【芝居】「充電するリアリティ」もじゃもじゃ頭とへらへら眼鏡
2016.7.9 19:00 [CoRich]
日本最大のIT企業の社内ベンチャー、VR事業は収益化の見通しが立たないながらも人間の過去の記憶を抽出し再生して見せる見通しが立った。その発表の直後、部門ごと民間軍事企業への業務譲渡を会社が決めてしまう。聞いたこともない小さな、しかも軍事転用に動揺する社員たち。
三面の客席、それぞれにプロジェクターのスクリーン。キャスター付きの椅子を沢山という舞台。いわゆるIT起業のオフィスと、物語に登場する水族館を一つの場所で転換なく切り替える演出が巧いのです。開場中に演出家じしんが喋りまくって席を勧めるというのも楽しい。
物語の方は、わりと自分の事に重ね合わせるような、ビジネスが譲渡される人々の話なのです。会社が決めた他の小さな会社への譲渡に乗るのか乗らないのか、それを聞いたときの気持ちの初動は、まるで鍵盤を叩いたときのアタックのように強く表れるけれど、時間が経って雇用だったり自分のことだったりと徐々に落ち着くのも、ワタシが感じてきた風景で説得力なのです。
若いあの時に強い気持ちをもって繋がったと思う男二人の終幕も説得力があります。理屈じゃない気持ちをベースにもう一押しの説得力が欲しい気はしますが、大きな問題ではありません。
仕事場を描きつつ、アルバイトの女性の物語は作家の少しばかりのセンチメンタルが可愛らしい。(IT企業らしく)ネットで知り合っただけの男とのたった一回のデート、水族館に行って、そこで話をしようと思ったのに、それっきりになってしまった切なさ。少しばかり臆病で、でもあの時の記憶が改めてVRで追体験できる心安らかさもまた、作家の描く世界。二つの世界を地続きに描けるのが作家のちからなのです。
正直にいえば、前半の人物紹介が少々長くて、全員をきっちり紹介しようという心意気は買うけれど、あとからわかる情報も多いのでここまで丁寧でなく、観客を信じてもいいと思うのです。中盤ではその事業譲渡する技術や人々がなぜそこまで譲渡に抵抗するかがわかりにくいのが惜しいのです。譲渡後に少しだけ語られる、設備がね、やイデオロギー、あるいはもうこの現時点の技術が欲しくてそれ以上の研究開発をさせてもらえるかが判らない、でもなんでもいいのだけど「どうして行きたくないのか」の説得力をもつベクトルがあれば安心だなぁと思うのです。
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