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2015.10.27

【芝居】「蒼」studio salt(スタジオソルト)

2015.10.22 19:30 [CoRich]

横浜の劇団、ソルトの新作。90分。25日まで神奈川県立青少年センター・多目的プラザ。

幼なじみの男子高校生ふたり。ひとりは彼女も居て人気もある。一人は冴えなくて、ボクシングを教えてもらったりしている。ある日、風船で空を飛ぶことにする。
風船で空を飛ぶ試みは墜落して失敗に終わったばかりではなく、意識のないまま23年が経った。当時の友人たちは年に一度見舞いにやってくる。 母親は掛かり切りで弟に向き合えない。当時の彼女は別の男と結婚しているが、夫とぎくしゃくしている。
突然男は目を覚ます。

若い頃、 どうやらいじめ、いじめられてるな関係の男二人、片方が事故によって目を覚まさない23年間という浦島太郎という「ひずみ」を要にして、年齢を重ねることをさまざまに描きます。その時間をひと飛びに来てしまった一人は確かにSFなんだけれど、それゆえにその時間を生きてきた人々の姿があからさまになるのです。

それがたとえ事実だとしても太ったとか衰えたといって欲しくない気持ち。たいして悪意がないということはわかっているからある程度は聞き流すけれど、他人の手前の照れなのか調子に乗ったのか、繰り返してしまう夫。繰り返されることのダメージだし、それは怒りという形になる妻。 決して若いとはいえない女性の作家が描くそれは、決して強い罵倒でなくてもMPを地味に削られる辛さを細やかに描くのです。いっぽうで後半に至り別居していて久しぶりにあった夫婦が離婚届をかわすことにしていたとしても、ここに至り夫はかつての恋心を取り戻す、というファンタジーになるのが作家の可愛らしさが見えていいな、と思うのです。

昏睡したままの兄を抱えた家族の歪みというのももう一つの軸。母親が大好きなのにこちらを振り向いてくれない母親の背中をみる弟の気持ち。母親に新しい恋人がいる、というのも今作においては歪みのように描かれていて、後半で兄に希望がもてるようになったところで、母親は弟に向き合い、そして恋人との距離も遠くなるのです。

メインとなる二人の男。 高校生でモテてる、あるいはちょっと気持ち悪い感じというのは致命的なカーストを生んでいて、その二人をバランスさせているのが金だという説得力。二回ある回想シーンが特徴的で、それぞれの序盤は同じだけれど、元々風船で飛ぶつもりなのは誰だったのか、というところで致命的な違いがあります。どちらが真実かどうか、ということは明確に語られてはいないけれど、ワタシは一つ目での金を巻き上げられている男が飛ぶつもりだったが真実で、後半はその彼がモテ男にあとから話したねつ造、と想いながら観ていましたが、これではモテ男が飛ぶ理由がわからないから間違いか。 二つ目は元々モテ男が飛ぶつもりだった、ということでもしこちらが事実なら、墜落するのも一致するからすっきりするものの、一つめの話は何だったのか、ぐるぐると考えるのです。

野比隆彦はどこか不安げな木訥さの造形が魅力的。更に効果を生んでいるのは、この手のキャラクタを担うことが多い浅生礼司を解き放ち、土建屋社長というガハハな感じの魅力を見せたことだとも思うのです。 前回公演での大化けの記憶も新しい鷲尾良太郎は今作においても圧倒的な安定感。元カノを演じた環ゆらは太ってるとか衰えたとかいわれるということに説得力がないのはご愛敬ですが、かつての恋人の前でかわいらしくありたいという乙女さ、あるいは夫に対する我慢の表情が奥深い。

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