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2015.10.29

【芝居】「東京裁判」パラドックス定数

2015.10.25 15:00 [CoRich]

パラ定の人気作 (1, 2, 3)の 四演めは初めて劇場を変えて、びっくりの俳優座。年末には三演までのpit北/区域が閉館するのに伴って五演めが上演予定。25日まで。

あの狭い劇場で成立していた芝居が、この広い劇場で成立するかの不安は杞憂でした。L字型の客席で、しかも至近、あるいは二階席があるあの空間はもちろん捨てがたいけれど、この広い劇場でもあの濃密さに感じられるのは、役者の力もあるし、物語のそもそもの力があることを改めて再認識するのです。

アタシにとっては、いままでは左手に検察側、という場所に(あってるかな)ばかり座って観ていたので、今回の位置は驚きでした。客席にいるワタシたちに向かって吠えかかってくる敗戦国の(しかもありわせの)弁護士たち、という力強さが新鮮に感じるのです。

例によって配役が変わったかどうか覚えていないあたしです。三演めと同じ役者陣、もう安定という凄みすら。被告に父親が居る男を演じた植村宏司は素人ゆえに(法や裁判に詳しくない)観客に対してガイドになる重要な役をしっかり。  通訳を演じた井内勇希は表情が明るく楽しい。被爆した男を演じた今里真はワタシの席からはあまり見えないのが惜しいけれど、これはしょうがない。 とりわけ、ヤミで買わないことを貫いてきた男を演じた小野ゆたかは圧倒的な安心感だし、軍の弁護士だった男を演じた西原誠吾はどっしり、言葉の安心感。ますます年末が楽しみになってしまうのです。

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2015.10.28

【芝居】「ココノ イエノ シュジンハ ビョウキ デス」日本のラジオ

2015.10.24 16:00 [CoRich]

RAFTの中に出現させた古書店での話、70分。26日まで。終演後には製本された戯曲と写真集を全員におみやげとして配るという大盤振る舞いが嬉しい。

絵本を探してこの店にたどり着いた女。店主は答えて、この店にはないけれど、駅の向こうの書店ならわかるかもしれないと助言をする。店主の妻は視力がほとんどない。店主の妹は嫁いでいるようだ。店主は嫌いだった父の店ではあるけれど、その店を継いでいる。
妻は後日訪れた女性客に好きなものの本がいいと薦めて仲良くなる。お互いに人と話すのが苦手だった二人だが意気投合している。店主は時折記憶が曖昧になる。

静かに進む物語。意識的に岸田國士のような少しばかり古い言い回し。夫婦の間でさえ、今の感覚では少し距離があるような距離感。そういえば現代の話という雰囲気のものもほとんどなくて、そういう意味では時代によらない雰囲気を作り出すことにも成功しています。

視力がほとんどない妻と暮らす夫は穏やかだけれど、家族というものに対してのわだかまりを持っていて、それは子供の頃の父親のひどい仕打ちゆえの嫌悪であったり、あるいは持つべきモノを持たずにきたという欠損感であったり。妻とのおだやかな、しかし閉塞した暮らしゆえに、安心して暮らしてきたともいえるのです。それゆえにそれまでは家に閉じこもっていた妻が友人を得て外出するようになる、という「安定・安心が崩れそうに思える」ことへの恐れが彼の心を大きく揺さぶっていくのです。

結果的には「猿の惑星は地球」と同じようなネタバレのタイトル。が、それは大きな問題ではありません。欠損という意味では、女性客(田中渚)は友人やコミュニケーションが不得手、妻(木村みちる)は視力の欠損、夫(吉岡そんれい)はみえる妹(菊地奈緒)であったり、父親のトラウマか家族を作れないという枠組みの中で、女性客に誘われて外出した妻は一歩を踏み出している光明。夫は置いて行かれる、という焦りを感じる話でもあります。

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2015.10.27

【芝居】「蒼」studio salt(スタジオソルト)

2015.10.22 19:30 [CoRich]

横浜の劇団、ソルトの新作。90分。25日まで神奈川県立青少年センター・多目的プラザ。

幼なじみの男子高校生ふたり。ひとりは彼女も居て人気もある。一人は冴えなくて、ボクシングを教えてもらったりしている。ある日、風船で空を飛ぶことにする。
風船で空を飛ぶ試みは墜落して失敗に終わったばかりではなく、意識のないまま23年が経った。当時の友人たちは年に一度見舞いにやってくる。 母親は掛かり切りで弟に向き合えない。当時の彼女は別の男と結婚しているが、夫とぎくしゃくしている。
突然男は目を覚ます。

若い頃、 どうやらいじめ、いじめられてるな関係の男二人、片方が事故によって目を覚まさない23年間という浦島太郎という「ひずみ」を要にして、年齢を重ねることをさまざまに描きます。その時間をひと飛びに来てしまった一人は確かにSFなんだけれど、それゆえにその時間を生きてきた人々の姿があからさまになるのです。

それがたとえ事実だとしても太ったとか衰えたといって欲しくない気持ち。たいして悪意がないということはわかっているからある程度は聞き流すけれど、他人の手前の照れなのか調子に乗ったのか、繰り返してしまう夫。繰り返されることのダメージだし、それは怒りという形になる妻。 決して若いとはいえない女性の作家が描くそれは、決して強い罵倒でなくてもMPを地味に削られる辛さを細やかに描くのです。いっぽうで後半に至り別居していて久しぶりにあった夫婦が離婚届をかわすことにしていたとしても、ここに至り夫はかつての恋心を取り戻す、というファンタジーになるのが作家の可愛らしさが見えていいな、と思うのです。

昏睡したままの兄を抱えた家族の歪みというのももう一つの軸。母親が大好きなのにこちらを振り向いてくれない母親の背中をみる弟の気持ち。母親に新しい恋人がいる、というのも今作においては歪みのように描かれていて、後半で兄に希望がもてるようになったところで、母親は弟に向き合い、そして恋人との距離も遠くなるのです。

メインとなる二人の男。 高校生でモテてる、あるいはちょっと気持ち悪い感じというのは致命的なカーストを生んでいて、その二人をバランスさせているのが金だという説得力。二回ある回想シーンが特徴的で、それぞれの序盤は同じだけれど、元々風船で飛ぶつもりなのは誰だったのか、というところで致命的な違いがあります。どちらが真実かどうか、ということは明確に語られてはいないけれど、ワタシは一つ目での金を巻き上げられている男が飛ぶつもりだったが真実で、後半はその彼がモテ男にあとから話したねつ造、と想いながら観ていましたが、これではモテ男が飛ぶ理由がわからないから間違いか。 二つ目は元々モテ男が飛ぶつもりだった、ということでもしこちらが事実なら、墜落するのも一致するからすっきりするものの、一つめの話は何だったのか、ぐるぐると考えるのです。

野比隆彦はどこか不安げな木訥さの造形が魅力的。更に効果を生んでいるのは、この手のキャラクタを担うことが多い浅生礼司を解き放ち、土建屋社長というガハハな感じの魅力を見せたことだとも思うのです。 前回公演での大化けの記憶も新しい鷲尾良太郎は今作においても圧倒的な安定感。元カノを演じた環ゆらは太ってるとか衰えたとかいわれるということに説得力がないのはご愛敬ですが、かつての恋人の前でかわいらしくありたいという乙女さ、あるいは夫に対する我慢の表情が奥深い。

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2015.10.25

【芝居】「リボーン・チャンス」カムヰヤッセン

2015.10.18 15:00  [CoRich]

主宰を変更してのまさにリボーンな一本。120分。18日までワテラスコモンホール。

背広の仕立屋。母親が跡継ぎに指名したのは社会人野球の夢やぶれて弟だった。5年が経ち母親が亡くなり、遺言書が見つかったが、家を出たきりでコンサル会社の社長になっていた兄がもう一つの新しい遺言書を持って弁護士とともに現れた。

町に古くからある洋品店を継いだ弟の成長譚、それは自分で選び取るということを初めてしただけなのだけれど、成長をしっかりと描く物語の幹がしっかり。兄との確執、母との関係を丁寧に描いてこの家の状況、あるいは社員や町の人たちからこの店がどう思われているかなど、ここで商売をすることの意味 も物語に織り込みます。さらにはパソコン事業売却する電器メーカ(どっかで訊いたようなw)や、社会人野球チームを解散することにした企業の話など、今の日本という時間軸の上で、家族から近所、日本全体までがしっかりと地続きに描かれた舞台の上でしっかりと組み立てられた家族の話でもあるのです。

静かに進む物語かと思っていると、終盤に現れる弁護士がまた一つのイキオイを作ります。チャラチャラした感じ、しかし見るべき事を見逃さない視線の鋭さを兼ね備えた造形のキャラクタ。終幕というか解決に向けての鮮やかな運びは良くも悪くも二時間ドラマの崖っぷちのシーンみたいなたたみかけでこれはこれで面白く。終幕で開くカーテンは引きこもり続けていた妹が外に、それを後押しするのが家業のスーツ、という素敵さを象徴的に。

正直に云えば、人数は正直多い。それぞれの人物を丁寧描いているけれど、物語への関与が少ない役がそこそこあるのは勿体ない気もします。 ただ、この物語、わりとスケーラブルなかんじには作られていて、登場人物を整理さえすれば、物語の骨子としてはたとえば紀伊國屋でも、客層を含めてマッチしそうな感じではあります。

後から現れる弁護士を演じたコロはまさに真骨頂。ちょっとチャラい感じの造形でありながら、大量の台詞をきちんとしかし軽やかに届ける力は圧巻。 社長を演じた小島明之の不器用な実直さがしっかり。幼なじみの経理を演じた、ししどともこは時折観競る恋心が可愛らしくて印象的です。長男を演じた橋本博人も軽さと秘めた物のギャップをしっかりと。
弁護士を演じた工藤さや、ボタン屋を演じた辻貴大など劇団のベテラン勢が脇をきっちり固めるのも安心感。

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【芝居】「グッドバイ」KERA MAP(キューブ)

2015.10.17 18:00 [CoRich]

太宰治の未完作をケラリーノ・サンドロヴィッチが補完して描く200分。世田谷パブリックシアターを皮切りに福岡、新潟、大阪、松本、を回って神奈川芸術センターKAATで18日まで。KERA・MAP名義での上演はずいぶん久しぶり。

文芸誌の編集長でありながらヤミ商売で財をなした男。妻と子供を岩手に疎開させながら、戦後になっても多くの女たちと浮き名を流していた。が、突然もうヤミ商売はやめ、女たちと手を切って妻子を東京に呼んでまっとうに暮らそうと心に決める。友人の計画に従って女を金で雇って妻のフリをさせ、それぞれの女たちを回って清算することにする。
その女は担ぎ屋で男以上に大食いで言葉も汚いが、ともかく美しい。 美容師、女医、挿し絵描きなどさまざまな女のもとを回る。女たちは傷つき、あるいは冷静に受け入れたりする。妻はもう別の男とともに暮らすことに決めている。
ある日、怪死した男が作家からの原稿や雑誌などがあったことから死んだものと思われたが、記憶を亡くし強制労働させられていたが一年ぶりに東京に戻ってきたところで元の妻のもとにたどり着く。その家では、男に愛された女たちが定期的に集って男に想いを寄せていた。

モテ男が多くの女を抱え、女たちと別れるために雇った女を親しく思い、恋に気づく話、そこにもう一波乱、亡くなったと思われていた男が現れて成就するハッピーエンドは大きな劇場だからこそ映えるのだと思うのです。妻も含めさまざまな職業、さまざまな性格の女たちは楽しい。

それにしても小池栄子が本当にすごい。美しいのに言葉は汚くがらっぱちな担ぎ屋を好演。見た目とキャラクタの落差はある種の出オチだけれど、それをきちんと押し通してしかも説得力のある人物として作り出していますし、時折見せる恋心の片鱗もかわいらしい。 清算をそそのかす男を演じたvの軽さ、クールだけどところどころ隙のある美人を演じた緒川たまき、妻を演じた水野美紀の懐の深さの造形。 コミックリリーフな人物をきっちりと押さえる池谷のぶえ、野間口徹が、ケラ作品には心強い安心感なのです。

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2015.10.21

【芝居】「こんなにもお茶が美味い」ニットキャップシアター

2015.10.17 14:00  [CoRich]

京都のニットキャップシアター。久々、八年半ぶり (1)に拝見します。105分。19日まで王子小劇場。

父の三回忌に、妹は恋人を連れて実家を訪れる。長い介護を一人で背負っていた姉は三回忌で吹っ切れたのか、突然ヌード写真を撮るのだといいカメラマンを呼んでいる。
妹は恋人を近くまで送った夜道で男に突然話しかけられ、お笑いに興味はあるか、と尋ねられる。
兄とその妻はヒマラヤ登山を予定していたが、兄は身体を痛め妻が一人で行くことになる。ガイドからはぐれた妻を案内したのは金髪の男だった。
三回忌から一年。兄とその妻があわてて実家を尋ねる。行方がわからなくなった母親が現れ、そして死んでいるのだという。

シンプルなちゃぶ台と畳だけの舞台、 民族楽器を中心とした生演奏といくつかの仮面で演じられる物語は4つのパートは緩やかつながってはいるけれど、全体を貫く軸を持たない感じ。1つ目で出てきた恋人やらカメラマンやらはそれ以降まったく登場しませんし、兄弟とか家族が物語を背負って貫くかといえば、登場人物を共有してるようにはみえつつも、兄弟のほかは登場しない父の三回忌と行方不明の母親というぐらいで、物語としての繋がりは希薄で、結果として4つの短編集のよう 。

恋人の家を初めて訪れた妹の恋人が引き出しを漁っていたり、ヌード写真を撮るといっていた姉が突然心変わりしたり、そのカメラマンも動物と同じ自然が撮りたいのに(おそらくはアンダーヘアーを)手入されるのは不満だといって居なくなったり、あるいは相方も見つけられないまま独りよがりのコントを夜な夜な見せてくる男だったり、物語の端々に気になったり魅力的な人物を描くけれど、そういう人がいたという 点描でそれ 以上に広がらないのも勿体ない。どうしてそういう行動をするに至ったかを描くのを意識的に避けているようすら思えるのです。

それは中心となる姉妹と母親の関係にしても同じで、誰が殺したかもどこか曖昧で、恨んでいるとはいえるけれど、どうして殺すに至ったかも明確ではなく、そういう人がいる、ということをまるで静止画のように切り取ってみせている印象。

仮面を使ったり、さまざまな民族楽器を役者たちが生演奏したりと、ライブの楽しさは存分に。ロープを天井から垂らした美術も実に美しくて、全体にはアジアテイストなおしゃれな雰囲気と、それぞれのパートにみられる、そういうことがあるあるな共感を描く楽しさ。

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2015.10.20

【芝居】「パンクジェリーフィッシュフロー4AM」あなピグモ捕獲団

2015.10.16 19:30 [CoRich]

二年半ぶりの東京公演。 (1, 2, 3, 4, 5) 。105分。18日までシアター711。

女優の卵。芽がでないままいい年齢で、バイト先でも最年長になっている。人には見えないクラゲ、バイト先に現れる注文しない男の客。女の身体がバラバラになっていくような。

スタイリッシュでファンタジーっぽくて、しかしどこか醒めたような、あるいは何か欠けているものを強く求める気持ち、を描いてきているあなピ風味といという印象は変わりません。 物語を明確に語るというよりはいくつものイメージを断片を示して観客の頭の中で物語を汲み上げるようなスタイル。 鴻上尚史っぽいというのはアタシの感想ですが、 もうすこし抽象度が高い描き方でなかなかついていくのは毎回ハードだな、というのも正直なところだけれど、これもまあ、あなピ節。

芽が出ないまま夢を追い演劇(演劇に限らないけれど)を続けるということ、 もしかしたらあったかもしれない人生、あるいはそれまでの回想かのようなシーンを夢のようにつなぎ合わせていくつくり。死の淵をさまよう女に浮かぶ走馬燈のようでもあるし、よりそってきた男の想いでもあるよう。

夢見て努力してきたといえば聞こえはいいけれど、気が付けばいい歳で姉と暮らしているから何とかなっているが自立しているとは言い難い。 一緒に暮らしてきた姉はずっと演劇をイランモンといって来たのに、 恋人が芝居をやっているというと、そっちはあっさりと手のひら返して支える気持ち満々だったり。 バイト先のみんなは優しいけれど、それは自分に興味がない距離感ともいえるし、そんな素人にオーディションで出し抜かれたりして、と言った具合に、メインとなる女(3人で演じられる)に対して登場人物たちはたとえば家族やあるいは仲間ではあっても、どこか薄皮一枚で距離があるというか、冷たい感じに描かれていたりもします。

後半にいたり、どうも女は事故にあっていたらしいことが示され、更に身体だけでもなく走馬燈のようにそれまでの想いやあったかもしれない未来が自分の中からバラバラになるような感覚で見えている、という構造になっていることが示されます。男が書いてくれた「死にたくない」という言葉を発することで、彷徨っていた死の淵から抜け出る、という終幕、少々ロマンチックに過ぎるだろう、という気がしないでもありませんが、言葉に対してそういう期待をする気持ち、というのは信じていたいなとも思うのです。

立石義江、古賀今日子のギンギラ勢に再び会えるのが嬉しく。あるいはちょっとふわっとした雰囲気のますだようこもいつもの味わい。金曜夜の回のゲスト・関村俊介、ゲストという体裁で登場して「ここがファミレスかー」というダメダメな台詞での小ネタがちょっとおかしい。

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【芝居】「ダブリンの鐘つきカビ人間」パルコプロデュース

2015.10.12 14:00 [CoRich]

19年前・遊気舎時代の初演から10年ぶり四回目の上演。 25日までパルコ劇場。そのあと福岡、大阪、宮城、北海道。 (1, 2, 3)

パルコに移った2000年代のキャストから、後藤ひろひと以外のキャストを一新。話じたいはこれだけ観てればまあ覚えているものの、細部がどうだったか、どう違うかは怪しいアタシです。カビ人間はパルコ初演の大倉孝二の印象がほんとうに強烈でなかなか他のキャストに馴染めないアタシなのですが、 それでも強固な物語は揺らがないのを再確認するのです。

今作において強い印象を残すのは、旅をしてきた若い女を演じた大塚千弘なのです。情けない男の子をぐいぐい引っ張り、殺陣っぽいシーンでのキメっぷりも鮮やかで、それをドヤ顔でというのがチャーミング。いままでは神父だったところを尼に替えて演じた篠井英介、怪しくしかしコミカルな確かな力は今さらだけれど舞台で久々に観て楽しい。あるいは侍従長を演じたマギーのコントっぽさも雰囲気によくあっています。唯一王様役として4回全てに出演する後藤ひろひと、腰の低い大王節もなつかしく、しかしいつまでも観ていたい。

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2015.10.19

【芝居】「想いはブーン」小松台東

2015.10.11 14:00 [CoRich]

東京から宮崎の実家に戻り、兄の紹介で電気工事店で働いている男だが、口べたで仕事に対する意欲もなく三ヶ月経っても同僚からの評価は低い。社長は会社を継いでもらうため三人の娘には電気工事の現場の社員と結婚してほしいと考えているが、長女は結婚はしているが水商売、次女は社員とつきあった後に英会話教室を営む男と結婚、三女は幼なじみの男から言い寄られているが、その東京から戻ってきた男とつきあっている。

当日パンフによれば、自分はどうにも苦手だった電気工事会社の雰囲気を描いたのだといいます。地方都市・宮崎を舞台にしてある種の閉塞感としかし懸命に働き生きる人々の営みを描くのは作家の得意とするところ。

地元で働き続けモノになったけれど、恋とか結婚には恵まれてない男。この会社の跡取りを期待され夢見てるけれど、この家の娘たちと結婚ということにもならず。おそらくはそれずっと長い時間のこの場所を作ってきたのでしょう。上京していた弟が戻り、仕事を世話してやったのに、仕事を覚えるでもなく真剣さもなく、そのうえあろうことかこの家の娘とちゃっかり恋仲になっているとなれば理不尽も感じましょう。

弟はなにも会社を手に入れたいとかそういう気持ちで恋仲になってるわけじゃなくて、不器用ででも自然体で恋におちているのだろうけれど、たぶんそんなことは兄にとっては関係なくて。 娘たちは娘たちで、それぞれの道。水商売だったり、恋破れた隙に結婚した相手はもちろんいい夫だけれど、遠い日の花火な気持ちも忘れられなかったり。三女にいたっては、姉たちが成し遂げられなかった、この会社を継く電気工を婿に迎えたいという理不尽な期待もあったりして。

さらには幼なじみでずっと恋心を描いている男や、妻の浮気を疑って心が引き裂かれそうになっている男もまた、理不尽のただ中にあるのです。 方向はバラバラなれど、みんなどこか理不尽でもやもやした気持ちをかかえ、しかしそれに折り合いをつけて日常を送っている、という人々の物語なのだなぁと思うのです。

佐藤達大暴れなんかひねくれたオジサンがいい。相関図の絵もかわいらしく、そしてわかりやすい。 山田百次は木訥、ああ本当に好きなんだしまわりからもそう思われてたんだなという近所の幼なじみの造形。 序盤の松本哲也の軽口が物語を力強く始動します。 異儀田夏葉がほんとうにかわいらしい。何でもうけとめるという感じでもあって力強さも兼ね備え、いいお嫁さんになる予感を感じさせて。 兄を演じた瓜生和成がほんとうにかっこいい。ちゃんと年齢を重ねたオヤジな造形で、わりと拗ねたキャラクタの多い役者でそれも得意技だけれど、それとは違う今作もとてもいいのです。 尾倉ケント、ちゃんと子供が居て生活してという「きちんとした人」感、しっかり。

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2015.10.15

【イベント】「あの子の飴玉」(月いちリーディング / 15年10月)劇作家協会

2015.10.10 18:00 [CoRich]

今年4月に王子小劇場での上演 (1) を更にブラッシュアップを目指したリーディング×ラウンドテーブル企画。本編120分、そのあとラウンドテーブル60分弱。

当日パンフや終演後のラウンドテーブルによれば、作家はセックスの話というよりは、コミュニケーションの話を書きたいのだといいます。 そのためか、アタシの観た初演の終幕での告白の後を加筆するなど、 元々書きたかったコミュニケーションの話に近づけようとしています。

実際のところ、 コミュニケーションのあれこれを描こうと思っても、性的な話というかヤリマン×処女のような、耳目を集めそうな題材を乗せてしまうと、思いのずれることのままならなさや、細かな心の動きなどまさに「コミュニケーション」の部分はまるで出汁のように、その全体の味を支える力ではあっても、どうしても全面にでるのはいわば濃い味のついた派手で性的な話になりがちだと思うのです。 そいういう語り口の中からコミュニケーションを読みとって欲しい、という気持ちの発露が当日パンフにある「えんぶの劇評」であり、今作の改訂なのだと思うけれど、それはこの物語の迫力とも思える会話のおもしろさ。店長と長女、ポルノ店店員とポルノ観ない男、書店のバイトたち、というカップルたちのものがたりもそれぞれに見所もそれぞれの事情も描き込んでいるのもいいし、筆下ろしの瞬間を動画で撮りたいと思う衝動の理由も描くというのも、それぞれの登場人物に寄り添う作家の誠実さを感じるのです。

女性に対して処女性を求める童貞たちの会話のなかで、処女を「新品」、非処女を(別の誰かの後の自分だから)「中古」という酷い物言いする男たちを、ばっさり、自分たち童貞(まあ処女も実は一緒なんだけど)は、製品はあるのに引き合いがなくてそのまま倉庫に眠って出番のない「在庫」と表現するシーンに舌を巻きます。在庫、っていうのがすごいぴんと来る感じ。もっとも何年も出番がなければ、中古の在庫になってるじゃないか、アタシはとおもったりもしますが(泣)。

ラウンドテーブルでの指摘があったとおり、すべて会話がきちんとキャッチボールされているという意味である種のファンタジーではあります。かといって、今のワタシたちの地続きになっている話でもあって、少々理屈っぽい部分があっても、あるいは言葉に頼りすぎるきらいはあっても、きっちりと作家の語りたいことが出ていて、それを面白くみせるいっぽんなのです。こういう物語を観ると、女性とこれで語り合いたいなと思うけれど、まあそれはそれで微妙な問題ではあります。

毬谷友子 が圧倒的。加減しつつ、ということはあるとは思いつつ、この経験は共演する役者にとっても、観客にとっても、あるいはラウンドテーブルでの役者としてあるいは先行者として、若い役者たちや作家に向き合って投げかける言葉がパーフェクトで、全方位の役者の力を思い知るのです。

姉を演じた大月ひろ美はしっとりと、まっすぐな内側の雰囲気を主にした造型、伝説のヤリマンに見えないというか、何を秘めてるんだという雰囲気ではあります。妹を演じたは光藤依里かわいらしく、しっかりとアイドルっぽさを前面に。女性向けポルノ店の従業員を演じた高木充子は仕事も恋心も真面目な視線に説得力。彼女と恋に落ちるポルノを観ない男を演じた中山朋文もしっかりと受け止めて、二人が価値観をぶつけ合い、わかり合い、敬意を持ち合うというの二人のシーンがほんとうに好きなアタシなのです。

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2015.10.14

【芝居】「君をおくる」キャラメルボックス

2015.10.10 14:30 [CoRich]

ハーフタイムシアターのもう一本は東京と大阪だけに設定されています。マンションの一室という共通のセットと、ほぼ同じキャストで演じられる全く別の物語は劇団外の岡部尚子の作を劇団員の真柴あずき演出という組み合わせで。12日まで東京グローブ座、そのあと大阪。

大阪に駆け落ち同然で結婚した女は、自分に相談なく海外への単身赴任を決めた夫を許せず離婚して東京に戻ってきた。引っ越しの荷受けをしている日。先輩の友人に手伝いを頼んだがなかなか荷物は片づかず、娘に会いに来た母親も巻き込んでなんか人手が増えて行く。 が、本来来る友人は遅れて来ることが判明。手伝っているのはいったい。

いろんな意味でなかなかネタバレしがちなはなしです。

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【芝居】「水平線の歩き方」キャラメルボックス

2015.10.10 13:00 [CoRich]

気がつけば三回目を迎えるハーフタイムシアター。(1, 2)。 12日まで東京グローブ座。そのあと大阪を経て、 グリーティングシアターと題した仙台、山形、岐阜、愛知、岡山へのツアーを設定しています。

ラグビー選手の物語。H型のゴールを指して水平線といい、それは4.4kmほどの距離でそう遠くないところで、そこには亡き母が見守り続けているというタイトル。ラグビーの日本代表が大金星となった今年だとまた格別に感じたりしますが、 例によって記憶力がザルなので、大枠はなんとか覚えていても細かいところが曖昧なアタシです。

一つのことを突き詰めて、一人で生きてきた男。年齢と故障で失意に落ち込むけれど、母との対話を通して自分を見つめ、パートナーとともに新たな生き方に踏み出すことをシンプルに丁寧に描く今作。実際の処観ている最中にはさらりと観てしまうのだけれど、 思い直すとじわじわくることが多くて、ちょっと不思議な味わいを持っている一本だということを後から思うのです。もっとも、一人だとはいっても、ここまで強い意思で生きているわけじゃないアタシは共感とは違う感じなのかも知れないけれど。

半分のキャストは三演を通じて共通で盤石な布陣。主役を演じた岡田達也、一人の大人の男が自分を見つめ、泣き言を言い、どこか強情な処もあるけれど、前向きに歩き始めるかっこよさ。オジヤ食べるところのなんか可愛らしい感じもきっと好きな人は多いはず。母親を演じた岡田さつきはともかくもキュート。回想シーンとなるところを脇で演じている間に中央のセットで見せる姿はテレビのカウチポテトっぽいけれど、そのリラックスも可愛らしく。 今までは比較的若い役者で演じられることの多かったチームメイトを演じた大内厚雄は、年齢を重ねたあつみに説得力。

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2015.10.12

【芝居】「ざくろのような」JACROW

2015.10.9 20:00 [CoRich]

ちゃんと読んでなかったチラシ裏。JACROWって、ザクロなのね。 13日まで。 平日20時開演がうれしい。そのおかげか、いわゆるサラリーマンぽい観客も結構多い105分。

電器メーカ。かつてはライバルであったけれど、力の差が歴然となって子会社化された側の開発者たち。リオン(Li-ion)の車載用バッテリを開発するリーダーは天才肌、研究の成果を次々に出している。サブリーダーは調整をしながら、助けていて、しかも調合の腕は確かで。その上司の副部長は女性でキャリアを積んでいるし、もう一人の女性エンジニアは妊娠していて優秀だが、早退半休が多いのは上司の悩みではある。
親会社の人事部がリストラや人事を統合していくために送り込まれる。誰を残すべきかは単に優秀さだけではなくて、対外的に女性の管理職であったり、新卒者が憬れるようなキャリアパスが実現出来そうに見える女性を残そうという力が働いている。リストラ対象は一段落して、新しい組織が見えてきた時に。

電気メーカー社員としてはわりと 知られている物語(1, 2) が大枠。三洋(劇中の社員証がよく似ているロゴも)と松下の車載電池、リチウムイオン電池、人材融合、逃してはいけない人材、そのサブとのパワーバランス。行方がわからなくなっていた天才のゆくえ。 たぶん今作でオリジナルなのは、広告塔の女性、若くて妊娠していて優秀な理系女子。部長となる女性も優秀というあたり。

10年ぐらい前ならば、アタシはもっと感情移入して大泣きしそうな話だけれど、いまはここまでエンジニアの現場にいるわけではないので、ちょっと遠く懐かしい風景に見えてしまうのは、まあアタシの理由。

大枠になっている現実がまあ波瀾万丈だし、物語になりそうなエピソードも多く、 そこをパクったといえばたしかにそうなのだけど、 現実を既に知っていたとしても、物語として食い入るように見てしまうアタシなのです。それは明日どころか今日の我が身だという切実さゆえでもあるけれど、それだけではないと思うのです。 その大枠の物語はそれとして、登場人物たちがどう考えて行動するかということがいちいち腑に落ちる感じで、みんながきちんと考えて行動した結果が物語を紡いている、という「隙間をどうリアルに埋めていくか」ということこそが、作家の想像力の仕事で、今作はそれがうまくいっていると思うのです。

厳しい親会社のリーダーを演じた蒻崎今日子、終幕近くでもう一つ、妻という役にほっとする振れ幅。 意外なことにJACROW初参加という佐々木なふみ、短い丈のスーツできっちり。ロッカーの内側の俳優の写真でほっこりとして、この物語の中で客席に笑いを産むのが楽しい。転職エージェントと妊娠している女を演じた堤千穂の振れ幅も役者の力なのです。 リストラ対象になる副部長を演じた谷仲恵輔、サラリーマンの悲哀を背中で語り。上にへつらう部長を演じた吉田テツタは、何を大切とすべきか、ということがこの会社をこうしてしまう、という説得力、明日は我が身と思ってしまうのです。

ネタバレ

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2015.10.11

【芝居】「野良な犬ほど夜光る」ぬいぐるみハンター

2015.10.3 18:30 [CoRich]

5日まで駅前劇場。105分。

終電後のターミナル駅。カミサマと呼ばれる男の許に集まってくる人々。制止する駅員、ホームレス風で威勢のいい男と女、カミサマにスーツを着た男も呼ばれる。カミサマは犬を探していて、女子高生は人を捜している。

人通りの絶える終電後の駅。 カミサマと呼ばれる男に会いたくて夜な夜な集まるホームレスたち。自殺未遂した妻から逃げてきた男、あるいは結婚詐欺師だった男と惚れ込んだ女というホームレスのカップル。ホームレスじゃないけれど、働いているんだか怪しい清掃の男、あるいは若く純朴な駅員(に見える男。駅員かもしれない)。

余命幾ばくもないホームレス、舞台には現れないけれど自殺未遂の妻という死と隣り合わせの二人の女。それを愛する男たちはそれゆえ逃げてしまったり寄り添い続けることを決めたり。 それぞれの向き合い方(あるいは向き合わないこと)。カミサマが探している犬、というのもそういう意味では死と隣り合わせの位置。そもそもが生きるのにかつかつだったりな、ある種底辺な人々だけれど、真剣に人を愛すると決めた男たちは凛々しくて。

子供たち、あるいは子供のころの風景を疾走感を持って描くことが得意だった(あれはあれで好きなアタシですが)作家だけれど、役者の入れ替わりゆえか、都会の片隅で目立たず生きる人々のある瞬間を描く今作は今の私たちに向き合うように描かれた物語に脱皮したようで新たな見応えがあります。かつての疾走感の中にもあった繊細さというかセンチメンタルさは今作においても健在で気持ちが静かに揺らされるのです。

東方力丸は下北沢や井の頭公園などでみかける、路上で漫画を読んで聞かせるパフォーマンスの彼ですが、その風貌と深夜の駅というシチュエーション、あるいは強く張った声など、カミサマという雰囲気をきっちりと。チンピラを演じた辻修は笑いをとりつつきっちりまっすぐな男、暫くぶりに拝見してみればもちろん年齢を重ねていて、それがいい味わいで好演。怪しくふわふわとした清掃員を演じた安東信助、ああこういう雰囲気で怪しいオジサンっても悪い歳の取り方ではないなと思ってしまうあたしも相当なもの。

今作のもう一つの魅力はセットなのです。小田急線の新宿駅、各停の停まる下層ホームな雰囲気。もっともトイレの表示は京王風に見えるのはご愛敬。ほどよい暗さ、朝でも深夜でもそういう場所に見える(地下駅だから実は変わらないんだけど)という説得力というのもあって、今作においてはセットも雄弁にこの物語を支えているのです。

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2015.10.09

【芝居】「親戚の話」コマイぬ

2015.10.3 14:00  [CoRich]

4日まで古民家シェアサロンasagoro。60分。 役者・芝原弘の前口上があって、東京で作った芝居を出身の宮城・石巻に届けたいという思いで始めたユニットなのだといいます。今作は初めてその宮城県内のツアー(仙台、石巻、岩沼)があります。

新婚の女。夫の従弟の結婚式に出ようと押し切って夫もかなり久しぶりに石巻を訪れる。式の翌日、実家に現れた女は夫の従妹だが、式には出ていなかったが、夫が話してくれていなかった母親のことを教えてくれる。

田舎特有の、というのはざっくりにすぎるけれど、ごく近い人が婚姻を越えて夜逃げ同然に行方がわからなくなっていたり、あるいはもうずいぶん長いこと連絡を取っていない人がいたり、あるいはまさかというところには繋がりがあって、ゆるやかに近況がわかっていたする狭くて、しかし緩やかなつながり。

新婚の妻は、自分から言い出したことだけれど、完全なアウェイで心細いけれど、それ以上に夫と幼い頃から近い従妹があまりに近くてざわざわする。夫はそれを自覚しているし、嗾ける従妹にしても自覚してやっていて。相手は結婚しているし、自分には子供を宿しているし、しかも不倫だし。どうにもならない感覚なのかなと気持ちがざわざわとするのです。
イノセントに、夫のことを清濁あわせて全部知りたいという妻。自分が傷つくことはわかっていても、それを止められない全面的な。両親がよくて、育ったでしょ、という台詞が実にいいニュアンスで気持ちが響きます。従妹は虫唾が走る、とまで妻を嫌う理由は何かの嫉妬か、あるいは父親を明確にできないのに子供を宿すというある種の焦りか。

妻を演じた片岡ちひろ、序盤の横顔が実にイノセント。しかも美人。 従妹を演じた菊池佳南はとことん明るく振る舞い、ときにコミカルでしっかりと引っ張る力。 夫を演じた芝原弘は喋らずに秘めたものの面倒くささをずっと引きずってる男を繊細に。

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2015.10.08

【芝居】「鳥取イヴサンローラン」ロ字ック

2015.9.27 14:00 [CoRich]

10月11日まで711。120分。

小田急線下北沢駅近くのスナック。客はそう多くはない。会社をやめて働き出した女。この店のママはもう体を悪くして長い間店には出ていない。チーママ的だった女は店で手首を切って休んでいる。その後店を回している女は手首を切った女と男を取り合っている。元ストリッパーの女は酒と煙草ばかり、愛想もない。大学生の女は頭悪くてといいビッチを公言してはばからない。店を下支えしている女はちょっと地味だけれど憧れている客がいる。アルバイトの面接に訪れた女はフリフリだ。
物静かに訪れる男と、サラリーマン風で騒ぎ、ホステスを口説いてばかりいる男、その同僚だか取引先だか。

水商売。絶対権力者がすでに引退に近づいており、それを引き継いでいたいわゆるチーママが抜けている間にじょじょに露呈する綻び。他人と自分を引き比べ、順位はどこにあるのかをいつも意識するのはもちろんホステスという仕事だから当たり前なのだけれど、自分は一番だと思っていたり、最初からマウンティングを拒否していたり、評価軸が別次元だったり、あるいは年齢というタイムリミットだったり、恋する男は取られたくなかったり。 チーママが復帰して、気が進まないホステスたちと無理矢理の「女子会」を開くに至る中盤でそのほころびがあらわになり混乱し爆発したりもしつつ、しかし彼女たちは生きていて。 言葉は悪いけれど、動物園のサル山をのぞき見るような底意地の悪い描き方ではあるのだけれど オンナというもの、というステロタイプな描き方だと云ってしまえばそうだけれど、バラエティのある役を力のある俳優が支えている物語は確かに見応えがあるのです。

実は男の描き方の方が更に底意地が悪い感じでもあります。とりわけモテ男の幼なじみに対する少々小馬鹿にした物言いだったり、モテを自覚して二股を何とも思っていない感じだったり、あるいは髪の薄い常連客のデリカシーのない空回りっぷりだったり。かといって、ホステスたちに敬意を持つ無口な男が必ずしもモテるわけでもなく。

ストリッパーを演じた遠藤留奈は年齢の高いやさぐれ女というのあんまりと思いつつ、ストリッパーたる堂々たる踊りがほんとに格好良く。傷つけられる女を演じた堂本佳世は以外に少ない印象の静か切ない役をしっとり。ナンバーワンを狙う女を演じた小林春世はなかなか自分の劇団ではやらない役どころに、今さらながら、ああ、ちゃんと大人の女性なのだというのにどきっとしたり。高いテンションで居続ける女子大生を演じた小川夏鈴のなんというか小僧な感じもちょっと可愛らしい。自称アイドルを演じた日高ボブ美はともかくパワフル。パンツが見える大股開きの破壊力がありすぎるというのもどうなんだ。いやらしい中年男を演じた鈴木理学は、基本的にヒールをきっちり演じ切りますが、他の客を見下したことを云ってから次にあったときに小声で謝るという細かなリアリティもきっちり。

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2015.10.07

【芝居】「時間堂レパートリーシアター ワークインプログレス」時間堂

2015.9.26 19:00 [CoRich]

消費しないで深化させていく演劇を模索するというレパートリーシアターのおためし(WIP)企画。ビールでもご飯でもたべながらゆるゆると。最初の二本で60分弱、休憩を挟み、60分弱。

やぎさんと永遠」 (1, 2, 3) (作・オノマリコ) あれ、もっと明確に別れる夫婦の話だったはずなのに、そういう台詞がないなぁと思ってみたら、それはリーディング公演でのト書きだったそう。なるほど。日常の中の小さな死ならぬ小さな離婚を繰り返す萌芽、という見え方に思えてきておもしろいのです。

「熊」(作・A.チェーホフ)公開稽古 (青空文庫) 四場と八場 話を聞いていない女、金を取り立てにくる男、最初はまじめに聞いてしまうのを、二回目は泣きはらし続けることで「聞いてない」を表現する。なるほど。ちょっとふれ幅やりすぎな感あれど、稽古場の試行錯誤の片鱗がわかりやすく見えるようで楽しい。

「言祝ぎ」(作・イトウワカナ)55分。 正月、姉の暮らす実家に妹と兄が帰ってきた。母はずっと前に家を出ている。お節を食べたりするが、父が喉に詰まらせて亡くなって以来、この家ではもう十年をお雑煮を作っていない。妹は結婚していたが去年離婚していて、兄は一緒に暮らす人が居ると告白する。

一周年記念の時に拝見叶わず、ワタシは初めて。 旅公演の中で知り合った作家の作だといいます。 それぞれに訳ありを抱えている兄妹たち、ずっと背負っていたこと、気負っていたことをゆるやかに溶かして、生きていける希望を感じる物語はほっこりと暖かく。 しかもコンパクトに3人、60分で成立させられる芝居は実にポータブルで、わりとどこでも上演できそうなフォーマットでカフェ公演や稽古場公演のような形でも見応えある一本になりそうです。

正直に言えば、それぞれの人物に濃厚なアイテムをこれでもかと詰め込んでいる上に前半は薄めにしているために後半は更に濃密で、それゆえに物語の軸となっている、父が死んでからずっとこうしている姉がほどけるという、いわば泣きどころを素通りしてしまいそうになるのは勿体ない。

時間堂にとっては中堅からベテランの役者三人で演じられるこの芝居はパワーゲームの様相を呈する瞬間もあって迫真なのです。

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2015.10.04

【芝居】「すばらしい日だ金がいる」アマヤドリ

2015.9.26 14:00 [CoRich]

ずいぶん久々に拝見する気がするアマヤドリ、135分。27日まで吉祥寺シアター。

休みすらほとんどとらずに働く会社員だった女。突然の出張で夫の連れ子のダンス発表会にいけないことを指摘されて赴いた出張先で連絡が取れなくなる。
それから3年が経ち、薬物に頼らない神経科治療を目指す人々が集う山奥のコミュニティで暮らすようになっている。娘が結婚すると連絡してきたが合わせる顔がないと断ろうとし、二人の妹が説得に訪れる。

ブラックな会社で社蓄のように働き張りつめていた日々の緊張の糸が突然切れたままのドロップアウト。家族すらからも離れ、鬱的な症状との向き合い方、社会の中でどうあるか、あるいはその原因などさまざまに言葉を重ねます。あるいはこの場所を訪ねてくる姉妹や娘たちとの関わり方。 治療すべき事なのか、どうなのか。欝ということ自体が作家自身の身近にあるものなので、と当日パンフにあります。

助言という名の提案を受けたとしても、それを受け入れるかどうかは自分の課題であり問題なので決めるのは自分なのだ、というその病気に関しての作家の立ち位置を明確に。 治療する側の危うさも同時に描きます。薬物依存しない治療を目指すといいながら自身は薬物漬けになっている医者らしい男、薬物を通しての主従がいれかわっている怖さ。

作家はむしろ、 なにを考えているかわからない、他人なんて信用することができない。言葉を尽くしても、ワタシの云ったことは誰にも伝わらない、伝わるかもしれない可能性に賭けるということ、を更に強く思っているのだろう、と感じます。 そのもどかしい思いは作家自身の苦悩でもあるのでしょう。正直に云えば、ワタシにとっては言葉が多すぎてその「圧」は感じるけれど、気持ちが埋もれてしまいそう。言葉を重ねれば重ねるほどに気持ちはちょっと離れて見てしまうのです。

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【芝居】「Nice to meet you, My old friend」競泳水着

2015.9.23 16:00 [CoRich]

交互上演で23日まで新宿眼科画廊。70分弱。

タレントが母校を訪れるという番組のロケ。が、この中学のことは、全て忘れている。友達も覚えて居なくて、レンタル会社から派遣された女性を友達に仕立てるが、その「友達」はあの頃のいろいろなことを知っている。

アタシが初めて拝見した「山荘の女たち」(1)など、かつてはミステリー路線との両輪の語り口の切れ味が冴えていた作家ですが、ある頃からすっかり恋愛ドラマ路線が評価され、その路線でもきっちりある打率で芝居を作ってきました。 今作は「あの頃」の上野友之が復活したような、めくるめくミステリー仕立てに再会できたうれしさ。

この少ない人数の中でワタシしか知らない謎を知っている人物が誰か居る、というミステリー。その背景にはそれぞれの想いがあって、それでも長い時間と、この混乱の中で揺れる気持ち。何かで相手を傷つけたいんだか、何かを謝って欲しいんだかすらわからなくてという、ちょっと捻れた軸は序盤こそわかりにくい気はするけれど、徐々に、ちゃんと、それぞれの人物や想いが見えてくるという瞬間がそれぞれに繋いでおもしろくて観てしまうのです。

少ない人数の登場人物はそれぞれに役割をきちんと担うのも、観ていて気持ちのいいバランス。 序盤にぎやかしに見えた教師が中盤できちんと物語を担うし、その教師は誰が本当の同級生か気づいているようなのも教師の矜持としてかっこいい造形。作家自身がそれぞれの人物に対して敬意をもって、しかし軽やかに描いているということがよくわかる一端なのです。

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2015.10.03

【芝居】「嗾け上手の初恋」競泳水着

2015.9.23 13:00 [CoRich]

交互上演で23日まで新宿眼科画廊。90分。

呼び止められた大学生は、処女だという風俗嬢に自分の最初の相手になってほしいと頼まれる。好きな人は別に居て、ただ一回限りの相手に名って欲しいのだという。
好きな男は婚約者に鍵を渡しているが、ある日、風俗嬢との店外デートのやりとりをしたLINEを読まれ、更に家に風俗嬢を連れ込んだところに会ってしまう。

二組の男女、セックスと恋と結婚をめぐる物語。風俗嬢(中野あき)だけれど処女で、一途に思っている人はいるが恋は通じない。突然降ってきたセックス前提の女の子だけれど、もう好きになってしまっている大学生(吉田電話)。婚約者が居ながら風俗嬢と遊び倒すが、そもそもどちらともほとんどセックスそのものはしていない男(毎川一輝)、それが許せない婚約者(菊池真奈美)。いろいろバックグランドありながらいまは働いている店長(市原文太郎)、その店の同僚だった女(南帆子)

本人たちにはおおごとでも、見方によってはどうということのないごく小さな範囲の物語。誰か、とりわけ女性と感想を語り合いたくなるような話だと感じるアタシです。 もっとも、題材が題材な上に、自分が隠してる地雷だったり気まずさだったり、ある種の性癖だったり、あるいはひどい行状があっというまに露わになるようなトラップがそこかしこにぎゅっと詰め込まれた感じなので、話す相手は相当に選んでしまうような話。そういうことを話せる異性をを見つけるのはそう簡単ではありませんが。

アタシにとっては、もうこういう歳になってしまったからといっても、もちろんきっちり恋に生きてる同世代だっているけれど、なんだろ、登場人物たちのまぶしさったらないのです。本人たちは極めてまじめで、前向き、時に頑なでもありますが、ああ、自分もそうだったかもしれないと、心の奥が僅かに震える気持ちを再発見したりして。

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2015.10.01

【芝居】「天邪鬼」柿喰う客

2015.9.22 14:00 [CoRich]

23日まで本多劇場、その後に兵庫、岐阜。100分。

桃太郎やるものこの指とまれ、と仲間を集める子供。だが、集まる子供たちはイマジネイションによって防御を行う戦争にかり出された兵士たちだった。

どれが本当の物語かをさらりとかわし続ける語り口。序盤では桃太郎になりきり捕らわれ離れられない一人、おそらくは同じ部隊に属する兵士たち。中盤ではその背景、その一人が物語の中に居続けることで強力な力を持つに至ったことを描きます。

斜めに傾斜のついた八百屋舞台、横一列に並んで見せたり時におどけてみせたり、あるいは何が物語の軸かさっぱりわからないままに進む物語という性質は、どこか「朝日のような夕日をつれて」の雰囲気を纏います。が、成長期でどこまでも底抜けの明るさの世間の中の孤独を描いていた「朝日」に対して、戦争、格差、子供への暴力という世界の中で唯一自分の心を守れるはずの想像力(イマジネイション)ですら、権力の道具に使われてしまうという今作には絶望感を感じるアタシなのです。

あるいは、物語に捕らわれること、その強力な力を自覚的に描くという意味では後藤ひろひとの遊気舎時代の「人間風車」を見るような感じでもあります。どちらの過去の作品とも異なるのは、スタイリッシュというかストイックが勝る感じもあって、それゆえにわりといい席で拝見したわりには、ワタシからは物語が遠く感じるところだったりもするのです。劇団員だけの公演だからこそできるということかもしれません。そういえば(1, 2) もずいぶんとストイックだった印象があります。

主人公を演じた玉置玲央はものがたりにどっぷりで抜けられない子供をきっちりと。今作ではベテランが支え、永島敬三、大村わたる、葉丸あすかといった若い世代がそれぞれの役をきちんと軸を持ち立ち続ける役を対等に担っています。初期のメンバーがまとめて抜けたけれど、きちんと劇団として役者を育ててきたという成果を観るようで、まるで親戚のオジサンのようにうれしくなってしまうのです。とりわけ表情が豊かで目立つ舞台だなと思っていたら、桃太郎に対して裏表となる狼少年を演じた大村わたるが印象に残ります。

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【芝居】「スカバン」まつもと市民芸術館

2015.9.20 17:00 [CoRich]

シビウ国際演劇祭に招待された「スカパン」(1)の凱旋公演。120分。シルバーウィークを利用して、20-21日は信濃毎日新聞社新松本本社建設地/Flying Theatre 空中劇場、23-24日はピカデリーホール、26日は松本市美術館/Flying Theatre 空中劇場、という松本の市街地を移動しながらの上演。初日は上演前に串田和美のほか新聞社、行政、町内の人々のごく短い挨拶があったりもしました。

上流階級の若者たちの結婚にまつわる話、それぞれの家の事情。召使いの男をさまざまに使い、それが少しばかり刃向かおうというそぶりを見せれば激昂して、しかし自分の手を汚さずに殺させる。あからさまにそこにある、階級というか格差というか。ずいぶんと絶望的な物語ですが、どこか祝祭な雰囲気が残るのは、人懐っこく、愛すべき男として描かれる主人公の造型に負うところがおおくて、演じた串田和美の確かな力なのです。

屋外だからか、あるいは休日で観光客が溢れる街の賑わいか、その祝祭感が更に倍増するように感じます。17時開演という一見中途半端に感じる時間だけれど、刻々と暮れていく借景の空、そこを山へと帰る鳥たち、街のにぎやかさ(場所は松本の市街地でももっともにぎやかなエリアです)などが渾然一体となって、ボートビルのように演じられる舞台はほんとうに楽しくてすてきな時間なのです。

屋外劇場で、しかも飲食ブースを設けたのにトイレを用意せず、あらかじめ行政が調整した店舗などへの誘導という方法でした。いろいろな事情はあるかと思いつつ、それならば事前のアナウンスを強く行わなければならない、と思うのです。

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