【芝居】「エダニク」iaku
2016.6.5 14:00 [CoRich]
110分。三鷹市芸術文化センター・星のホール。
食肉加工会社の一室。ラインで処理しない豚の別畜加工の隣室。最初から最後まで行えるベテランの職人を大量に解雇したため、この仕事ができるたった二人の職人で回している。一人は子供を育てるためなんとしてもこの仕事を続けていきたい。年上の一人は大阪からわざわざ関東郊外のこの会社に移ってきた。
向こうにある牛のラインでBSE検査に必須の延髄が紛失したと騒ぎになっている。この部屋を若い男が訪れる。
小さな食肉加工工場、ラインではなく、ひとりで一頭を担当するという二人しか居ない業務ユニットの休憩室代わりの部屋という、ちょっと脇にはずれた場所。一人は若くして結婚し子供も居て稼がなければならないゆえに必死。一人は大阪から少々訳ありで流れて来た年上の男。たいへんといえば大変だけれど時間やペースは比較的自由になる担当という舞台を設定し、そこに二つの外乱を入れて物語を紡ぎます。一つは中年ニートだったけど最近仕事についたという外部からの男、もう一つは向こうのラインで無くなって大騒ぎになっている延髄とそれに関わりがあるだろう(舞台に現れない)男。生活と仕事、仁義とある種の格差をぎゅっと詰め込んだ濃密な題材が混ぜ合わさり、時に発酵するほどに時間を背負い、それぞれが大事に思うことの差、パワーバランスの不安定さがあいまって、強者というか「自分のいうことを聞かせる人」が変化していく会話は実にスリリング。緊張感ともいえるけれど、会話じたいは時に滑稽さがそこかしこに紛れ込んでいて見やすくて、それなのに「会話劇を見た」という満腹感が得られるのです。
「休憩中に焼きそばを食べる」ぐらいのゆるいシーンから軽く始まる日常の会話(カップ焼きそばを丁寧につくり、それを混ぜないで食べる癖なんてのもちょっといい)。普段この部屋に居る二人だけならばそれはなんてことない日常のになるはずの序盤は何かが起こる嵐の前の静けさ。向こう側で事件が起きていることをにおわせつつ、この場所を訪れる若い男。材料をわりと早い段階で揃えてしまって、そこから何が起こるのだろうと わくわくするアタシです。
反射的に持ってきてしまった延髄をどうするか当の本人すらもてあまして、延々と繰り返される会話、何を解決したらこの閉塞から抜け出せるか誰にもわからないまま進む会話が楽しい。もうこうなると物語の決着がどうなってもよくて、とすら感じてしまうのはもはや会話のリズムや音が心地よいということなのかもしれません。
iakuにハズレ無しというのは間違いないし、全体に少人数の会話劇中心の作品群 (1, 2, 3, 4) だけれど、「人の気も知らないで」や今作のような3人構成でシンプルな舞台で語られる会話劇がとりわけ好きなアタシです。
三人の俳優はいずれもちょっと軽い感じ人物造形が魅力的。 年上の社員を演じた緒方晋はこの劇団の芝居ではなくてはならない役者だけれど、ワケアリという人物の圧倒的な説得力。若い社員を演じた村上誠基は、抑えたフラットな人物だけれど、妻子供を養おうという必死さからにじむおかしみの奥行きがいいのです。外部から来た人物を演じた福谷圭祐ほふてぶてしく憎たらしい感じ、どう考えても強者であることには変わりないのだけれど、ちょっと凹まされたりするあたりが何か可愛らしく、なんか愛すべき造形がいいのです。
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