【芝居】「ざくろのような」JACROW
2015.10.9 20:00 [CoRich]
ちゃんと読んでなかったチラシ裏。JACROWって、ザクロなのね。 13日まで。 平日20時開演がうれしい。そのおかげか、いわゆるサラリーマンぽい観客も結構多い105分。
電器メーカ。かつてはライバルであったけれど、力の差が歴然となって子会社化された側の開発者たち。リオン(Li-ion)の車載用バッテリを開発するリーダーは天才肌、研究の成果を次々に出している。サブリーダーは調整をしながら、助けていて、しかも調合の腕は確かで。その上司の副部長は女性でキャリアを積んでいるし、もう一人の女性エンジニアは妊娠していて優秀だが、早退半休が多いのは上司の悩みではある。
親会社の人事部がリストラや人事を統合していくために送り込まれる。誰を残すべきかは単に優秀さだけではなくて、対外的に女性の管理職であったり、新卒者が憬れるようなキャリアパスが実現出来そうに見える女性を残そうという力が働いている。リストラ対象は一段落して、新しい組織が見えてきた時に。
電気メーカー社員としてはわりと 知られている物語(1, 2) が大枠。三洋(劇中の社員証がよく似ているロゴも)と松下の車載電池、リチウムイオン電池、人材融合、逃してはいけない人材、そのサブとのパワーバランス。行方がわからなくなっていた天才のゆくえ。 たぶん今作でオリジナルなのは、広告塔の女性、若くて妊娠していて優秀な理系女子。部長となる女性も優秀というあたり。
10年ぐらい前ならば、アタシはもっと感情移入して大泣きしそうな話だけれど、いまはここまでエンジニアの現場にいるわけではないので、ちょっと遠く懐かしい風景に見えてしまうのは、まあアタシの理由。
大枠になっている現実がまあ波瀾万丈だし、物語になりそうなエピソードも多く、 そこをパクったといえばたしかにそうなのだけど、 現実を既に知っていたとしても、物語として食い入るように見てしまうアタシなのです。それは明日どころか今日の我が身だという切実さゆえでもあるけれど、それだけではないと思うのです。 その大枠の物語はそれとして、登場人物たちがどう考えて行動するかということがいちいち腑に落ちる感じで、みんながきちんと考えて行動した結果が物語を紡いている、という「隙間をどうリアルに埋めていくか」ということこそが、作家の想像力の仕事で、今作はそれがうまくいっていると思うのです。
厳しい親会社のリーダーを演じた蒻崎今日子、終幕近くでもう一つ、妻という役にほっとする振れ幅。 意外なことにJACROW初参加という佐々木なふみ、短い丈のスーツできっちり。ロッカーの内側の俳優の写真でほっこりとして、この物語の中で客席に笑いを産むのが楽しい。転職エージェントと妊娠している女を演じた堤千穂の振れ幅も役者の力なのです。 リストラ対象になる副部長を演じた谷仲恵輔、サラリーマンの悲哀を背中で語り。上にへつらう部長を演じた吉田テツタは、何を大切とすべきか、ということがこの会社をこうしてしまう、という説得力、明日は我が身と思ってしまうのです。
ネタバレ
とりわけ、リーダーとサブリーダー。上司の関係が入れ替わり、入れ替わったことで云いたいことを云うようになる男、入れ替わったことは気にしないけれど、それを迷惑をかけたと感じたか、ああ、そういう面倒くささがこれからあると感じたからか、すっぱり、辞めて荷物はなくて電話も通事なくて。パワーゲームに負けたからでもなく、 なにかが吹っ切れて会社を辞めるおとこ。そのまま居てもふつうに大丈夫なのに、辞めて新天地を選ぶ男のモチベーションの凄さ。
終幕、中国の会社、というより北朝鮮かという感じなのはtoo muchだけど、再会したらどうなるだろう、という作家の想像力にほくそ笑むような楽しさは感じます。
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