ劇場。

彼氏が女の家に戻ってきて、酔って人を殺したのだという。かつて痴漢に遭った女を助けたことでつきあい始めた二人で、男が殺したのはその痴漢の犯人として突き出した男だったという。同居している女の姉はつきあい始めた男が居て、事件が表にでるのはなんとしても止めたい。男が一緒に呑んでいたという友人を犯人に仕立てようと電話で本人にそう伝えると、あっさりそれを受け入れ、殺された男の家族に謝りに行くという。
犯人となった男は殺した男の家を訪れて謝罪しようとするが、妻はそれを咎めず、使用人としてここで暮らすように言う。そこに、死んだはずの男が戻ってくるが記憶はない。
平穏に戻ったかに見えた姉妹の家、そこに脅迫状が届く。

心にあるやましさや、人には言いづらい価値観が、少々いびつな形で表出するのがアタシの思うクロムっぽさのひとつ。元クロムモリブデンの幸田尚子を明確にかき回すポジションに据えたとはいえ、基本的には劇団の役者には頼らず作り出すクロモリ風味の世界。 夫を殺したいと思っている妻だったり、覚えのない殺人犯のぬれぎぬをあっさりと受け入れて、さらに奴隷同然の扱いを受けてなお心の平穏があることだったり、痴漢を巡る冤罪とそれを引き起こす打算など、などが整理されて徐々に明らかになります。正直にいえば、詰め込み過ぎぐらいの要素があって、物語を負うよりは、いろんな(アタシにとっては)おかしな人々を眺めるような距離感の方がワタシは観やすい芝居でした。

物語の構造としては殺された男が理不尽をすべて引き受けている感じであまりに都合のいい存在だけれど、それもあっさり「(いろいろ)こけたから」というだけのしょうもない理由で受け流している軽い人物の造形とあいまってあまり気にならず、うまい方向に働いているように思います。

全体に癖のある、あるいは癖を作り出せる役者陣の中にあって、主宰で妹役を演じた川村紗也は見かけどころか終幕で心の闇を吐露してもなお可愛いらしく見えてしまうのはご愛敬だけれどしっかりと食いつき走りきります。枝元萌をここまでコミカルで自己中なキャラで見るのは初めてかもしれないけれど、やけに説得力。妻を演じた幸田尚子は出落ちかと思うほどキチガイキャラを炸裂させきっちり和服で電動丸鋸をー振り回すという前代未聞。(でも美しいってどうなの)

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【芝居】「夕闇、山を越える」JACROW

2016.11.23 14:00 [CoRich]

田中角栄が議員として頭角を現し最年少の郵政大臣になるまでの数年を描く115分。26日まで雑遊。

家柄も官僚経験もないまま、裏日本と呼ばれていた新潟の暮らしを良くすると訴えて衆議院で当選した角栄は、徐々に勢いをつける。経済復興を重視し国民の暮らしを作ることを優先する池田勇人・大平正芳らの宏池会、憲法を改正し再軍備して国の形を作ることを優先する岸信介・福田赴夫らの十日会、両方のバランスをとる佐藤栄作の木曜研究会という三つの派閥が国民の人気と勢いのある角栄を取り込もうと画策する。

今年はなぜか出版では角栄ブームだけれど、作家自身はそれを知らずに書き始めたのだといいます。とはいえ、世間ではブームなのに、芝居で正面切って彼を描いたものは他に観たことがないので、そう流行に乗ったという感じでもありませんが。

冒頭は街頭での演説。「ここの」人々の暮らしを良くしていきたいと訴えながら、「そこに」居る人々に声をかける、という人垂らしの原点が強烈な印象を残します。現実の田中角栄は、小学生の頃のあたしにとっては好きとか嫌い以前の「そこに居た政治家」であり、芸人のモノマネ含め圧倒的な印象なのです。その人物が目の前に立体的に現れ、人なつっこい口調と表情でアタシに演説をしている、というだけで理屈とかイデオロギーとかとは全く別に感情が刺激されて泣きそうにすら。自分に話しかけてくれて、今の私の生活を良くしてくれると期待させるというのは良くも悪くも、ここまである偏りの政治家が力を持つに至った理由で、それはきっといつの時代でも変わらないのだろうなぁと思ったりもするのです。

中盤のほとんどは神楽坂の料亭での他の政治家たちとの会話で物語を進めます。どこの波に乗れば自分が上に上がっていけるのか、関係する人々を幸せにしていけるのか。欲望というよりは力を持つことに対してどん欲で正直に邁進する姿。名だたる政治家たちが、時にバカにしながらも国民の人気があるという力を無視できずに自分の派閥に取り込もうとする腹のさぐり合いだったり、引っ張りだこの角栄は、改憲と経済成長のパワーバランス自分の立ち位置を慎重に見定めていくことのはある種の波乗りで慎重なのです。

反対にある種の寂しさも描かれるのです。最終的には信頼をつなぎ止めるのは金だということに何の疑いもないこと。それは手切れ金だったり、あるいは忠誠の証だったりするけれど、舞台での描かれ方は、小馬鹿にしていた政治家はそれでも金は受け取るし、あるいは少し戸惑ったりもすること。現実がどうだったかは知るよしもないけれど、なるほど、私腹というよりは自分が存在し前に進むために金が本当に必要だったのだ、ということがよく見えてくるのです。

終幕近く、若くしてから郵政大臣になって地元で凱旋のように街頭演説。序盤の初当選と同じ人なつっこさだけれど、権力を持つ最初の一歩。その中で新聞・キー局・ネット局という放送局の系列化を進めて、メディアを手中に収めていたということはワタシのしらなかったもう一つの顔でした。なるほど、イマドキの政治家だってやりたくなるわけだ。

角栄を演じた狩野和馬の圧倒的な出落ち感から、人垂らしの人物造形に圧倒されます。これだけで半分は成功したも同然。凄い。

正直に云えば、 自民党に対してだったりを訊ねるある種の思想調査のような記名のアンケートはまあ、お楽しみと言えばそうで思想の自由を犯そうなどという気が微塵もないのは重々承知ではあるけれど、ちょっとやりすぎな感もあって、ちょっと意図を測りかねるような感じもします。

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2016.12.04

【芝居】「量子的な彼女」NICE STALKER

2016.11.20 19:30 [CoRich]

リケジョ演劇を名乗る90分。23日まで王子小劇場。

クラスでも部活動でも今一つ他とはなじめない友達四人、そのうちの一人が幽霊を信じるか、といってオカルト研究部を作る。でも二年になり疎遠になって、彼氏が出来たり、まだオカルトにはまっていたり。 卒業してしばらく、久しぶりに呼ばれると、四人の中の一人が居なくなったのだという。残った三人は確かに覚えているのに、卒業アルバムに載ってない、という。

タイトルは「猟奇的〜」からの音感だろうけれど、カワイイ女の子があちこちに遍在するだったり、あるいは居たはずなのに居ない。量子のスケールならごく普通に起こり得ることでも私たちの生活のスケールだとちょっと不思議な物語になるということをテコにして物語を駆動します。歳をとったからか、アタシにはわりと女子高生ぐらいの年齢の女性の顔の区別がつかなくなる、というのは量子論とはまったく関係ないけれど芝居を観ている間にわりと考えていたりします。

アタシにとっては物語の輪郭がすこしばかりぼんやりしています。それは可愛い女子校生が楽しそうに会話してたりするのを観て心奪われたかもしれないのだけれど。さえずるような女子たちの会話、あるいはもうちょっと年齢が進んでからの振り返りだったりの会話に身を任せる楽しさ。

カワイイけれど動物系、と云われる女を演じた藤本紗也香はクラスに馴染めないちょっと、内気な女の子の雰囲気を巧く作ります。雑な雰囲気の顧問を演じた横手慎太郎は高校の先生にありそうな雰囲気でモテもするし、女生徒との秘密があったりという怪しさもきっちりと。屋上の先輩を演じた帯金ゆかり、NASAを目指すぐらいに頭が良くて屋上で勉強しまくっているのに、後輩がくるとオラオラになるという落差を巧く。

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2016.12.02

【芝居】「ヒゲンジツノオウコク」日本のラジオ

2016.11.20 16:00 [CoRich]

20日まで新宿眼科画廊。65分。

女ばかり四姉妹で暮らす家に家庭教師が呼ばれる。母親は既になく、父親が亡くなったばかりで長女は家を守ろうと留守がちになっている。次女は家にずっと居るが外向きのことは長女に任せて、想いにふけることが多い。三女は病に伏せっており、姿を見せない。四女は大学の進学を希望していて家庭教師を呼ぶが、高校も卒業できず、世間のことをあまり知らない。

ゴシック風に凝った三人の衣装。手作りで作り込んだもののようで、終演後は写真集と衣装担当によるコンセプトが書かれた小冊子がついてきます。いままで戯曲全文とかさまざまな「おまけ」がついてきた劇団ですが、この写真集は相当に凝ったもので、チラシも含めすべてモノクロで統一されています。

単位に世間知らずの金持ちのお嬢様たちの少しコミカルな話だけかと想っているとさにあらず。物語が進むにつれて、三女の不在が単に病弱なわけではないことが見えてきます。

ネタバレかも

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2016.12.01

【芝居】「そろそろ愉快になろうと思う」ローカルトークス

2016.11.19 19:30 [CoRich]

(劇団)ブラジルの、というよりはアタシにとっては圧倒的に本数が少ないはずなのに元・クロム舎の、という印象がなぜか強い西山聡のユニットの新作、120分。シアターシャイン。

妻に先立たれ4年、娘が引きこもった男。2ヶ月経っても原因の究明も変化の兆しがない。男は妻の兄弟たちに相談する、出された結論は、あまりに生真面目で堅物な喋り方では、娘の心には寄り添えない、その人柄や喋り方を改善しないと事態は変わらない、ということだった。妻の弟は元はテレビで通販もやっていた口八丁の店頭販売員、妻の妹は妊娠を望んでいるが授かれないままでいる。

当日パンフによれば、子供ができたからという作家の背景が書かせた物語のよう。父ひとり子ひとりで育った娘の引きこもり、生真面目で不器用にしか対処できない父親。母親と娘は実際には出演させないことで、妻亡きあと、娘を養っているとはいえ独りで走り続けてきた男にスポットライトを当てるよう。それではたち行かなくなって、相談しようという決心。

生真面目に至った詳細が語られるわけではありません。それでも他の人との会話を聞くうち、きっと彼はこう考えて、相談するに至ったのだろうなということが腑に落ちるよう。それは他の人物についても同じで、妊娠についての夫婦のすれ違う気持ち、上手に生きてきたはずだけどいい歳にもなってどうしたもんだかなな気持ちを抱えているなど、それぞれの人物が徐々に浮かび上がる細やかさが楽しいアタシです。

物語は基本的にはドタバタなコメディの調子で語られます。駄洒落も軽口もたたけない男と口八丁な販売員というチラシにある二人を物語の核にしますが、実際のところ、人物として苦手だということはあっても、物語の大筋にはあまり対立軸がなくて一つの目標に向かっているという大枠と、それぞれの人物の悩みが周りを回っている、という構造になっています。

生真面目な男を演じた村上航は見慣れた俳優ですが、ここまでがっつりと、わざとふざけることをしないというメインの役は初めてな気がします。圧巻なのは不器用な笑顔のぎこちなさ、終幕が幸せにみえるのもいい。 口八丁な男を演じた服部ひろとしは意外なほど販売の口上が似合って、序盤を引っ張っていて新しい魅力。妊活にいそしむ女を演じた黒岩三佳、人当たりもいいけれど、人知れず悩みつづけ、その結果引きこもりの姪っ子に傾倒するという細やかで、やや病んだバランス。ヤンキーだけれどオジサンに恋する女を演じた村上亜利沙、一度引っ込んでからサザエさんのようにおちょぼに口紅という雑な感じもいいし、それを笑いにしないのも作家の優しさ、そこの中で行きる可愛らしさ。

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