【芝居】「もっと美人だった」箱庭円舞曲
2015.11.7 19:00 [CoRich]
15周年の記念公演。9日までスズナリ。130分。
収支報告の虚偽記載容疑で世間からバッシングを浴びることとなった町議は姿を消し、ヘイトがエスカレートして妻は別の場所で暮らし始める。大学のゼミでは助教が好意を持つ女の学生は先輩に好意を持っていて、でも宙ぶらりんの状態で。家の二階の一室で生徒を募って始めていたキレイになる教室は、そう繁盛するでもなく。
舞台下方に町議の妻の暮らす居間、舞台左上に大学のゼミを行っている準備室、舞台右上に教室を開いている和室という三つに区切った装置。
手前の居間のシーンは現在。 姿を消した町議の残された妻、連絡はあるけれど居場所は知れず、国会議員やら元秘書やら後援会長やらがいろんな意味で心配して訪れたりするけれど、身の危険さえ及ばなければ、自分を信じてぶれない女。それまでの背景も含めていろんな人々につながっているけれど、長いあいだつきあっていれば、誰が正しくて、あるいは誰が自分の味方でということだって変わるのだという、ある種の心理は振り返ってからこそ見えた風景。それはもしかしたら15周年を迎えた作家自身の正直なきもちかもしれません。
左上はもっとも昔。 大学生は恋に揺れ、好きな人に好きといってもらえず、しかしどこかゆるい感じで口説かれもしたり、他の人の好意や評価に気づかない若さ。自分がコンプレックスで、美しくなりたいという気持ち。若い故に悩み、自分の力で考えるある種の地頭のよさをきちんと描いているということがあとからじわじわと効いてくるのです。
右上はその間の時間。 和室は何かのお稽古。ワークショップのようでもあり自己啓発っぽくもある雰囲気は、まあ確かに怪しくて、しかし「きれいになる」ということを考え抜いた結果の彼女なりの理論というか考えを体現している場所、という描き方。効果に疑問を抱きつつも半年も通い続けている「素直な人」と外面はいいけれど取材を隠して通っている「斜に構えた人」のシーンが圧巻。「あなた」と言い合いながら、何か相手をほめる、それをオウム返しするということを繰り返すのだけれど、そこに悪意であったり小馬鹿にする感覚だったりを混ぜると簡単にそれが崩壊していくというシーンが圧巻。単に「ブス」と言い合うだけになっていくあたりはもうばかばかしくなるような感じではあるのだけれど。
三つの場面、最初の電話で時間軸を観客に誤解させるようなミスリードを意図的に置き、しばらくは平行して進んでいるように見せるけれど、同じ頃に台詞に現れる二つの飛行機事故の片方が群馬であり、もう片方がアメリカ、というあたりでそのあいだにずいぶんな時間が経っているということが見えてくるのです。三つのシーンはそれぞれだいたい15年離れていて、それはやがて一人の女性の人生の三点を描いているのだということが見えてくるのです。
一人の女性の30年の三つの断面を見せるという厚みが楽しい。現在を演じたザンヨウコはしっかりとしていて、しかし年齢を重ねたからこその余裕というかゆったりが心地よくて確かな力。大学生の頃を演じた白勢未生は美人じゃないというコンプレックスに説得力が無いのは美人ゆえのご愛敬だけれど、しっかりと考えて喋る圧力がいい。稽古をしている女を演じた牛水里美は突然始まる喧嘩に困る感じ、静かにたたずむフィギアのような美しさ、あるいはレイプされかける切迫感などダイナミックレンジが広くて相当に消耗しそうなシーンばかりなのだけれどそのどれにも説得力があるのです。
そのレイプしかけた男を演じた安藤理樹、チャラい感じに見える演技もあるんだなぁと改めて。 教室に通う女を演じた辻沢綾香は実直で真っ直ぐなのが可愛らしい。もう一人の生徒を演じた川口雅子、途中からのヒールをきっちり背負う感じも現代に現れてのヒーローな感じもカッコイイ。
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