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2016.01.27

【芝居】「俺の酒が呑めない」青年座

2016.1.23 16:00 [CoRich]

箱庭円舞曲の古川貴義が青年座に初めての書き下ろし。31日まで青年座劇場。130分。

仕込みで忙しい日々を送る酒蔵。東京から移住してきた夫婦の酒米も今年はできが良い。東京に出て映画監督になろうとしていて音信不通だった長男が突然戻ってくる。知り合いの大手居酒屋チェーンのバイヤーを連れ、専属契約をとることで実家を助けたい気持ちだったが、蔵を継いだ妹はそれを拒絶する。小さな蔵でなんとか従業員は食べて行けているし、客も定着し仕込んでいる酒の売り先は既に決まっていて、大手チェーンに出すほどの量の酒をつくることは出来ないと考えている。

ロビーから劇場の扉を入った瞬間に香る麹の香り、あるいは小さな酒屋らしくしつらえたタンクや仕込み表を目にしながら客席に。舞台もその延長線上にあって、事務室まわりを舞台にしつつ、舞台上方奥には、酒蔵のシンボルでもある杉玉がつられている奥行きのある舞台。いくつか目にしたことある酒蔵の雰囲気が呑兵衛にはうれしい。

人や家族のはなしでありながら、仕事の矜持といったものを併せ持った物語。作家が得意とするパターンではあるのだけれど、歳を重ねた役者たちが時にコミカルな寝技、時ににじみ出す圧巻の説得力で作り上げるのです。いくつもの軸を編み上げていく物語の奥行き。

たとえば、仕事を軸にした話。 必ずしも当主が酒を巧く造れるわけではなくて、外部の人間が杜氏の長であったりすること、過去の失敗と呼んでもらった恩義で味を守り続けること、あるいはそれに応えるような手厚い処遇ということであったり。それを重んじるあまり時に「赤字ではない」という収支で、後継者が育たないままでもなんとかしようとする無茶さでもあったりするのですが。

たとえば家族や地方こコミュニティのこと。地方のしかも造り酒屋にあって重要な後継者とか長男とかの問題。酒を体質が受け付けないなど理由があったにしても、出て行って音信不通になってしまった兄と、その結果進学をあきらめて後を継いで震災も越えてなんとかここまでこぎ着けた妹と。都会特有の軽さでどこか優先順位低く、自分には田舎というセーフティーネットがあるという感覚であれこれつまみ食いしたあげく困って戻ってきた兄の感覚と、 その場所で地道に仕事をして暮らしその場所が生活もある種の希望のすべてだという妹やまわりの人々の感覚と。都会からやってきた若い夫婦というのはまた違うベクトルだけれど、そこになじんで暮らしていける人がいるのだ、という希望を差し色のように。

そのまわりに、さまざまな立場の人々を象徴的に配置します。子供の頃の自分もずっと知っていていて、用があるんだかないんだかわからないのに毎日のように訪れる人が居たり、青春の甘酸っぱさが漂うようなあのころの知り合いが家族になってたりいまでもつながったりの感覚は、時にうざったいけれど濃密なコミュニティの姿。軽薄に見える兄だって、実家のことを考えてのこの行動。もしかしたら浅はかかもしれないけれど、東京の大資本がはいった大手チェーンへのつながりという「武器を持って」現れ。 ついこの前の舞台では引き締まったシリアスな外交官を演じた横堀悦夫が軽薄と云ってもいい兄を軽やかさに演じて振れ幅に驚き。 跡を継いだ妹を演じた小林さやかは、まっすぐで実直にというわりと得意な造形、酒への愛を感じるのは役柄以上な気がするのはまあ、気のせいか。 東京からのバイヤーを演じた椿真由美、巻き込まれ感満載というのはちょっと珍しい気はするけれど、凛として立ち続けていることの説得力と、しかし一ヶ月も、というどこか(元の同僚への)愛情を感じる繊細さも。農協のおばさんを演じた井上夏葉、びっくりするほどのかき回し力で、実は物語を推進させて、だらだら続きそうな流れを断ち切ったりとリズムを作る重要な位置をしっかりと。 恋心を抱く中年女性を演じた松熊つる松、じつに可愛らしく、ドジっ子が入るのもまた面白い。 ベテラン杜氏を演じた津嘉山正種のすごみ、確かな力はあっても過去の痛恨をバネに歩んできた推進力が、歩みを緩めるある種の哀しさ。老齢の父を演じた山野史人の優しい眼差しで子供たちを受け入れる度量。若い夫婦を演じた逢笠恵祐・小暮智美は時にバカップルっぽさも楽しく。福島県出身の二人というのも物語に対しての力になるのです。 若い杜氏を演じた前田聖太まっすぐな勘違いは輝くような若さを体現。夫を演じた若林久弥のじつは冷静な雰囲気はとりわけ後半の経理の話に説得力。

配役表を無償では配らないということに批判的なアタシですが、劇団サイトにはきちんと情報があるし、上質な当日パンフも300円というのも実は心意気で買ってしまうアタシです。抽選で商品が当たるくじ引きにも参加できて、外れたけれどこれも正月らしく楽しい。

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