【芝居】「わたしはミシン」チタキヨ
2016.10.8 14:00 [CoRich]
チタキヨの新作、95分。9日までミラクル。配られる味の素の小瓶のオマケが可愛らしい。
地方にあるらしい縫製会社会社。大量生産品とは別に一点ものの縫製を行うオートクチュール部門は農閑期中心に働くベテランと、服づくりが好きでプロにまでなったエースの二人では仕事が回らなくなってきたため、新たに経験者を雇うことにする。暴力を振るう夫から別れこの土地にやってきた女だった。
新たに受けた注文は高級服のコレクション向けの作製だがやってきたデザイナーは納期にも品質にも細かく注文をつけてくる。かつて所長とただならぬ縁があったよう。
遅れていた進行も、納期間近になりなんとか間に合う見込みがたったが。
自分たちには到底手に入らない高級ブランドのしかもオートクチュールを仕立てるプロ職人の女たち。農家の嫁姑だったり、DV夫からの独立であったり、あるいは独身の女はセーラムーンが心の支えであったり。女であるがため、とは限らないかも知れないけれど女だからこそそうなりがちな属性を三人に丁寧に持たせることで、プロフェッショナルであることだけでは生きられない「生活」との両立というかバランスの中で来ている人間を描きます。その意味では、かつて巧いスーツの仕立て職人だった所長が生活の不安から現在の職に就いているというのもまたもう一つの生活とのバランスだし、父親のテーラーを継いだ息子の拘りはその店を維持出来なかったということも生活のバランスの描き方かも知れません。元々丁寧に人を描く作家ですが、「働く人」という切り口は、いちおうまだ現役の働き手であるアタシにも響くものがあるのです。
わりとリアリティをもった仕事の話ではあるので、 正直にいえば終盤、中止になったプロジェクトに対して材料代以上の対価が支払われない、というのは少々違和感があります。体面を気にするトップブランドで、しかも理由が理由だけに、たとえ下請法の対象とならない取引だったとしても、口封じ代わりに金だけは払うんじゃないかと思ったりもしますが、まあ、知らない業界のことだしもしかしたら現実はこんな感じなのかも知れませんし、物語を大きく推進させる原動力なのは間違いないので言うだけ野暮ではあるのですが。
農家の嫁である職人を演じた田中千佳子の全てを包み込む包容力、進行管理担当を演じた高橋恭子は時間に追われるストレスを物語の中でずっと表現し続けて焦燥感を観客に与えます。新人を演じた中村貴子は特に序盤の物語を推進し、物語にすっと引き込む重要なポジションをしっかり。デザイナーを演じた小笠原佳秀は若くいけすかないヒール的なポジションであり続けるのもまた一つの力。何より印象を残すのは、所長を演じた名倉右喬。人の良いオジサン、という風体だけれど、そこに至るまでの仕事の積み重ね、人々にきちんと向き合う大人の人物を丁寧に造形します。
90分ほどの物語で、5人全てに背景となる物語を描き込み、その人々が織りなすある種のスポ根的な物語をきちんと描くのは確かに作家・米内山陽子の力。出演リストにでその人物を表現する一言がごくシンプルに書けるいい配役です。なにより、この芝居の気持ちがいいのは、仕事のぶつかり合いはあっても、すくなくとも仕事を通じて信頼を深めた後半にあっては、登場人物5人全てが互いに敬意をもって接しているということではないかと思うのです。これだけ余裕のないなかで、きちんと保ち続けられている人々ということは当たり前のようでいて、なかなか難しいことでもあるのも現実で、そういう意味ではこれもまたファンタジーな要素なのかも知れないけれど。
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