2015.11.15 18:30
[CoRich]
7つの短編集というふれこみですが登場人物や背景を共有する、実は大きな一つの物語。17日まで雑遊。105分。正直に白状しておくと、開演前にちょっと一杯ひっかけたのが思いの外効いてしまったので前半がやや怪しい夢心地。お恥ずかしい。
女子高生が補習で残されている。東京にいきたいなど将来の夢、初体験をすませた同級生、耳の聞こえないあの子と遊ぶのがいやだったり。「LJK」
通所介護施設。喋っている言葉もわからなかったり徘徊していたりしながらも、恋心を持っていたりする。子供を育て上げた老人たち、でもあなたもこうなるのだ「夢芝居」
バーのグループ客やカップルに酔って絡むOL。仕事はちゃんとやってるけれど、今日も一人なのだ。始発まで酔いつぶれて、おはようと話しかけるのは「へべれけ」
一人の女を指名し続けてスナックに通う男の目的はたったひとつ。アルバイトをしたいという女が訪れるが四十女ではと値踏みされる「一生のお願い」
姉妹が暮らしている。家猫には厳しくあたる姉妹だが、今日は外でずぶぬれの雌猫を拾ってくる「この子ら」
電車のロングシートに座る乗客たち。席に止まっている蛾を愛おしく思う若い男たち。故郷で友人の葬儀に出て戻ってきた同級生たちは席の向こう手話で会話をする母娘の母親が同級生だと気づく「MOTH」
食堂。中国人がいっぱい働いているが、店主を母親のように慕っている。時々孫を連れて通う老人はその知り合いだ。母親はそれを知らなかった「カーウェひなちゃん」
作家の故郷・石川県とラムネをモチーフに母親というものを巡る物語。女子高生たちの将来の夢を冒頭に置いて、それから何十年か経っての彼女たちそれぞれを描きます。母親になりたいと願っていた女は縁遠いまま、耳の聞こえない同級生をイジメてた(そこには父の浮気という背景をきちんと置きつつ)女の娘は同じ境遇、初体験が早かった女も生活は地味なままだったり。そこに彼女たちの娘の世代、老人たちの世代をとりこみつつ、さまざまな母親を描くけれど、芝居の中で現役の母親として登場するのはたった一人というのもちょっと巧い。
「LJK」はLocal JKかとも思うけれど(Last JK、だそうです。ご指摘感謝)、物語全体の出発点。核となる三人を明確に見せてこの後の物語につなげつつ、この部分の中で現代への物語の橋渡しも行う重要な機能を担います。初体験をすませた友達の話の盛り上がり、補習の監視にやってきた教師に対して「初めての体験したんです、穴のことで、痛いんです」とからかうシーンがやけに色っぽく楽しい。
「夢芝居」は夢心地になってしまった老人たち、という意味かどうか。年齢を重ねたって恋心に色めき立ち。しかし育て上げた人々がこうなったのだ、あなただってこうなっていくのだ、というのはコミカルで、しかし優しい。
「へべれけ」は結局のところ、盛り上がっているバーの中でただ一人、絵に描いたような酔っぱらいで居続ける女の一人語り。この手の「男がいない女の一人語り」みたいなのが大好物なアタシですが、そういうモテない節が物語の主眼ではありません。ロボットだったり人工知能だったりという「代替物」ではあるけれど、彼女はきちんと前向きなのです。
リアルタイムではないにせよ、Appleのサービス「Siri」を物語にきちんと組み込んで使った例は初めてではないか、というのはアタシの友人の弁ですが、確かに。ペッパーなるわりと高価なロボットを買おう、という決意を置くのも、グレードアップというかこじらせそうな危うさもあってよくできています。
休憩時間、といいながらバカバカしい話を一本な「一生の〜」は、おっぱい揉ませてとホステスに頼み込み続ける男の造形というワンアイディア。あの手この手でこじつけながらなんとか手に入れようといういじましさが楽しい。母親となった女が値踏みされて女子高生の娘を連れてこいといわれるけれど、ママのいう「おじさんは若い女とお喋りできればそれでいいのよ」という言葉が、実は耳の聞こえない娘を持っているわけで、さらりと語られながら重い台詞。
メインの物語からは唯一少し遠い「この子ら」は、猫の対立、母親のような飼い主、言ってることは通じないし絶対権力者なのだけれど、守ってくれる存在、という母親軸に寄った一本。猫二匹の駆け引きが楽しい。
「MOTH」は「母から人を意味する-erを取った」ということは母性の話かな、と読みました。
美しいと思う気持ち、なんと言われていてもこの娘は絶対に守るという決意というか。一本目の女子高生三人全員が再会する結実点。あのときほど無邪気ではいられなくなっているし、背負ったもの、抱え込んだもの、あるいは抱え込めなかったものも多いそれぞれの道。あのころを知っているからこその残酷な物言い、それに刃向かえない気持ち。
「カーウェ〜」はその酷い言葉を投げつけられた母親が安心できる場所、という雰囲気、なるほどハートウォーミングな(観)劇後感。
当日パンフにはラインナップ、それぞれの役名・役者名のほか、演じる役の数と登場するシーンの数字を付記してるのが楽しい。
そぎたにそぎ助は八面六腑の大活躍、パワフルで楽しい。かつての女子高生を演じた川崎桜、前有佳、珠乃はそこから何十年という年を経る役をどちらも遜色なく。
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