【芝居】「翼とクチバシもください」クロムモリブデン
2016.5.14 18:30 [CoRich]
22日まで RED/THEATER。そのあと大阪。久々の劇団員だけの上演という100分。
ドラッグ・アンディに溺れて収容された男は、すでに捕らえられていたアンディの売人の男の脱獄を手助けし、同行して密売のルート摘発を命じられる。二人は仲間とともに影でアンディの密造を行う目薬メーカに目をつけ、侵入して様子を探ることにする。
密売ルート摘発の手助けをするはずだった男が警備員として潜入する。
その施設に入っている男を、女が訪ねてくる。その女の夫を殺したと思い込んで男はアンディに溺れていたのだった。アンディのトリップから抜け出すためにはリキッドという薬が開発されている事を知り、医師の制止を振り切って女はその空間に飛び込んでしまう。二人が知り合ったのは、死んだ夫が妻の監視を男に頼んだことがきっかけだった。
物語の中で扱っているからか、ぐるぐると頭の中をまわり、擬音がやけに協調されたり、あるいはフラットなかつての思い出が想起されたり。そういえば、クロムってちょっと前はこういう感じだったな、ということを久々に思い出す懐かしい感じでもあって。
巻き込まれた男がやけに喜怒哀楽が薄く、フラットな感じ。前半は巻き込まれていく男を中心に描き、アンディという薬、その売人たちの暗躍、密造される会社、その警備員たちの退廃など世界を次々と描き出しながら物語が進みます。お茶を入れ、カップを渡す動作ひとつとっても、口三味線よろしく大げさな擬音をつけてみたりと、視覚聴覚のバランスがおかしくなっている感じはまさにトリップしているよう、というのは後半になって気付くのですが。 確かにこれはかつての惑星ピスタチオでの「パワーマイム」風、なんてことを思ってしまうのはアタシがいい歳だからか。(あるいはアタシが観てないだけで今でもまだあるのか。)
ネタバレかも
後半では一変、フラットに普通の会話劇が差し込まれます。「現実の」世界で起きていたことが徐々に明らかになっていくのです。妻を監視して欲しいという友人に頼まれた男、そのちょっと倒錯した不自然はやがて、その「拘束された」状況に置かれた二人の不思議な連帯感、いや恋心に進んでいく感じ。それは明確なラブストーリーではないけれど、そういう縛られ方の状況が気持ちを揺らしていく、というのはなんかとても大人な、インモラルな世界だと思うのです。これ、若い人にはわからないんじゃないか、この恋心の感覚。
淡い恋心、友人の死、それに苛まれてドラッグの世界に逃避してしまう感覚、観ている最中はなんか訳判らない感じだったけれど、振り返ってみると、ごくシンプルな男の感情の上に構築されたフラットに描かれた物語なのだなぁと思うのです。
監視される女を演じた渡邊とかげがほんとうに魅力的。スーツ姿、水商売風、自宅のふわっとした服など艶やかでもあって、ほんとうに大人の女性をきちんと丁寧に紡ぎ出していて、見惚れてしまいそう。苦悩する男を演じた武子太郎はそのクールなゆえに狂いたいのに狂うことができない苦悩をしっかりと。監視を依頼した男を演じた 花戸祐介はこれもまたフラットに狂う男がやけに説得力。看守を演じた吉田電話は強大な権力、という立ちはだかる感じがいい。売人の男を演じた森下亮、全体に新人が多くなった今回の座組のなかではやや引いた立ち位置という感じではあるけれど、出てくるだけでどこかおかしい奴に見えるというのは凄いこと。確かに。
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