« 【芝居】「値千金のキャバレー」ホチキス | トップページ | 【芝居】「そして母はキレイになった」ONEOR8 »

2016.02.05

【イベント】「私、洗濯機をさらいにいくわ」(月いちリーディング / 16年1月)日本劇作家協会

2016.1.30 18:00 [CoRich]

このリーディングシリーズでは初めてという一人芝居、60分ほど。

アパートの外にある洗濯機に女が忍びよる。かつて同居していた男が買ってきた中古の洗濯機を男との思い出を断ち切るために置いたまま引っ越したものの、未練を捨てきれずに再び手元に置こうとしている。

2014年、現実に行方不明となったマレーシア航空・北京行きの航空機の事件を題材に、それにより男を失った女の情念が支配する物語。もう一年も経ちあきらめてもいいということは心の隅で思いつつも、その男の痕跡を追い続ける女。かつて暮らしていたときに彼が買ってきた洗濯機を取り戻しに行く、というタイトルそのままの序盤は突飛さと情念とで妄想ともいえる世界に一気に。「さらった」洗濯機を延々運ぶ中盤はちょっとコミカルで日常の延長線上にのるようで楽しい情景をつくり、後半ではまた違う「文法」で洗濯機の中で絡み合う自分と彼の服、そこから現実を受け入れる女。という三段のながれになっています。

序盤で唐突に「マクベス」といってみたり、やや時代がかった感じは苦手なアタシだけれど、観客を交えたラウンドテーブルの中ではこの部分を「唐十郎の文体(弱者が平衡を保つために夢想の世界に逃げ込む)」という言葉で。 後半では、文体が全く変わっているという指摘通り、なるほど、少々まがまがしいけれど、「唐」とは違う文体だということもよくわかります。洗濯機が唯一の彼とのつながりだからここまでの狂気になっているかと思えば、女の部屋にはあっさり彼の服があったりしていろいろ荒削りで覚束ない感じは残るけれど、洗濯槽の中で混じり合う二人の服であったり、濡れている彼のシャツを着て男が海の底に沈んでいることを感覚として理解する、という終幕は巧い。

とはいえ、あたしが好きなのは日常に地続きに感じられる中盤なのです。とりわけ、彼が買ってきたリサイクルショップ店長との会話のシーンがいい。もう居ない彼のことを覚えている人が自分以外にここに居る、という当たり前のことだけれど、それは女の妄想などではなく、確実に生きている人がかつて居た、という奥行きを作り出すのです。

リーディングのあとに作家を囲み、コーディネーターやファシリテイター(演出を兼ねます)、役者や観客が戯曲のブラッシュアップを目指して話し合う時間が設けられています。その中で作家は「中国人の造形のリアリティ」や「男が行方不明になったことを知った女が旅先で歩く空港のリアリティ」をずいぶん気にしているよう。ワタシには気にならなかったけれど、作家の拘るポイントが見えるようで楽しい。

|

« 【芝居】「値千金のキャバレー」ホチキス | トップページ | 【芝居】「そして母はキレイになった」ONEOR8 »

演劇・芝居」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 【イベント】「私、洗濯機をさらいにいくわ」(月いちリーディング / 16年1月)日本劇作家協会:

« 【芝居】「値千金のキャバレー」ホチキス | トップページ | 【芝居】「そして母はキレイになった」ONEOR8 »