【芝居】「ゲイシャパラソル」あやめ十八番
2016.6.4 14:00 [CoRich]
2014年初演作と交互上演。今回はこちらだけ。 5日までサンモールスタジオ。125分。
平成60年、困窮する庶民たちは違法とは知りながら自分の戸籍(名前)を外国人から金を貰って交換するのが普通になってきている。
きっぷのよいことで知られる深川芸者のなかでも、とりわけ人気なのはただ一人名前を売らなかった仇吉だった。彼女を囲う地元の有力議員は、地元を潤すためにかつての学友で今では一大コンツェルンを率いる中国人と市長をつなぎ、地元への進出をとりつけるが、対価として表向きは違法である30人分の戸籍を用意するように求められた上に、一目惚れした仇吉を賭けて勝負をすることになってしまう。
外国人の富裕層も押し寄せるかわりに格差が圧倒的に拡大している、ディストピア前提の描き方。物語そのものはわりと深刻だし、終幕まで至っても決してハッピーエンドではありません。 が、その中で強く生きる人々を、色街に生きると設定することで劇団が得意とする艶やかさや賑わいに溢れるテイストで描くのです。いろいろなバランスの良さは主宰の作る物語の美点の一つだけれど、今作はそれが相当に成功しているのがとてもいいのです。
格差の中で富裕層やら為政者やらが、どんどん国を変えていってしまうこと、金を落とすということを餌にしたなかばだまし討ちのような序盤から、その場所のバランスを一変させる一番の芸者をとりあうというパワーゲームに至るまで、わくわくと観続けるアタシです。かと思えば、そのあと圧倒的に強かったはずの地元の政治家が劣勢焦りから、呪いにすら縋って(それがもう一作の「諏訪御寮」にゆるやかに繋がるのも巧い)、という一点からくるりと、その向こう側にある物語が姿を現すのです。なぜ一番の芸者がどうして名前を売らずにきたのか、ということが語られ、彼女を巡る運命がさまざまに流転していく足跡を辿る後半は、役者をぐっと絞って見応えのある「物語」を強固に作り上げるのです。
矩形の舞台、隣り合う二辺に客席を設定し、挟んだ角を正面としてつくります。アタシは楽隊の居る側の端に。結果としてはあまり良くなくて、舞台の正面(の角)に対して役者が並ぶ場面が思いの外多くて、役者たちの演じる場所をもう少し後ろに設定するだけで、あるいは役者たちの並びを少し「ぶれさせる」だけでもいいから、もっと巧くやる方法がありそうだなぁと思ったりもします。
一番の芸者を演じた大森茉利子は強い意志を内面持ち続けるめぢからの強さ。ああ正面に座っていればというのはアタシせいですが。幇間を演じた安東信助は、シリアスになりがちな物語を緩める役割をしっかりと、信頼して観られる役者の一人です。恋仲の傘職人を演じた笹木皓太は口上の大声で笑いを取り、キメるところはしっかり、演出に助けられている感はあるけれど、それをきっちり背負えているのも力。市長を演じる北沢洋、利権は欲しいしそれを決断できる立場だけれど不正に手を染めるには躊躇するという年齢を重ねた故の説得力のある役をしっかりと。二役を演じる金子侑加はとりわけ占い師(陰陽師)のトリックスター感が楽しい。
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