【芝居】「無情」MCR
2016.8.26 19:30 [CoRich]
2007年初演作を改訂再演、とのことですが、アタシは初見です。115分。8月30日までスズナリ。
徐々に麻痺し全身が短期間のうちに固まる病に冒された妻。看病するために夫は仕事を辞めてずっと付き添っている。疎遠だった姉、やんちゃだた頃のおんな友達たち、あるいは元カレが病室を訪れるが、果たして妻はなにも反応できなくなる。夫は付き添い続ける。医者が書類にサインをするようにいう。
盲目の女の家。世界を広げたいという気持ちから鍵をかけずに暮らしていると、化粧品のセールスといいカラダ目当てどころかビデオを回す男や、金目当てで姉を名乗る女が訪れている。その家に泥棒に入った男三人のうちの一人が、盲目の女に一目惚れしてしまう。
二つの場所を行き来しながら、進む物語。一つは病に冒された妻の周りの人々と夫の物語。もう一つは酷い目にあっても鍵を掛けない盲目の女と恋した泥棒の物語。笑いを入れてはいますが、全体としてははかなく純粋な人々の物語で貫かれています。
病に冒された妻の話の方は たとえば「あの部屋が燃えろ」(2014)、男女の立場は逆転ですが「肉のラブレター」(2012)、アタシは未見ながらドリルチョコレートの「俺が読む哲学の嘘」(2015の幕星での上演)など、ゆるやかに死にゆく恋人に対してずっと傍に居続ける人の純粋な気持ちをモチーフに描くことが多いと感じるアタシです。なるほど、これもその流れの源流の一つと感じるアタシです。
浮気してきた男だけれど、本当に妻のことが好きだということがここに至って自覚するということの哀しさ。ずいぶん前の元カレが現れ嫉妬する気持ち。もう反応がなくなってしまった妻(夫には聞こえないけれど、妻には台詞がある、という演出がとてもいい)。そこで明かされる少しばかりゲスい気持ちがあったこと。 それはそれとして、どうにか反応して欲しくて、その元カレの名前まで名乗ってしまう心底の切実さ。終幕別の場の台詞として「実家近くに妻と共に引っ越して面倒を見ることにした」という純粋さに涙するのです。
盲目の女の物語は、どこかチャップリンの「街の灯」を思い起こさせる設定。泥棒という点ではルパン三世「カリオストロの城」のような雰囲気。純粋な気持ちで外へのリーチを切実に求める女、騙されても酷い目にあってもどこかにあるかもしれない新しい出会いが本当に欲しくて扉の鍵をかけられないこと。そこにつけ込む、穏やかに話す悪人たち。泥棒の三人組はそこに立ち会ってしまって正義の味方へと変わっていくのです。本当に好きになってしまった気持ちの純粋さが素敵なのです。
夫を演じた櫻井智也が実にいい味わいで印象に残ります。妻を演じたたなか沙織の穏やかな表情の美しさ、ばかじゃないの、と突っ込む台詞の素敵さ。友人を演じた伊達香苗のガツガツと笑いを取るパワーが圧巻。盲目の女を演じた亀田梨紗の(盲目という設定ゆえに)定まらない目の焦点に、なんかどきんとしてしまうオヤジなアタシ。恋した泥棒を演じた諌山幸治のあまりに真っ直ぐな気持ちの造形。
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