【芝居】「劇作家女子会!R」劇作家女子会
2016.7.3 15:00 [CoRich]
劇作家女子会を名乗る女性作家四人(坂本鈴、オノマリコ、黒川陽子、モスクワカヌ) の作品を古川貴義が演出する四本立て。10日まで王子小劇場。特設サイトのインタビュー集も楽しい。
家には夫婦と猫が居る。妻は病弱で家からなかなか出られない夫は血のつながった子供が怖くて猫を拾ってきている。最初は慣れなかった猫もずいぶん人に慣れごろごろしている「DOG」(作・オノマリコ)
アスペルガー症候群の診断を受けた女は普通の生活を求めるがなかなかうまくいかない。手足を失った傷痍軍人の妻は一時はもてはやされたが、戦争が終わり復興に向けた人々には混じれずにいる。シリアルキラーの彼女は恋人を殺したいという気持ちと失いたくないという気持ちのせめぎ合いの中、手足を切り落としたい思う。
「だるまかれし」(作・モスクワカヌ)
全国規模のクイズ大会で優勝したがアニメ研究部、それまでハイソで有名だった高校の生徒会はアニメ好きの評判がたち始めたことを問題視し、活動停止を命じるが、部員たちはネット上での活動を通して世間の評判を集めていく。それを止めさせようと生徒会は謝罪を申し込み、学校内部だけで秘密裏に活動するよう抱き込もうとする。
「絶対恋愛王政」(作・坂本鈴)
会社の先輩が理不尽な首切りに合ったことに不満をもち社長に直談判した男もまた、首になってしまう。妻はそれでもいいと受け入れるが、たまたま耳にした噂で実は夫はそんな正義感で動いたのではなく、会社を辞める口実として乗ったのではないかと問いただす。
「幻燈」(作・黒川陽子)
「DOG」は 家で飼われて野生を失った猫。家にずっと居続ける妻と長い時間を過ごすうちに、獣なのか人間なのかが区別つかなくなりつつある状態。あるいは「自分の子供」を設けることを恐がるけれどもらい子を考えたりあるいはペットで代替しようと考える夫。生き物すべてが持っているはずの野生を持つことと失うことを一組の夫婦と猫に乗せて描きます。 いいバランスだったはずのその家族に終幕近くで突然現れる野良犬の野生は彼らにとっては恐怖だけれど、その犬もまた「人間」の世界に巻き込まれるかというのは、動物と人間の境目がどんんどん曖昧になっていくという不思議な感覚をもたらすのです。作家が心の奥底に飼っている何かの気持ちが垣間見える、というとちょっと言い過ぎか。
「だるま〜」は 手足を失った傷痍軍人と妻、恋人の手足を切り落としたいシリアルキラーと恋人の男、アスペルガー症候群の診断を受けた女性の三組を描きます。 アスペルガー症候群の女性を中心に二つのことを描いていて、一つは普通に暮らしていきたいのにそれができないというだけではなく、世間から置いていかれていると感じることを傷痍軍人に重ね合わせて。もう一つは、人と違うことをそのまま共に生きていこうというのではなく、同じになるように治療しようという考え方の違和感をシリアルキラーや禁煙の風潮に重ねて描くのです。
正直に云って、この作家の描く世界は今まで不思議な感覚の面白さはあれど面白く思わせる力強さに欠けるように感じてきたアタシです。その意味で今作は物語の力強さがあって、しかも「普通に生きていきたい」というごく当たり前の感覚を切実に、しかし単にシリアスだけにならないように丁寧に描いていることに成長を感じるアタシです。や、面白かった。
「絶対〜」はポップでイキオイがあって爆笑も迫力も兼ね備えた一本。三次元の女には興味を持てないオタクと、学園を牛耳る生徒会というスクールカーストの格差を明確に示し、少年ジャンプよろしく過剰な演出で描き出していて、時に視点がぐるりと廻るようだったり、時に空を飛び、時にアニメ声の恋愛シュミレーションぽくもあり、そういう意味でも過剰なのですが、それが楽しい。そこでまさかの「ロミジュリ」のような禁断の恋心を描き出す落差も楽しいのです。 「幻燈」は無声映画「東京の合唱(コーラス)」(1931年/小津安二郎) (wikipedia)(YouTube) のシーンを抜き出して役者が声をあてて演じられます。 人のいい会社の先輩の理不尽な首切りに怒り抗議をして会社を辞めてきた男の視点、が、同じ場面を映像で繰り返しながら、また今更始まったと周りが見ている冷静な視点だったり、妻が気づいて夫はそんなひとじゃなくて、もともと辞めようと考えていたんじゃないかとか。映像と弁士というフォーマットに乗せて、場面も台詞も同じだとしても、心の中で考えたことを言葉に乗せることで、同じ場面が全く違う衝動に基づくものだということが印象的に描かれるのです。
| 固定リンク
「演劇・芝居」カテゴリの記事
- 【芝居】「業界~恥ずかしながら、ボクらがこの世をダメにしてます~」Tom's collection(2025.03.22)
- 【芝居】「ズベズダ」パラドックス定数(2025.03.20)
- 【芝居】「夜明けのジルバ」トローチ(2025.03.08)
- 【芝居】「ユアちゃんママとバウムクーヘン」iaku(2025.03.01)
- 【芝居】「なにもない空間」劇団チリ(2025.02.27)
コメント