【イベント】「ヒヨコマメスープの味」(月いちリーディング / 16年8月)劇作家協会
2016.8.27 18:00 [CoRich]
2014年9月初演作を、神奈川初開催となる「月いちリーディング」に。神奈川県立青少年センター 研修室2はいつもとは違うフロアなのに少々戸惑いつつも、ああなるほど、こういう場所もあるのねと楽しくなるアタシです。
神奈川県の初開催で気合いがはいったキャスティング、しかも月いちリーディングとしては最大の登場人物で、ずらりと並んだ役者陣には迫力すら感じます。
例によって記憶がおぼろなアタシですが、おそらくは物語はそのまま。相鉄本多劇場での初演では海外サイズの巨大なダストビンに入った大量のヒヨコマメ(底上げはしてあったようですが)という物量の面白さに目をひかれた感じはあるのですが、そういう演出を封じられたリーディングではよりシンプルに物語のもつ面白さとテンポが増した感じがあって、気楽に、笑いすら起こるようになっていました。
自分の劇団の本番直前にもかかわらずメインとなる若き正社員を演じた白勢未生、年長のリーダになっているアルバイトを演じた真嶋一歌、色香で男を惑わせるアルバイトを演じたハマカワフミエ、不思議ちゃんにみえて場をかっさらうアルバイトを演じた藤本紗也香、主人公には寄り添わない「正しい」人事を演じた手塚祐介、物語にはなんの効果も及ぼさないけれど、リーディングではその隔絶ゆえに破壊的な力をみせた前任者(ハワイに遊びにいってる)を演じた猪熊恒和などおそらくは現実に目にしたであろうさまざまな人々の断片を再構成してつよいキャラクタを造形したのは作家の力だろうと思うのです。二人組で双子のように区別がつかない派遣社員(中西美帆,、今井夢子)も役者には酷だけれど、巧い。恋人を演じた鍛治本大樹、普段キャラメルボックスで観ているのとはまったく違う距離感、こんな近距離での凄さ。
作家が描いているのは、いま、現実に忙しく動いている会社組織のちょっとした隙間というかエアポケットに生まれた幻のような達成感、という小さな物語だろうと思うのです。正社員、派遣社員、バイト、契約社員というあからさまな差異を細かく書き込むのはイマドキの若い作家が見聞きする現実の姿。芝居とバイトだけで生きている作家にはおそらく決して描くことが出来ないもので、これは確かな強みなのだと思うのです。もちろん、時代を遡ればゲストの鈴木聡の描くラッパ屋のサラリーマンの世界が近いと云えば近いのだけれど、(きっと彼には想像がつかないぐらいに)時代が変わればこうも違うというのが、今のこの国の思えば遠くへ来たもんだ、という現実だろうと思うのです。
芝居のあとの議論の中で、会社の現場の分かり難さを気にする作家だったけれど、芝居の世界で互いに観る役者だけでわかる世界だけを描いててもしょうがないんじゃなくて、もしかしたらこれからは絶滅危惧種に向かうかも知れない会社員のリアルを(ややファンタジーに)描く作家がいてもいいんじゃないか、と思うアタシです。
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