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2016.08.30

【芝居】「ごはんと祭」(C) ごはん部

2016.8.21 14:00 [CoRich]

去年のお盆に続き、ごはん部としての演劇公演の二回目。A/B二バージョンを基本に、千秋楽(C)は割安な一挙上演。B→Aの順番で20分の休憩を挟んで200分。

村の祭りを盛り上げたいと考えた役場勤めの男が友人の米農家に相談すると米を食べ比べて当てるという。彼が心ときめかせる女の子はぜんぜんその気がないが、ぶっきらぼうなわりに他の女性からは結構モテる。結局あれこれ詰め込んだミュージカルをやろうということになり「右から二番目の米」 ごはん部 (作・演出 保坂萌)
米国研究会を「米を食べる国の研究会」と勘違いした女生徒。顧問の男性教師が毎日つくるご飯を食べる毎日で、どんなに促されても自分で作るのは怖くてできない。焼きそばをつくる途中で教師が場を少し離れた隙に、ちょっと炒めて調味料を入れてみる。「米」劇団ウミダ (作・演出 海田眞佑)
考えるだけで何にでも変化する新細胞を発明した学者だが、命の危険が迫り、謎の女に助けられ匿われる。研究は果たして完成するが、その場を離れると細胞の働きはなくなってしまうことがわかり「Gliese Episode0」ピヨピヨレボリューション (作 右手愛美 演出 匿名○希望)
おばの家を久々に訪れる姉妹。幼いとき以来だ。祖母がなくなったという報せを聞いて来たが、生き返ってパチンコに行ってるのだという。 「トミコおばさん」あひるなんちゃら (作・演出 関村俊介)
賞味期限や産地の偽装が発覚した食品会社の社長はせっぱ詰まってから記者会見を開くことにする。助言のために弁護士が呼ばれ、謝罪の指南をうけることにする。「謝罪のススメ」 FunIQ (作・演出 日比野線)
連れて行かれた夏フェスに感激し突然バンドを始めよういいだす男に、妹たちが説得される。フェスの会場は弁当箱のようだし、ミュージシャンたちは詰められたおかずのようなのだという「ごはんに合うおかずたち」 カミナリフラッシュバックス (作・演出 ニシオカ・ト・ニール)
映画の撮影現場。時間は迫っているが子役が機嫌を損ねていて母親や事務所の社長、スタッフやはてはキャストまでみなあの手この手で機嫌を取ろうとする「食育大作戦」ローカルトークス (作・演出 西山聡)

「右から〜」は主宰団体の上演。C日程は休憩前後とラストにも物語を分散させています。ごく狭いコミュニティの中でのそれぞれの恋心が一つも交わらないまま、一気にミュージカルになだれ込みます。少々力わざな感はありますが、幕開けでイキオイを付けたり、終幕で大団円的の雰囲気を醸す機能もあります。

観客投票で一位を獲得したという「米」は勘違いを指摘されても元気いっぱい、ご飯大好きな女子のイキオイの序盤、食べるのは大好きでも自分で料理をすることを恐れているという中盤、でも、ちょっとその一歩を踏み出そうという勇気、でもそれは成功したとは云えない終盤、でも、彼女はもう一歩ごはんを作ってみようと歩んでいる、という成長譚をきちんと描くのが巧くて、全体にもまとまって、一位獲得も納得なので、女生徒を演じる前園あかりの強烈なパワーに互する作家を兼ね教師を演じた海田眞佑もきっちりと楽しいコメディの間合いの楽しさ。

「Episode0」は 4月のロングラン上演の前日譚。なぜあの惑星にだけ存在する「意識を現実化する細胞」が存在したか、という物語を語るけれど、短い時間に時間も空間も飛び回る物語を詰め込んだのがやや巧く廻らなかった印象があります。女優三人の華やかな芝居は水着姿までというサービスで眼福なアタシなのです。

「トミコ〜」は久々に訪れた祖母のところ、嘘ばかりつくおばさんの嘘をわかりながらもそれを指摘せず、どうしてそうなったかを考えて独身のままいい歳になってしまった彼女のことを思いやる優しさの物語。唐突なことをいったりそこからずれる会話というのは「あひる」の得意技ですが、そこを思いやる優しさに着地させるのはちょっとめずらしい感じもするのです。

休憩を挟んだ後の「謝罪〜」は食べ物から発想したであろう物語。産地や賞味期限の偽装に限らず(今年ヤケに多い)謝罪会見にはフォーマットがある、というのはすでに当たり前になりつつありますが、それがあまりにフォーマットすぎるという違和感を巧く捕らえ、その裏で商売してる奴らがいる、という感じもなんとなくありそうな話。正直に云えば、短い時間の間に多くの映像を挟み込みすぎて、折角の役者たちの芝居をぶつ切りにしてしまうのは惜しい感じ。観客が多分知ってるであろう「謝罪の映像」を見せなくてもごく短い台詞で補うことでリズムを途切れさせないで欲しい、と思うアタシです。

「ごはんに〜」は、夏フェスに出ようと盛り上がる男女が、それに向けて色々相談したり企画したりをホワイトボードを使ってみせる、というフォーマット。正直にいえば相談するシーンが少々間延びする印象なので、ちょっとだれる感じがします。台詞なのか、それとも役者の瞬発力に期待した即興なのかはよく分からないのですが、もし前者ならもうちょっとキッチリ作り込んで欲しいし、後者なら全てのステージでクオリティを担保するような工夫が欲しいなと思うのです。

「食育〜」もまた、個性溢れる面々が面白そうなことをする、というある種の「べろべろばー」で押し切るというのは正直あまり好みではないけれど、ともかくパワーで押し切ろうという心意気を成立させているのは役者のある種のスキルだということはよく分かるのです。母親を演じた加藤美佐江の女性役はもしかしたら初めてかもしれなくて、ちょっと楽しい。

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2016.08.25

【芝居】「7 -2016 ver.- studio salt × マグカル劇場

2016.8.19 19:00 {CoRich]

9年前に上演されたスタジオソルトの作品を、神奈川県立青少年センターの芝居塾作品として改訂上演。85分。21日まで青少年センター。

野良犬を捕獲し一週間の保護ののち処分する施設。即日処分される持ち込みも受けている。

「愛護センター」の職員たちの日常とその奥の檻で7日間を待ち続ける犬たち。前回の上演にはなかった犬たちのシーンを追加しているのだけれど、前回そのシーンがなかったこと自体、例によってその記憶が曖昧なアタシです。舞台奥が檻で上手側が一日目、下手側が七日目で、序盤では上手端の犬が時間が進んで下手端に居ることだったり、その移動につれて下手端でTシャツを脱いで舞台に落とすことで死体のように積みあがりデッキブラシで片づけられることなど、あからさまにはいわないけれど、そういうルーチンが繰り返されているということをより明確に表すようになっています。栗木健(スクリーントーンズ、あの孤独のグルメの劇伴だ)による役者たちのパーカッションは日々刻まれるリズム。感情を押し殺すかのように職員たちのデッキブラシはフラットに時を刻み、犬たちは餌用ボウルとチェーンのリズム不穏さの中で激しく揺れ動く感情を発露させたかのよう。

7日というルーチンで運ばれ処分される犬たち。仕事は仕事として感情を押し殺し仕事をしている職員たちだけれど、それは決して感情無くしたわけではなくて、合コンが楽しみだったり、拾ってきた亀が居なくなることにみんながショックを受けたりと、きちんと感情を持って生きていることが仕事とプライベートのコントラストを作ります。 初演では長い時間をかけて役者たちの肉体を疲労させ「生きること」を象徴するかのように印象的に演じられたダンスシーン、当時の「ビリーズ・ブート・キャンプ」をモチーフにしていたけれど、さすがにそのままとはいかず、ちょっと抑えめに。

テレビで取り上げられ「崖っぷち犬」として引き取り手が殺到することだったり、自分の生活の変化で犬を手放すことに決め、即座に殺されることがわかって持ち込む女、引き取り手を捜すための地道な活動をする親子などはややヒールな役回りだけれど、そこはあくまでも記号的に説得力を持って役を造形させています。 あるいは いわゆるキャリアの男と現場の乖離。誰もが望む職場ではないけれどこれもまた限られた三年という期間でここを通り過ぎていくこと。犬とは全く立場が異なるけれど、出口が見えている三年に対する交わらない気持ちが交錯したりするのです

人数が多いとはいえ、芝居塾の塾生たちの台詞は決して多くはなく、物語を運ぶ中心部分はソルトの役者による、という形式は「発表会」としては関係する観客には不満を残すかもしれません。難しいところで、やはり一定のクオリティが確保出来るのは安心だし、当日パンフを見れば、単に役者としてだけでなく、芝居にまつわるいろいろな役割をそれぞれが担うという「公演を作り上げる」スタッフワークも含めて作り上げるのは確実にそれぞれのスキルと可能性を体験させるという意味で「青少年センター」という場所でやる意味も見えてくるのです。

この手のイノセントな役をやらせると圧倒的に巧い浅生礼史はもちろん安定、古株の職員を演じた東享司のオヤジっぽさが安心感。八埜優のチャラいオヤジは生きている人間をしっかりと、キャリアを演じた山ノ井史は気弱さを印象づける造形で動物だけでなく、人間の間にも存在する理不尽を相似形で創り出すのです。

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【芝居】「艶情☆夏の夜の夢」柿喰う客

2016.8.11 18:00 [CoRich]

シェイクスピアを女優ばかりで上演する人気シリーズの8本目 (1, 2, 3, 4, 5, 6, 7) はとてもメジャーな夏夢。90分。14日まで吉祥寺シアター、そのあと大阪。

八百屋風に傾斜した舞台はリング状でその中央にもう一つの円柱状の舞台。盆踊りを思わせる浴衣姿で見目麗しいダンスと疾走感。わりと登場人物の多い物語ですが、明確にメリハリを付けてメインの登場人物を減らし、さらに複数の役を兼ねるようにしています。恋人たち、妖精の王、町人のボトム、パック。なるほど、シンプルに編集されて実は見やすくなっているのです。

一つの工夫は、花の汁に惑わされている間は関西弁になるという、あからさまだけれど巧く機能するシステムで、女優たちの口調の変化が楽しいし、同じ人物なのに明確に別の人格に見えるのです。もう一つの工夫は、トークショーでも語られた、盆踊りなどをを登場人物たちの属する三つの層に分けていることで、人間たちの盆踊り、その外側に妖精たちのヤンキー風ヨサコイ、その外側に夏フェス参戦のようなTシャツ姿のパックを置いています。パックは芝居をメタ視点で語るのが夏夢の要ですが、踊っていそうな夏フェスの中でも踊らないでちょこまか動いているのが冷静でメタ視点を体現するのです。

パックを演じた千葉雅子の脱力感が楽しい。王に無茶振りされてイヤイヤ従う雰囲気もちょっと可愛らしく見えたりもします。がっつり役を演じるのは随分久しぶりな気もする深谷由梨香はボトムの異物感というか高いテンションが楽しい。妖精の王を演じた七味まゆ味は困ったりしながらも重厚感溢れた芝居。ディミートリアスを演じた岡田あがさは男前過ぎて惚れてしまうけれど、コミカルなシーンがこれだけ多いのも久々な気がして嬉しいアタシです。葉丸あすかは岡田あがさとともに妖精たちのシーンもきっちりで個々も観ていて嬉しくなってしまうのです。

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2016.08.18

【芝居】「彼は波の音がする」キャラメルボックス

2016.8.13 12:00 [CoRich]

二本立てで上演される夏ツアーのもう一本。こちらは男を主役に据え、もう一本では見えていない天使役として福澤朗を客演に迎えています。120分。14日までサンシャイン劇場。そのあと、大阪。

大学時代からの友人が監督として初めて映画を撮ることになり、無名ながら主演を射止めた男はまだいきるはずだったのに天使の手違いで亡くなってしまう。天使の計らいで別に亡くなった男の体を借りることになるが、その男の自伝を書くために取材していたゴーストライターに背中を押され、役者の夢を実現しようとする。

もう一本と同じ時間と物語を共有しつつ、 友人の撮る映画の役への強い執念を持つ役者の側の視点から描きます。それは次々と起こる困難に対してどこまでもあきらめない男の物語。使者の中に別の人の魂が入り込むという「設定」の表現がもう一本とは異なっていて、「中身の魂の人物」の役者が演じるようになっています。もう一本と別の役を演じる役者も居たりして、続けて観ると、少々戸惑う感じもありますが、あまり大きな問題ではありません。

切り開き、物語を進めるという意味で推進力が強いのは今作で、そういう意味で一本で独立して観た場合のおもしろさという点ではこちらの方に強みがあるように思います。正直に云えば、二本立てのタイムテーブルが少々特殊で、たとえば大阪の公演では週末にはこちらが上演されないようになっているのは、正直どうかと思ったりします。客演の都合という気もしますが、それは上演する側の都合であって見る側には関係ないことなわけなので。

いわゆる男同士がヤケに仲のいい「(性的な意味を含まない)ホモソーシャル感」というかバディ感はとても好きな感じなのだけれど(演じる畑中智行、、三浦剛がとてもいい)、そこに「二丁目のアルバイト」という設定を付けるのはいわゆる「アウティング」で少々やり過ぎた感があって、違和感があります。こういうところはわりと繊細に捕らえる劇団なのだけど、ちょっと意外な感じでもあります。

今作においては一歩引いた位置に立つヒロイン・実川貴美子の可愛らしさみたいなものはこちらの方が濃厚に出ていて、もうね(以下略)。あくまでヒールで居続ける林貴子はここまで徹底するとちょっと奥行きがでてきて、むしろもうちょっと物語が欲しくなっちゃうのは痛し痒し。

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【芝居】「15 Minutes Made Volume14」Mrs.fictions

2016.8.11 15:00 [CoRich]

もう14回目になるショーケース企画。休憩を挟んで120分。16日まで王子小劇場。

久しぶりに地元に戻ってきた男、女はずっと待っていた。黒い服ばかりを着ていた男に告白できるのは今日までなのだ。 「日々が黒くなるその前…って、」(キ上の空論/作・演出 中島庸介)
父とは幼くして別の男に引き取られた少女。悪ガキにいじめられても守ってくれるヒーローが居て、高校で気がありそうな先輩に告白すれば断られても教師に口説かれて駆け落ち。風俗店に断られたり、劇団に入ってみればシンデレラの「馬車」役で。「みゆき」(ぬいぐるみハンター/作・演出 池亀三太)
海外に文化人類学で留学していた男が帰国し大学に勤めはじめて、世話になったオカルト雑誌の編集者が挨拶に訪れて留学先の大学での噂話を聞きたがる。寝たきりのはずの妻はすっかり元気で研究室を手伝ったりしている。「ハーバード」(日本のラジオ/作・演出 屋代秀樹)
【休憩】を挟んで、
男の浮気を疑う女は男を問いつめる。連絡ができなかったという時間傍らに居たのは男なのだという。 「虹はどしゃぶりの雨に咲く」)かわいいコンビニ店員飯田さん/作・演出 池内風)
ホームレス、公園で若者に襲われ、やってきた警官はもっと的確に殴る。セックスをじゃまされた半裸の男も着衣の乱れた女も殴る。ホームレスの髪を切りにきた女も殴られる。知らなくても殴られる、貶められる。「前世でも来世でも君は僕のことが嫌」(キュイ/作 綾門優季  演出 得地弘基)(
鏡前、化粧をしている俳優、女楽屋がいっぱいだから鏡前を借りたいと女がやってくる。ひどい化粧を直してやる男。「上手も下手もないけれど」(原案 岡野康弘 作・演出 中嶋康太)

「日々が〜」は地元を突然離れた恋人を待ち続ける女、という風情で語りつつ、それがインモラルな関係だったからこその別離だというワンアイディア。白い服だと汚れてしまうから黒い服ばかりというのを象徴的に補助線のように置いて、クリーニング店につとめた理由に落とすのは、ためにするような話なのがご愛敬。恋人の存在は「世間の目」なのだろうけれど、そこにもう一押し存在する理由がほしくなっちゃうアタシです。

「みゆき」は、 誕生日という区切りで女の人生を早送りしてみせる一本。ある年齢まではきっとお姫様で誰もが人生という舞台でセンターなのに、全員がそうではないということに気づく瞬間。今作では劇団に入って馬車役だから中央に居てはいけないと注意される瞬間がそれなのだけれど、舞台に重ねて描くのは言われてみればそのとおり、巧い語り口だなと思うのです。それでもメゲない女の子、門番の役だって、いつでも幸せの絶頂なのだと感じ続けることこそが輝くことなのだ、というひたむきさは、あまりにまぶしい。劇団のシーンから後は少々わちゃわちゃしてて、もっとすっきり作れそうな気もする、というのは勝手な物言いなのですが。

「ハーバード」は アタシは初めて聞いたクトゥルフ神話をベースに敷いた物語。 子供の頃はともかく、すっかり(江戸しぐさみたいな)オカルトとは距離をとるようになったアタシだけれど、 ちょっと面白く感じる一本。自然というよりはひたすらにフラットを通り越して棒読みのようだったりする妙にぬめっとした印象のある会話で、それが不穏さを感じさせます。不治の病のはずなのだけれど完治した人、というのが何かの入れ替わりによってなされているのだけれど、最後に実はもうひとり「入れ替わって」るというのがちょっと怖い話になっていたりして、15分にうまくまとめた印象があります。

「虹~」は ホモセクシュアルの男たちと受け入れられない女というワンシチュエーションで押し切る一本。戸惑う女・百花亜希がひたすらいらいらするところがやけにアタシのココロをざわつかせるのだけれど、正直にいえばホモセクシュアルに戸惑う、というその一点突破だけでは少々物足りない感じ。もしかしてアタシが何かを見落としてる可能性もあるのだけれど。

「上手も〜」は、彼らが得意な「素敵な男女の会話」風味の一本。vol.1の「紙の上の話」や、何回か上演されてる「お父さんは健忘症」( 1, 2, 3) に近いテイスト。楽屋の鏡前で準備する俳優の横に、新人女優が隣に来て、鏡前を借りたいと云い、それが何日か経ち、何年かたち、という加速する時間の中で二人が歩んでいく、というテイスト。キスするとかしないとか、というところで、くるりと結婚式の控え室に変わるというのが実に鮮やかでカッコイイ。そこを境にして暮らしていく二人、浮気を判ったうえでも歩み続ける二人の姿が実に素敵なのです。

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2016.08.15

【芝居】「麦とクシャミ」青年団リンク・ホエイ

2016.8.11 11:00 [CoRich]

14日までこまばアゴラ劇場。120分。

麦畑だった地域が突然隆起し始め、火口ができ噴火とともに灰が降り始めた。地域には鉄道が走っていて、軍はそれを守るために線路を掘り下げて物流を維持しようとするが、ここで起きているすべてのことは軍事機密だとして村外に漏れないように統制をしく。郵便局長の男は火山に興味を持ち細かく火山の状況や地震、住民からの聞き取りを記録している。

実在した市井の研究者・三松正夫(Eテレの動画, 地質ニュース597号)をモチーフにした北海道・昭和新山(戦後、個人で買い取ったというのが凄い)をめぐるフカバ集落と呼ばれた地域の物語を描きます。軍事機密への指定や隆起のたびに大地を削り線路を付け替えながら鉄鉱石の輸送を確保した胆振縦貫鉄道(胆振線)のという史実が興味深く、あとで検索してさまざま読みふけるのが楽しいアタシです。

その史実を背景に置きながら、そこで暮らしている人々の属性や会話はおそらく作家の創作で作られているように思います。北海道の開拓の一面、それは食い詰めたり一攫千金をねらった人々が全国から集まる場所という特性で、さまざまな地域と方言を存分に盛り込んで その場で暮らす人々がもう畑はできないけれどなかなか離れられずにその場所で暮らし続けること、土地への愛着もあるけれど、流れてここに来たということだったり、あるいは兵士として送り出され女が家を守っていたということだったりを描くのです

物語の中では京都の女郎、東北の農家や金魚の養殖の失敗など様々な背景をもった女たちの暮らしを描きます。生活の風景としての食糧難の中配給の米さえもなかば強制的に供出させられることだったりとか、あるいはその中での疑心暗鬼。あるいは戦後の預金封鎖、大量に発行し戦後紙切れ同然となる戦時国債やそれを買い取って財産税の代納に当てたい資産家に売りつけるといった混乱といった混乱。この場所で起きたことというわけではないけれど、この時代にそこかしこで起きていたであろうこと。あるいは軍人を軸にして広島の原爆を遠景に、ノモンハンでの戦闘にからめて「どれだけの死体の上にのほほんと暮らしているのだ」という強い怒り。更にはどこから来たかわからない男が実は脱走して朝鮮人で、それがどこかに消えてしまうことであったり。この時代の不穏さとこれからのアタシたちの暮らしへの不安をぎゅっと詰め込んだ強い懸念はわかるけれど、正直にいえば、少々詰め込みすぎた感もあります。

時折落ちてくる噴石がお手玉風だったり、 噴火で焼け死んだ兎を七輪で焼くと煙がもうもうと立ち上り、黒ビニルで作られた山が現れるといった感じはある種のチープさがなんか芝居の「見立て」をシンプルな形でやっていて、これだけ詰め込んだ陰鬱な時代なのにどこかコミカルな会話だったりと合わせて、これは作家の持ち味でアタシは嫌いじゃないところ。

郵便局の若い局員を演じた伊藤毅は時に人々に巻き込まれながらもフラットな役を好演。思い背景を背負うけれど、それをあっさりといなすのもいい。岩手出身の女を演じた中村真生の圧倒的でスピードのある東北弁に圧倒されるけれど、実に心地いい。この作家の津軽弁に慣れたとおもっていたけれど、(広義の)南部弁に属するという盛岡弁とあんまり違いが分からないアタシはまだまだ勉強不足。寺の奥さんを演じた宮部純子の関西弁のいけずな感じ、福島だけれどこの座組ではだいぶフラットな標準語に近い緑川史絵など、それぞれの役者につけた方言の対比も楽しい。

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2016.08.14

【芝居】「復讐と美味しい料理は後を引く」競泳水着

2016.8.6 19:00  {CoRich]

中学のいじめが原因で友達を作らなかった女は大学に入ってできた親友の結婚式の二次会の挨拶を頼まれる。その親友は別の友達を紹介したいという。それは中学で自分をいじめていた女だった。 初めてのリーディングといいますが、(別レーベル名義とはいえ)たとえばIn her 20's( 1, 2) はある種のリーディングだったように思います。観てみれば、今作もリーディング以外ではどうやって成立させるんだろうというぐらいに、こういう上演形態がぴったりあう気がします。

基本的には彼女の視点、もしくは客観の視点で物語を進めます。 膨大な台詞のほとんどは、いじめられていた女の内面に割り当てられています。ふつうに生きていたはずの中学生の日常に突然現れた悲劇から始まり、初めての親友、そして憎き宿敵へのあり得ない再会という流れは早々に見えるけれど、60分の芝居でそれだけでは終わりません。恨みはらそうとクラウドの秘密を暴きうまくいったかに見えたその先にいくつもの山場を畳みかけるのが上野節。

女性を描かせるとやけに巧い作家ですが、今作もその絶妙さはかわりません。口には出さないけれど、互いのマウンティングであったり値踏みする感じ。 イマドキらしく、フェイスブックの友達申請をするかしないか・承認するしないの距離感であったり、あるいはクラウドの流出を通して過去が見えるばかりじゃなくて恨んでる筈のワタシと趣味が同じじゃないかということに気付いたり、みたいなさまざまの盛り込み方が巧い。

恨み晴らさずいられようか、ということの着地は毒殺を匂わせつつ、ちょっと尾籠な感じでコミカルに。もう一押し、そういう拘泥が自分に戻ってくるというのもまたコミカル。

恨みをどうしても忘れられないということを単に頑なにそう思ってるというだけで片付けずに「説明」する細やかさもいいのです。「あの時に孤独になってしまったアタシを今のアタシが抱きしめるしかない」という台詞(言葉違うかもですが)が心にしみいるのです。

終盤、結婚する女の視点のシーン。「(いじめられてた女は)なんでモテないんだろう」と、「(いじめてた女は)男にはもてるんだけど、アタシだったら恋人にするのは無理」という冷静さが、ちょっと意地が悪い感じもするけれど、女友達の値踏み感が面白いと感じるアタシです。

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【芝居】「彼女は雨の音がする」キャラメルボックス

2016.8.6 16:30 [CoRich]

一つの物語を中心に男女二人それぞれの視点から描く125分。7日までサンシャイン劇場。

ライターとして働きながら小説家になりたい女。出版社につとめる幼なじみから、大企業の社長の自伝を書くゴーストライターの仕事を紹介される。一度は断る女だが、母親が仕事を辞め叔母と飲食店を始める決意と母親の予断を許さない病気を打ち明けられ、自分の書いた本を出版して見せたいと引き受けることにする。
気むずかしいと聞いていた社長は、会ってみると腰が低いが、過去の話を聞いてもあまり覚えていない。自分が本当のその男ではなく、天使の間違いで死んだ別の男の魂が宿っているからなのだといい、更に その魂の男は役者として映画に出たいのだとインタビューに来たライターに打ち明ける。今なら映画を作るだけの財政力もあると励まされ、映画会社を買収し、熱意ある演技でスタッフたちも巻き込んでいく。

もう一本を後から観て感想を書き始めています。 二本立てのうち、どちらかというと裏バージョンという雰囲気。若い男が叶うはずだった夢目前にして「天使のいたずら」により死んだ男が役者になろうと何度もチャレンジする、という主軸となる物語はもちろんあるけれど、今作の雰囲気はどちらかというと、「老いていくこと」に向き合うような物語に感じられます。物語の完成度という意味ではもう一本に譲る感じはあるのだけれど、もうかなりいい歳のアタシに寄り添う人々が沢山出てくるのはこの「彼女〜」の物語だと思うのです。

病魔で限られた時間、ほんとうにやりたいことに生き生きと立ち向かうことという母親(と叔母)の物語はその「老いる人々の物語」の主軸となります。それなりに貯金だったり地位があったりしても、立ち止まってほんとうにやってみたいことをやる(娘への「もうあまりお金を残してはあげられないけれど、したいことをする」という台詞がとてもいい)という潑剌に刺激を受けるアタシです。

あるいは「中に若者の魂が宿った年嵩の男」が(中の若者の熱意によって)芝居に打ち込んでいく、という物語さえも(見かけの外観では)「ジジイが頑張る」(ブリーザード・ミュージックの台詞ですが)ように見えてくるのです。

終盤、これらの年長者たちに巻き込まれるように、若い女性ライターが前向きに歩き始めます。恋はもう要らないとすら思っていて仕事だけに打ち込んできた女が、ヒトの熱意に触れて、そこに敬意を抱いて恋をしてもいいと思い始めていると感じる終盤が好きなアタシです。これはこちら側の物語の初稿を書いたという真柴あずきの真骨頂。

劇中の時代劇、キャラメルの過去作のあれか、あれだろうなと思いつつ、例によって記憶の曖昧なアタシです。ワンシーンだけですし、今作で物語そのものに影響するわけではないけれど、キャラメルを初めて観る観客にはどう映るんだろうと思ったりもします。

女性のライターを演じた実川貴美子は巻き込まれるように前向きになっていくという若さが勝る芝居で楽しい。役者になりたい男の恋心に気付いてるのかが曖昧な雰囲気もアタシにはファンタジーで楽しい。ホテルの帝王と呼ばれる男を演じた西川浩幸はすっかりと腰の低い感じのままで楽しく、「ジジイが頑張ってる」感が板に付きます。 叔母を演じた岡田さつきはコミカルがちゃんと楽しい。

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2016.08.11

【芝居】「雑種 花月夜」あやめ十八番

2016.8.6 13:00 [CoRich]

2015年上演の「〜晴姿」 より、もう少し後、団子屋(実はもう一本ある)をめぐり、なんとミュージカル。120分。7日まで王子小劇場。

境内の中の団子屋、母親とともに働く三姉妹。東京の大学のミュージカル研究会で知り合い結婚した長女は父親が倒れたために会社を辞め夫とともに実家に戻り家業を手伝っていたが、夫は地味な日々に耐えられず家を出て女の元に転がり込む。
祭りの直前、その夫から近くで会わないかという手紙が届く。

主宰の口上という持ち味の劇団だけれど、指三本でタッチタイプしてるといいながら戯曲の執筆というシーンでスタート。あの口上の口調も好きだけれど、これもまた嬉しいかんじではあります。

前作では三女を描いたけれど、今作は一度は結婚して家を出て夫婦で戻りここで暮らすことに決めたけれど夫が出て行ってしまい、夫を実家で待ち続け、家の仕事からも離れられなくなっている「完璧な」長女をフォーカスします。劇中に挟まれたミュージカルはこの物語の枠を写し取り、ゲジゲジの男と池で暮らす鯉の女、いちどは夫婦に結ばれたけれど結局はゲジゲジの女の元に去ってしまう夫、このちょっと広い池で独り暮らす妻とをミュージカルに載せて作り上げます。

ミュージカルが苦手で、歌い上げるよりも台詞の方が絶対に効率というかテンポがいいと信じて疑わないアタシですが、今作は思いのほか楽しいのです。それは「唄う場面を作るために物語を停滞させない」ということが徹底されている、と思うのです。必要なところにすっと唄を差し込んでくるよう。それは作演・堀越涼と音楽監督・吉田能が高度に作り上げた世界なのです。

団子屋の朝の風景を描くのは前作にもあった気がしますし、実際のところ舞台となる団子屋の雰囲気を描く以上には物語には関与しないのだけれど、ルーチンとなる毎朝の仕事を描くこのシーンが好きです。作家自身が体験してきたことというのもそうだけれど、なにより、普通に暮らす市井の人々に対する敬意に溢れているのが気持ちいいように思うのです。

長女を演じた金子侑加はほんとうに美しく。団子屋の従業員と、真っ赤なドレスを何度も早替えする鮮やかさ。ドレス姿のスタイルの良さに見惚れてしまうのです。臨時従業員のおばちゃん(!)を演じた秋葉陽司の妙なリアリティも楽しいし、劇中ミュージカルでは保安官役という振り幅もちょっとよくて、印象に残ります。

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2016.08.10

【芝居】「ゾーヤ・ペーリツのアパート」時間堂

2016.7.30 18:30 [CoRich]

戯曲を再発見して上演する時間堂の企画公演。初の芸劇・シアターウエストに進出。休憩込み170分に怯んだけれど、思いの外たのしめたアタシです。7月31日まで。

革命によって没落した特権階級は自宅を労働者の住宅として供給されることを求められる。 自宅の部屋の提供を求められた女は、それを断るために架空の人間を仕立て住まわせていることにしていたが、それも難しくなり、縫製のためのアトリエとしての許可を得ることで要求から逃れることを思いつく。同じ場所を夜は客を集めてモデルと称した女たちに踊りを踊らせ、金持ちや文化人たちが集う場所にしている。

ものすごくロシアっぽい雰囲気の話。特権階級の話だし、もちろんアタシの生活や実感からは遠く離れた話だけれど、ピアノの生演奏(そういえば風琴工房もそうだった、というのはトレンドなのかしら)に乗せた祝祭感だったり、ある種の背徳感だったり、権力があればそこには腐敗があることだったり、恋愛模様があったりと、実感のわかない特権階級の話なのに、実に下世話に生きている人間たちの箱庭を覗き込むような楽しさを感じてしまうのも、アタシの下世話なのです。

観客と並んで座る捜査官たち、という演出。隣が女優でもう顔を向けることもできないドキドキの嬉しさは勿論あるのだけれど、その演出の意図は今ひとつ掴みかねるアタシです。観客の視座というにはあまりに権力的だけれど、時代の背景としては、これこそが観客の立場、という歴史的な意味なのかもしれません。

時間堂にしてこの祝祭感は意外な感じでもあります。時代が一回りして串田和美の雰囲気に近づいているのかとも思ったりしつつ。もちろん、そういうバリエーションが数多くできるのは劇団の力なわけですが。

借金を重ねる女が夜の仕事に「沈められる」(別に風呂じゃないけれど)シーンの緊張感が好きです。恋人が居るパリに行きたいけれど借金でどうにもならない女(五十嵐優)、その美しさゆえに取り込んでしまおうという女主人のお互いに自覚しつつの駆け引きに息を呑むアタシです。ドレスを見て嬉しく思う、という女性っぽさもまた素敵。

その下世話の筆頭格を演じた菅野貴夫はほぼ出突っ張り、時に迫力、時に卑屈、時にダンディとさまざまな顔が楽しい。女主人を演じたヒザイミズキは堂々たる風格で居続けなければいけない柱をしっかりと。思えばもう何年観続けているという女優だけれど、こういう風格が備わったのは嬉しい。メイドを演じた尾崎冴子の眩しさは変わらず素敵。金持ちを演じた得丸伸二も貫禄がカッコイイ。

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2016.08.08

【芝居】「だせぇ」艶∞ポリス

2016.7.30 13:30 [CoRich]

ファッションブランドの新店舗をめぐる物語、95分。7月31日まで駅前劇場。

ハイブランドで老舗の婦人服ブランドが新たなサブブランドを立ち上げて、その旗艦店でのオープニングレセプション。雑誌編集長やドラマ脚本家など業界人が招待されて、無事に終わるかと思われたが。

ワタシにはほぼ無縁なおしゃれ業界な話。奇っ怪な服に身を包んでいたり、ノリが独特な業界人たち、あるいはブランドに心底惚れ込んでいたり、この業界を渡り歩いている店員だったり。華やかではあるけれど、これもまた一つの仕事場、そこで働く人々を描くのです。

作家が人々を少しばかり意地悪く描くのはそのままだけれど、もうこのフィールドからは退場するざるをえない人々を描いているのはこの作家には少々珍しい感じがします。。その退場する側にむしろシンパシーを感じるアタシです。 盤石に見える婦人ファッション誌の廃刊、その編集長だってもう退場すべきだということを自覚していること。あるいはその編集長が指摘する、ラクジュアリ指向が持ち味のハイブランドなのに、ブランドに迷走が感じられることだったり。

ダンスをするか寄付をするか、あるいは両方か。アイスバケツチャレンジのような、セレブだけが共有するコミュニティの存在も巧い描き方で、なんかありそうな雰囲気。あるいは、 山田良子というデザイナーをでっち上げてプロフィールをチラシ裏などに載せる遊び心にひと味足してあって、埼玉県出身、池袋に現ブランドの旗艦店という絶妙な嘘は、きっとたたき上げて必死でここまでやってきたのだなと思わせる説得力を背景に描き込むのです。

SNSに写真を上げるからと服を貰ったり、あるいはクレームばかりを言ってくる客の描き方も少々意地が悪い感じで楽しい。 その客に対して正しいコトを正しいと言い続け、きっちり一本筋の通っている店員を演じた上田遥がカッコイイ。あるいは、ファッション誌の編集長を演じた伊藤美穂は、コミカルなところも目一杯だけれど、鋭くブランドに指摘するシーンはきりっとした感じはめずらしい気がします。カリスマ主婦を演じた小園茉奈は、高校の同級生で店員を演じた岸本鮎佳との二人のシーンが何カ所かあって、実のところ物語の本筋ではないけれど、このマウンティングの応酬の迫力が凄い。

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2016.08.04

【芝居】「枯山水」味わい堂々

2016.7.24 18:00 [CoRich]

池田鉄洋を作演に迎えて、7月26日まで空洞。90分。

遠距離恋愛していた男と一年ぶりに出会った場所で出会おうとしていた女はそれが果たされず、大酒を呑んでしまう。意識を無くした翌日、京都・竜安寺の石庭の真ん中で目覚める。昨晩友達になったキャバ嬢が呼び出される。寺の拝観が始まり、客が入ってくる。

京都・竜安寺を模した、縁側と庭。岩がいくつか、砂紋も描かれていて。その小さな場所で目覚めた女と呼び出された女のパニックで始まる物語はサスペンス風味。なぜこういうことになったかという謎解きと、どうやってこの危機的状況をみつからずにやり過ごし続けて謎を解くことに専念するか、というせめぎ合いで物語を推進します。 そこに恋の物語や鞘当てを盛り込んでみたり、笑いも目一杯に詰め込みます。

ゆるく見えて、結構緻密に組み上げられた会話や雰囲気もあったり、役者の力を味わうのが吉。呼び出されるキャバ嬢を演じる浅野千鶴は観客の視座で、この状況に悪態をついたり突っ込んだりが楽しい。取り残された女を演じた宮本奈津美は恋人に恋い焦がれる感じが可愛らしい。ワタシの座った席は一番遠かったけれど、見え隠れも可愛さを加速させます。女子高生を演じた岸野聡子の眼鏡女子っぷりもいいけれど、風俗嬢のはすっぱさもキマっています。男子高校生を演じた細川洋平はオジサンが高校生をやってるぷりがおかしい。坊主を演じた堀靖明はおだやかな会話で通しきるのはわりとめずらしい印象がありますが、もちろんそれでも安定感だし、巻き込まれるというコミカルな役は彼の強みだということを再確認するのです。

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2016.08.02

【芝居】「insider(hedge2)」風琴工房

2016.7.23 19:00 [CoRich]

2012年上演のhedgeの登場人物を引継いだ物語。7月31日まで下北沢ハーフムーンホール。

日本初のバイアウトファウンドの次の案件、岡山の回転寿司店の立て直しが軌道に乗った頃に証券取引等監視委員会の特別調査が入る。。値上がり確実な公開買い付け前に情報を内部者が漏らしたおそれがあるのだという。

風琴工房では初めての続編なのだといいます。傷ついた会社を買収し企業価値を高めた上で売却益を得る、という会社存続のありかたは、私にとっては2013年の物語では縁遠い話かと思っていたけれど、あれから3年を経て自分が経験したことが重なってとても身近な出来事として感じられるようになった、というのが大きな変化。というのはもちろんアタシの変化だけれど。

2013年作では熱い男たちの現在進行形の物語を力強く描きました。今作はその会社の人物たちのあのときの熱い思いを回想として挟みつつ、その想いは変わらないまま新しいメンバーを加えて走り続ける会社を舞台に描きます。前作と同じく、いわゆる「第四の壁」を越えるように役者自身のメタな視点での用語解説をする(映画「マネーショート」より先だった)のも同じ雰囲気。

けれど、「働く男」たちが目標に向かって走る物語を描いた前作とは雰囲気が大きく変わった印象があります。リアルタイムで走る物語ではなくて、前作のいくつものシーンを積み重ね今ここに居る人物がどういう人々や関係性を持って歩んできたかを描写している感じがするのです。物語を紡ぐよりは人物を造形することに力点があるのはこの作家ではめずらしくて。作家が登場人物たちをとても愛している、ということがここまで強く見えるのはめずらしく感じられます。

前作のシーンを回想として挿入するシーンがいくつかあります。「回想〜insiderより」という字幕を必ず付けるのはひとつふたつならいいけれど、映像まで使ってみたり、全部にタイトル字幕をつけるのは正直にいえば少々やりすぎな感じがします。それがなくても回想だということがわかるように作られているし、役者だってきちんと切り替わります。むしろ、第一作を観てないひとがこれをみて疎外感を感じるという副作用の方がでてしまうのではないかと危惧するのです。

新しい上演会場を見つけてくるという点でも圧巻の信頼のある劇団(fringe)ですが、今作の下北沢ハーフムーンホールは住宅街にたたずむ、小さなコンサートホールの雰囲気。コンクリート打ちっ放し、ぐるりと弧を描く壁、高い天井が特徴的で、真ん中に据えられたグランドピアノの生演奏での劇伴という迫力が凄いし、映像を大きく映し出すのもカッコイイ。

序盤で金融用語がわからなくても大丈夫、ということコミカルに演じる板垣雄亮は、調査委員となると圧倒的な声の凄みのようなものが印象的。公務員なのに髭はどうかというご愛敬な杉木隆幸のタヌキぷり、下手に出る親しみやすいコミカルな藤尾姦太郎、誠実に話す印象の小平伸一郎それぞれの調査委員たちもまた魅力的。

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【芝居】「彼らの敵」ミナモザ

2016.7.23 14:00 [CoRich]

アゴラでの2013年初演2015年再演に続く三演も同じキャストで、大きな舞台での上演。 兵庫を経て、7月26日までKAAT。

物語に流れる静かな怒りの感情を丁寧に描いた今作、同じ作家の「エモーショナルレイバー」での社会で起きていることを丁寧に描く、という作家の信頼感。アタシが最初に観て、長い間ミナモザの傑作と思い続けていた「日曜日の戦争」も、今から思えば現実を目撃した作家が描いた地に足が付いた作風なのです。

コンパクトな劇場での二回の上演を経て大きな劇場での上演。ほぼプロセニアムのような一方の客席というのが大きな違いですが、まるでカメラのフレーミングのように、観るべきところを切り取って見せるのは、この物語にとって、見せ方の大きな転換点になりそうです。広い舞台なので、両端にあるテーブルやテントの距離が広かったことは濃密さの点では薄まるけれど、あまり大きな問題ではありません。中央に白い円があるのはこの広い舞台に中心を作るようで、効果的なのです。カメラマンだったり、あるいは女性ライターだったりが真ん中に持っている芯を象徴的に感じさせます。結果として大きな劇場からコンパクトな劇場まで上演できるバリエーションがあるのは確かな強み。

2015年夏からの変化といえば、週刊文春の世間だったりアタシの中での立ち位置の変化で、これはかなり違う感じに見えてくるのです。スクープがこれだけ連発できるということは、今作のようなリスクを値踏みしてリリースする、みたいな(良くも悪くも)ある種の決断をする力のある組織だといことも改めて思うのです。

作家にとってのもう一つのマスターピースになったと思うのです。 もっとも、ここまで全く一緒の役者で上演できたということはちょっとした奇跡で、この座組での上演ならもちろん安定しているけれど、役者や演出が変わったときにどう変化するかということは不安も、あるいは楽しみもあるのです。

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