2016.2.13 14:00
[CoRich]
14日まで十色庵。3月に熊本で4ステージが予定されています。120分。
1)眠りに見放された女、もうずいぶん寝ていない。男を組み伏せるように、誘うようにしても眠気は女を組みし抱いてはくれない。「ベッドにて」(作・黒川陽子)
2)部屋があまりに汚い。洗濯も食器も、さまざまなものが。1LDKの勇者は戦うことを決意するが、魔王はあまりに強い。「1DKの冒険」(作・坂本鈴)
3)下着姿の女たち。スマホの恋愛シミュレーションというよりはエロゲーにはまっている。実物の男とはもう2年もつきあってない。現実の男よりも、スマホの中の彼の方が都合がよくてよくない?飲み会の誘いもあったし、昔手痛くフった男もいるけれど、ちょっと面倒か。「脳内女子会」(作・坂本鈴)
4)着ていく服がない。飲み会に行くにしても。職場の後輩のアドバイスもファッションもあまりにきつい。でも勇気を振り絞って会場に行くが、かつての男も、友人たちも何かをなしとげている。自分は30歳になるまでなにをしてきたんだ。後輩すらも。「手のひらマクベス」(作・黒川陽子)
5)これは一日の話。今日はなにも無かったことにしよう、とはいうものの。「10978日目の鏡」(作・黒川陽子)
バラバラのオムニバスに見えながらも、
実は、独身アラサー女のある一日をいろいろな切り口で描いていることが徐々にみえてきて、ちょっと圧巻。25歳の時は何でもできると思っていたけれど、何者になれていることもなく、英会話もエステもダイエットもなんとなくモノを買ったりはしていてもものにならないまま押入にはいったまま、そんな部屋でぼんやり眠れなくなったり、一念発起して掃除をしたり、一休みしてハマっているエロゲーのキャラクタに恋をしたり、あるいは久々に会う友達にときめいたり、あるいは彼らと比べて何者にもなっていない自分にがっかりしたり。
それぞれの短編はバラエティにあふれていて、ぼんやりゆっくりする気持ちの独白であったり、RPGになぞられたようなコミカルで大げさな爆笑編だったり、少なくとも作家が思う女性の正直な性欲、あるいは恋心と自分のどうにもなってなさを冷静にみつめるものであったりと見応えがあります。プロローグとエピローグは全体に対する構造をつくるので、このオムニバスで生きるけれど、間の三本はそれぞれ短編として上演されても大丈夫な見応えがあるものを、この構造の中に入れてぱずるがはまるようになって企みが巧いのです。
プロローグを担う「ベッド〜」は、ねむけ、という毎日床を伴にする相手と寄り添えない焦りと、それを求める気持ちとというワンアイディアが新鮮でおもしろい。一週間前の飲み会の誘いが、この困惑のきっかけというのはあとからわかるおもしろさ。
正直にいえば、いつまでもおなじところをぐるぐると回る感じではあるのが序盤から長く感じさせるけれど、それは(アタシにも年に1、2回はある)寝られなくて困る長い夜ということの気持ちに近い感じが後からじわじわきます。
一転してコミカルなRPG風に始まる「1DK〜」はイキオイがあって楽しい。やりたくない掃除によって汚れとか散らかりを、まさにやっつけようという闘う気持ちはたしかに女子っぽい。芝居でRPGをコミカルに使うのはよくあるけれど、天日干しとかハイターとか、あるいは引き出物のワイングラスを見つけるとか、「いつかは」という強大な敵とかという、ディテールがあるある、な感覚が身の丈っぽく。
女優たちが下着姿というだけで眼福な「〜女子会」は、表面的には下着という「見られること」とイケメンキャラという「見る」ことという軸で描きつつも、実は女性が一人で自分に向き合う気持ちを描く一本。本当の女性の気持ちはもちろんアタシには判らないのだろうけれど、
相手がいてその関係で昇るのとは違う、一人で性欲に向き合い、いっとき我が侭となる、まさに「孤独のエッチ」として、食欲ならぬ性欲に向き合う一本。キャラクタを書き分けるために複数で一人の脳内を芝居にするという方法が、眼福も含めてうまく機能しています。一人芝居にしてももしかしたらおもしろいかもしれないなとおもったりしつつ。
「〜マクベス」この5本の流れの中ではメインとなる戦い。この一本だけがわりとふつうの会話劇になっているけれど、ここまでくると、これまでのそれぞれのパーツにつながっていることも薄々見えてきて、等身大のアラサー近づいているのに何者にもなっていない主人公の女性が少々焦っている気持ち、深い奥行きをもって描写されるという結実。若い後輩に連れて行かれた若者向けの店のラインナップも雰囲気も
微妙に合わないという焦りを「服が手のひらを返す」と表現することばも見事だし、マクベスでいう「女の又から生まれなかった〜」(が、帝王切開という例外がある)を「店が手のひらに収まるなら」(が、ネットショップという例外がある)という対比にするセンスもちょっといい。
エピローグを担う「〜鏡」は、全体を俯瞰して、同じ日におこった出来事をさまざまに切り取ってみせたのだ、ということを明確に種明かしする一本。これまで生きてきた日々の先に、でも山も谷もある人生のレールがある、ということに果敢に立ち向かう女子の気持ちが静かに、しかし力強い。これを眩しく感じてしまう、というのはアタシがあまりに歳をとったからか。
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