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2016.10.17

【芝居】「際の人」文月堂

2016.10.7 19:30 [CoRich]

10年目を迎えた文月堂の新作、95分。9日までアートスペースプロット。

いろいろ言うけれどそれを実行しない「有言不実行」と子供の頃から言われて続けている男。東京に出てきてチェーンの中華料理店で副店長になり忙しすぎる毎日を送っている。4年間同棲していた若い女にはその変わらないことに愛想を尽かされ、店長は突然姿を消してしまう。その店長に頼まれたというエアコンの修理業者はどうにも手際が悪い。

ここ二年ぐらい時代がかった物語を上演していた文月堂が、再び現代の物語へ。とはいっても、市井の少々地味に生きる人々を丁寧に、しかしその生活の中の笑いを含めて描く持ち味はそのままに。 社会人になってそれなりの年月が経ち、目一杯働いて日々忙しいくはあっても、何者かになったという達成感が得られないままに年齢を重ねてしまった一種の焦り。何かになろう、変化しようという気持ちだけはあったはずなのに、やがてそれは言葉だけが空虚に空回りするようになっていることを本人も自覚していて。

もしかしたらこのまま変われずに生きていくのかもしれないという自覚は、他の人々が変化していくことと対比して描かれることでより鮮明に観客に示されます。それは、同じ店のアルバイトから同棲するようになった若い女が就職を経てバリバリと仕事をして変化し別れを切り出したり、あるいは同じ店のアルバイトのシングルマザーが子供を育てるという目的を一途に成し遂げようとより稼げる風俗一本でやっていこうと決心したり、あるいは要領のいいエリアマネージャーが軽々と昇進したり。ヤクザの二人についても、もう古いタイプのヤクザのままじゃだめだと半グレに転向する若いチンピラと、世話になった親分のもとを離れられない古いヤクザというもう一つの対比として描かれます。

その変われない人々に対して、物語では「有言不実行」という言葉であっさり断じてしまってはいるけれど、むしろその「変われない」人にこそ寄り添う作家の姿勢は、優しいのです。 そのままでいいじゃないか、と宣言させる終盤、決して格好良くはないし、変化し上昇志向がある方がもしかしたら正しいのかもしれないけれど、過去を否定する気にはなれないし、変われない今が冴えなくてもいとおしいというのは当日なパンフの作家の受け売りで、それは作家自身が感じていることかもしれないけれど、それが腑に落ちるアタシです。

この地味な物語からあくまでもあんまり格好良くない感じでラブストーリーに持ち込むのもまた、作家の優しい感覚。女のほうはホストに入れあげたのは女扱いされて舞い上がるからだと反省して、最も女扱いされそうもない中華料理の飲食業に飛び込んで、でもほのかな恋心を抱いてしまうという、もう一つのストーリーを、注意深く織り込んでいって最後に開花させるのが巧い。

有言不実行の男を演じた添野豪の誠実な奮闘が物語を支えます。恋心を描く女を演じた奈賀毬子、大量の片栗粉を運ぶ一人芝居という無茶振りをしかし底力をみせるようにしっかりと。シングルマザーを演じた詩麻は単に線が細いばかりじゃなく、風俗に同情しようとする男からきちんと距離を取り「貴方にはわからない」と言い放つ格好良さ。古いヤクザを演じた牧野耕治は強面と、人なつっこさとを自在に行き来し、この顔ゆえの時間の重みの説得力。

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