【芝居】「アンコールの夜(女を読む)」KAKUTA
2016.5.15 13:00 [CoRich]
20周年の企画公演。「男」バージョンと交互に上演。そのあと「猫」バージョンも上演。120分。すみだパークスタジオ倉。
派遣会社で同僚の年上の女はちょっと鋭くて、でも自分には小さな尻尾が生えているのだといっけんおかしなことを云うけれど、ワタシは素直に信じられる。派遣先の男にデートに誘われるが盛り上がらなかった。が、派遣終了の日にまた挨拶される。
「エイコちゃんの尻尾」川上弘美(小学館文庫刊『天頂より少し下って』所収)
遊びに行った配偶者と高校生の息子を帰りの飛行機事故で亡くした。大きな欠落感で張り合いのない日々を暮らしていた。
家賃収入のために残されたアパートの入居者もどんどん減っていて最後の一人となり学生一人になってしまった。ある日、学生が倒れているのを見つけ、その世話をすることで生活に張りができる。母親と呼んでほしいという思いを伝えると。
「生きがい」小池真理子(角川ホラー文庫刊『ゆがんだ闇』所収)
恋愛など唾棄すべきものだという女二人。きっちり収入は得られている二人の女、男に媚びる気はないが、冒険したい気が止められず、無縁な人生送ってきたのに唐突にバンドをしたいと一人がいいだして、バンドはあっという間に人気が出るけれど。
「炎上する君」西 加奈子(1)(KADOKAWA刊『炎上する君』所収)
婚約した女、婚約者と歩いていて、ふと地面を見てヘビをみつける。たしか見覚えがある。そうだ、前世では恋人だったのだ。
「いつか、ずっと昔」江國香織(1)(新潮文庫刊『つめたいよるに』所収)
・夫婦が公園で待ち合わせて遠くの他人たちの会話をアテレコしたりして遊んでる。アシスタントが荷物を届けてくれた。ホントに離婚するんですかと尋ねる。・引っ越しを手伝いにくるアシスタントたち。男女の違いとか離婚するとどうなるかとかを話したりする。その部屋の夫婦は離婚して二人とも部屋を出て行くのだという。・出張に来た妻、昔の恋人に会っている。何かに勝とうとしている、と云われる。・間違って持っていった本は滅多に読まない小説だけれど、面白かった。待ち合わせて離婚届を出しに行く。・離婚は成立した、何で別れたんだっけ。でも、初めてのライブのチケットで盛り上がる。「女を読む。」桑原裕子(オリジナル)
「〜尻尾」はふらふらしてるところもあるけれど、正しいことを云ってくれる女友達は自分には尻尾があるという、というちょっとコミカルな枠組み。優しかった男の人のクルマに一緒にうっかり乗ったりすると、若い女の子が怖い目にあうというアタリマエのことだけれど、そこを救ってくれる女友達はヒーローのよう、その助け方もキスひとつ、というスマートさなのです。
同僚に誘われた映画で意見が合わないと思い、居酒屋での食べ物の分け方に違和感を感じ、というあたり「嫌なんだけど、言い出しづらくて、致し方なく流す」というのは女性というジェンダーによって作られるんだろうなぁと思いつつ、ああそう思わせてることあるんじゃないかと思ったり思わなかったりなのです。
「生きがい」は少々トリッキーな作りの物語。小説なら文字だけで通せる嘘を生身の人間が演じる難しさをリーディングというギリギリ演劇の枠内できっちり作り込むのは演出のちから。 KAKUTAの最近は桑原裕子が作演がほとんどだけれど、リーディング公演がは演出に専念できるというどこか筋トレのような強化ポイントなのだろうなぁと思うのです。
「炎上〜」は爆笑編。強いというよりは、金も知識もあるけれど男受けということにまったく興味がない女。何かの冒険がしてみたい、といいながら別の収入の道をしっかと確保した上で、というのは堅実で、それが逆にコミカルだったりして、なんか女性っぽいなぁと感じるのはまあ思いこみか。
足が炎に包まれ炎上する、というファンタジー要素を入れてはいるけれど、それよりも、このばりばりと冒険を進め、それなのに心は醒めて不感症だという女二人のキャラクターが、後半に至り「炎上する君」を追いかける気持ちが燃え上がり、フラットに人間を見つめる目に恋をする終盤はまるで資生堂のシャンプーのCMのように爽快で楽しい。
それは「ぶさいくな女であるということで云われなき迫害」受けてきたが、「バカで性欲をもてあます」男にはなりたくないという閉塞感の先の開放感なのだと思うのです。
異儀田夏葉と桑原裕子の二人がもう突き抜けてコミカルでパワフルで楽しい。終盤に至りモテというか女を意識してくるりと変身するという瞬間も、なんかすてき。バンドTシャツを衣装として作って、物販で販売するという洒落ッ気もいい。
「いつか〜」は女が過去の男たちを思い出して思いを馳せる気持ち、 ほんのわずかな時間の間にぐるりと人間じゃないものだった前世の恋人に思いを巡らせるのはどこかファンタジーの香りなのです。 一回りして元のところに戻ってくるのは、成長というよりは、もう結婚への強固なレールに乗り始めた女の些細な心の揺れを丁寧に描くのです。
正直にいえば「炎上〜」と「いつか〜」は逆の順序で上演されたと思い込んでいたアタシです。友人たちもこの順序の意味がわからない、という指摘をしたりして。
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