【芝居】「横浜の嘘に3度酔う」エビス駅前バー
2016.10.25 21:00 [CoRich]
エビス駅前バーのプロデュースとしては最終を謳う公演。28日まで。75分。
横浜・海が見える場所を巡る、戦後すぐ、バブル期、現在の物語。 戦後すぐの焼け野原、戦地から横浜に戻った男はカウンターで洋酒を出す店を幼なじみの女に語る。 世はバブルで浮かれるが流行らないスナックを営む女。真正面から口説こうとする証券会社の男が常連客で通っているが女は連れない。かつて酷く女をフった男がアメリカから帰国し店に通い始める。 現在、店主が死んだばかりの店を若い男が訪れる。母がこの店を営んでいてルーツを探ろうとやってきた。
三世代にわたる物語。戦後すぐの夫婦が洋酒を出すバーを作るという夢は潰え、妻は娘を産んですぐ亡くなり、夫は娘に果たせなかった夢を語りつづけ。その娘はバブルの時代にその場所に建ったビルの一室で時代遅れなスナックを始める。スナックの常連客二人に口説かれ、片方は身を引くが、もう片方は結婚の直前に姿を消し、女は身を引いた男の元へ行くために店を畳む、と言うアタリまでがバブルまでの時代。
三つの時代を細かに行き来しながら語られる断片が徐々にその場所の重要さであったり想いだったり、あるいはすれ違いを生んでいることが肉づけられていくのはワクワクする感じがします。
現代のパートの始まりの断片は、50代のオジサンが亡くなって空き店舗となった店に不動産屋が、一人の男を連れてくるところから始まります。三世代の流れではそれはバブルの女の息子という立ち位置で、物語の幹を形成するのですが、追いかけてきた女を冷たくあしらう、というもう一つの物語の顔を見せ始めるのです。それは、徴兵といういつか来た道が始まっていて、ぐるりと一回りして戦後すぐに繋がるようになる、という構成が見事。明確に作家が現在の日本に対して感じていることを丁寧に描くのです。
この悲壮に満ちたもう一つの物語が一段落した終幕、バブルの女が店を畳んだあとにから現在へのミッシングリンクを繋げるのが、逃げた男というというのが、無駄なく伏線を回収しつつ、少しばかりほっこりと温かい後味で物語を終えるのは確かに気持ちのいい終幕なのです。
エビス駅前バーという場所は残るようだけれど、演劇公演のプロデュースが最後になる当日パンフの言葉。正直にいえば、この劇場、少々チケ代が高いなとかワンドリンクが上乗せとかいろいろ思うところはあるのだけれど、この場所で生まれた多くの物語、それを創り出した作家たちは間違いなく東京の小劇場の一角を担うほどに成長してきていて、その功績は小さくないと思うのです。
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