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2016.09.24

【芝居】「あなただけ元気」箱庭円舞曲

2016.9.12 19:30 [CoRich]

久々に劇団としての本公演。新たな役者を加えて人々の労働と想いの両方をきちんと描く作風そのままがうれしい130分。ザ・スズナリ。

人材派遣会社の人材管理の部門。クライアントからの要請を受け人材を集め派遣・受託する要となっている。営業や戦略企画からの無茶な要請にも最大限に答えている。
首相が暗殺され安定を欠きはじめている政府もクライアントの一つで、 新たな案件は時間も経ち競合他社も応札しないような公共作業で気が進まない統括者を煽る中途採用の優秀な男は途中で手のひらを返しその地位に収まり仕事ができなさそうな男を地方の支所に左遷したりする。
会社は位置情報を取得するアプリを社員や派遣社員個人のスマホに忍び込ませ密かに勤怠管理をしている。政府からの仕事を受けている役員は癒着しているが、それも明るみになる
政府からの新たな案件は第三国への兵站を担う特別国家公務員の要請だった。

ナタリーによれば2010年作の後日譚とのこと。 舞台手前に設えられたオフィスと舞台後方に会議室など別室の二つの場を作ります。気楽に見える会社員だけれど、正社員と派遣社員、あるいは業務委託の社員などと同じように、あるいはあからさまに正社員の生産性が低いという、いまどきありがちなオフィス。巧く立ち回って出世し続ける男は明確に自分の目標があって、それはある程度成功し続けていて。味方だと思っていたのにけ落とされる側はたまったものではないけれど、たとえば終盤の吉野家のアルバイトへの転身だったり、あるいはあからさまにとばされた使えなさそうな正社員が結果としては成果を上げて帰ってくるだったり、さらには政府とのつながりのあった役員に至るまで、け落とされても、それぞれに道が変わっていっても前向きに生き続ける人々は労働者への応援なのです。

成功し続けている男のキャラクタは明確で、あらゆる人々に敬意を持たない、という一点で押し通しています。権力があればすり寄ってくる人々も居るけれど、それを失った瞬間の転落はあっという間で。結果として自分が決めた兵站への派遣事業の責任者としてその地に一人赴くことが強烈なしっぺ返しなのです。そこからかけてくる電話、馬鹿にしていたはずのエンジニアに対して声を聞きたいと思ったというのは「初めてひざまづく」行為で一縷の望み、とはいえ、その周りでは爆発音や銃撃音があふれている場所、という絶望のコントラストが見事。

役者陣が本当にすごくて、のしあがる男を演じた森啓一朗はずっとヒールであり続ける力強さ、アルバイトに転身した女を演じた辻沢綾香は序盤の課長と後半のアルバイトの落差のなか辛くてもきちんと働き続ける造形。政府関係者を演じた牛水里美は髪型がいつもとは違っていて認識に時間がかかるアタシはご愛敬。吉野家での執拗さもちょっといい。役員を演じた林和義はこの年齢ゆえの発酵した感じもいいし、会社を辞めるときの強い怒りも説得力なのです。

なにより印象的なのは敏腕のエンジニアを演じた小林健一なのです。背中で語る男かと思えばエンジニアとして優秀で、しかもちょっと隠しているけれど今でもきっちりバンドを続けている、という多面体のような人物造形を説得力を持って演じるのです。

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