【芝居】「15 Minutes Made Volume15」Mrs.fictions
2016.11.27 19:30 [CoRich]
人気の企画公演。125分。4日まで王子小劇場。
英語教育に熱心な母親のもと、大学ではもっと上が居てコンプレックスになったものの英語教師となった女、英語力が無いことがばれないような高校を選ぶが、教室はまったく機能しない。ネイティブの教師は腹を立てる。「イングリッシュ・スクール」(ヤリナゲ/作・演出:越寛生)
「天使なんかじゃないもんで」
(1,
2)
(Mrs.fictions/作:中嶋康太 演出:Mrs.fictions)
ある朝、いつも居る猫が腹の上にいない。滅多に出ない東京に新幹線ではるばるでかけて、"しんじ君"の家に行くが、恋人と名乗る女がいる。猫を一緒にお墓に埋めたい。「ともちゃんの、メモ」(mizhen/作・演出:藤原佳奈)
卒業式当日、美術の女性教師に告白する卒業生と見守る友達、あっさりフラれるが教師は別の生徒と付き合ってるという噂が「卒業日和」(feblabo/作:登米裕一 演出:池田智哉)
包丁と研ぎ続ける四人。あの有名人のキッチングッズを作る奴隷労働をしている。「このまま」(トリコロールケーキ/作・演出:今田健太郎)
予備校の講習会が終わって気がついたら電車では反対方向、山梨で女に声をかけられ、民宿にたどり着いた。母親は別居している父親とともに連れ戻しに来る。「彼女が旅に出た理由」(競泳水着/作・演出:上野友之)
「イングリッシュ〜」は、元は英語が出来たのに大学でまわりの優秀さに折れてコンプレックスの塊となった女が教師となってもなお無力感の中に居て、という話。大学の同窓生たちも教師になってからの崩壊した学級も押しの強いネイティブも辟易する気持ち。大学、教師という二つの時間の中でどちらにも「英語はまったくもって下手だけれど、こつこつと前向き」という人物が出てきます。誉めそやすでもバカにするでもないけれど、作家の目線は明らかに彼女に対しての何かの引っかかりをもっているのです。
「天使〜」は東日本大震災を受けた頃に作られ、津波ですべてがもっていかれてしまった町を舞台に、東京から逃げるように、あるいはある種のノスタルジーをもってがらんとした港町に来た人々を描きます。ヤンキーの男たちのオラオラ感は変わらないけれど、全体におだやかではあっても、やけにドライな雰囲気に感じたのは何が違うんだろう。急速に縮まらない距離感というのもまた、関係の一形態としてはアリだなぁと思ったりするのです。
「ともちゃん〜」は、精神を病んでいる姉と、それをなかったことにして恋人と暮らす兄。遠く離れて暮らす日常を変えるのは、一緒に飼っていた猫の死で、姉にとってはそれがとても重要なことで。そういう人物であることをあっさりと「鞄に見えた障害者手帳」という言葉で、隠し立てすることなく物語に乗せる思い切りの良さ。 再会のぎこちなさであったりそういう姉を「恥ずかしい」とか「隠したい」であったり「結婚を一度考え直さなければ」という気持ちを持つのもまた一つのリアルなのだろうと思うのです。が、一緒に住んでいるアパートに行き、一緒に鍋を食べようという、おだやかに近づいていく感じはファンタジーのように理想的。けれど、心の中を描くモノローグが減り、表面的な見え方で進む後半は、本当のところ心の中でどう思っているかを見せないで、「理想的に」進んでいる、というギャップがあると思うのは考え過ぎか。
「卒業日和」は年上の女教師への淡い恋心があっさりフられて始まる話だけれど、生徒と恋人の関係にあるという噂話からもう一ひねり、まあ良くある官能小説のようといえばそうかもしれないけれど。教師の心は虜になっているのに、身体の関係は持たない理性、「レモンと蜂蜜、火を通した豚肉のぐちゃぐちゃ」という安っぽい官能小説みたいな台詞が、ちょっと楽しい。
「このまま」はテレビの有名人を揶揄して笑いをとるというよりは、テレビの有名人というパワーを使って、いまどき幽閉され奴隷のように働かせるという無茶な虚構を素早く作り出します。物語の核となるのは、その幽閉という束縛の中で暮らす日常になれて逃げる気がなくなっていて、そこで穏やかに暮らし続けたいと思ってしまうこと。なんでそんなひどい国から逃げ出したりしないのか、と云われてもそこが気持ちよく感じてしまっているかもしれない、という縮図。
「彼女が〜」はフルサイズで語ろうとする物語をぎゅっと15分に圧縮、という趣向。長い時間を暮らしてきた女に隠された不思議な話、それは怪談といってもいいような話だけれど、確かにこれを細やかにゆったり描いていけばフルサイズでも見応えのある文学作品に仕上がりそう。それを15分にしてもまたおもしろい話に出来るのは作家の力。
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