【芝居】「青森に落ちてきた男」渡辺源四郎商店
2016.5.4 19:30 [CoRich]
8日までスズナリ。100分。そのあと青森駅にほど近い稽古場で一週間の公演が予定されています。
山の上で暮らす人々。かつては牛が居てのどかな村だった場所。戦争が始まり敗戦が濃厚になりつつある。獣医の義父と暮らす姉と知恵遅れの妹が暮らしている。夫は徴兵されていていない。夫に限らず若い男は徴兵されて残っているのは老人や女たちばかりになっている。
市街地は焼夷弾で焼き尽くされる空襲を受けているが、ここまでは来ないと思っていたが、爆撃機の一つが向かってきて山に墜落する。その搭乗員の敵兵の一人が捕らえられる。国際法では捕虜は守られるべきだが、無差別の空爆をするのだから元軍人はすぐに殺そうと主張するが、獣医の義父は命を助けようと離れた病院に連絡をする。
太平洋戦争時、防空法により強制的に疎開から呼び戻されて多くの市民が犠牲になった青森空襲をみていた村落をモデルにしながら、今作の物語そのものは明確な時代を示さず、着ているモノも現在の衣料だったり、あるいは敵兵は鬼ヶ島に住む角のある鬼だったりと、フィクションとして語られます。
市街地は壊滅的な打撃を受けているけれど、この場所は女子供と老人ばかりになった村落はどこかのどかな雰囲気すら感じさせます。
が、表面とは裏腹に、こののどかに見える人々の心の中に芽生える邪な心を描くことが物語の中心になっているのです。確かに鬼の恰好をした敵兵は目に見える形でそこにいるけれど、思考停止して敵兵を無条件に殺してもいいと思ったり、言いつけられない知恵遅れの女を襲って慰み者にしてもいいと考えたり、あるいは同胞を殺されて心底にくいと考える心すらも、人を貶め傷つけ殺してもいいと考えるそれぞれの心の中に芽生えているものが鬼そのものなのだ、ということが見えるのです。さらには人体実験だったり捕虜の扱いだったりと、あの戦争で日本人が行ったことかもしれず、あるいはこれからだって状況によっちゃワタシ自身だってやりかねないことが濃密に詰め込まれた物語の濃さ。
過去のことだけに留まらず、現在のワタシ達に直接繋がるような課題の設定をうまく巻き込んでいるのも物語を濃密にしていきます。 フリーハンドで権力に強い力を与える防空法に似た法律を災害対策の名目で作ろうと思う政治家がいまこの時点でまだ居ることだったり。終幕近く時代が流れた後の戦争ではまったく別の形の兵器で、それは白ずくめの服を着なければいけない状況なのだということは作家の強い危機感と憤りがこもった部隊になっている、と思うのです。
主役の女を演じた三上晴佳は、等身大の女性の内面に鬱積した想いが表出するシーンの迫力がすごい。ほぼ出ずっぱりですが、テンションもきっちりと。獣医を演じた長谷川等は久々に拝見する気がしますが、どこか飄々としながらも一本スジが通っていて実にカッコイイ。妹を演じた夏井澪菜は衣装もぱっと見やけに肉感的なのだけれど、知的障害からくるあどけない舌足らずな言葉と一歩間違えば陳腐でステロタイプになりかねない役をきちんと踏ん張って描くのです。村に戻ってきている若い男を演じた工藤良平はコミカルに喋り、いい人っぽい雰囲気なのに考えてることは実に酷い、というヒールをきっちりと。
鬼との戦い。鬼ヶ島。 青森の市街地は焼夷弾が大量に落とされる空襲を受ける。 山あいの村。飛行機が墜落し、鬼が一人助かる。 発達障害の25歳の妹。出征している夫。夫と妹ややってる 軍人のジジイ、獣医のジジイ、飄々とかっこいい。
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