【芝居】「スウィング・アウト・ペアレンツ」トローチ
2015.8.24 19:30 [CoRich]
25日まで駅前劇場。115分。
少年野球のグランド、応援に訪れる親たち。滅多にしない家族サービスに妻に引っ張り出されたテレビディレクターは若い脚本家を呼び出して脚本の書き直しをさせつつの応援。バイトとの浮気を疑われるレストランオーナーと妻。
息子の野球に大きな期待を持つ歯科医は、ビデオカメラを回しながら観戦する見慣れない男をスカウトマンと勘違いする。
息子に滅多に会いに来ない若い女が育てている義父に呼び出されて球場に現れると、ディレクターは急にあわてたそぶりをみせる。
試合中の少年野球応援席の父母を通して、子供を軸にした家族の物語。作家自身が当日パンフで云うとおり、育ちつつある子供への期待や思うようにならない焦り、あるいは子供のひたむきさ。前半は浮気や親ばかで笑わせつつ、それぞれの背景とエゴ、あるいは拘泥していることを徐々に描きます。物語の中盤、若い女の息子には具体的には語られないものの、何らかの障碍があることが明かされ、エースのはずの歯科医の息子がこの試合ではベンチを温めている理由が明かされます。難しい題材ですが、西原理恵子がかつて描いていた息子の漫画のように、一生懸命さとか子供のパワーが見えるように一般の子供たちに届くように敷衍させていて扱い方は丁寧です。その結果、 若い母親(もちろん彼女なりの生き方の理由をきちんと描いているからだけれど)にしてもエゴ丸出しの歯科医にしても作家の視線はあくまでも暖かく、題材の微妙さの割には引っかかりが少なくエンタメとして見られるのは確かな力量。それは針の穴を通すような緻密さだし、人々に敬意がきちんとあるゆえとも思うのです。
この作家・太田善也、かつてはわりとパンクな作風もあったりしましたから、今作を評して 「作家が丸くなった」というのは簡単だけれど、ちゃんと生きている作家がきちんと人々を丁寧に敬意を持って描くということがこの物語を暖かな物にしている、と思うのです。それに載れてないアタシ、というのはまあ脇に置いて。
アタシはもう一つ、仕事だったり生き方だったりというもう一つの軸が格好良く、心惹かれるのです。子供がもうすぐ生まれる若い作家を仕事の先輩としても人生の先輩としても見守り、育て、引っ張り上げようとするディレクターが見せる終盤は心底格好良くて。演じた林和義は軽薄な雰囲気が終盤で一変する、振る幅の広さが凄い。妻を演じた三鴨絵里子は色っぽさよりは妻のどっしり、を演じられるほどに円熟を。職場の後輩を演じた瓜生和成はやや若い弱気な男を圧巻の安定感で。
独り者にはもう一つの軸を用意しているのも巧い。トリックスター的な位置づけでビデオカメラを持つDJ風の男。結果的にはそれが単にYouTuberしたいおじさんにすぎないこと、さらにはまだ親のすねをかじっているということが明かされるにいたり、大人に成りきれない大人、という意味で親と子供の物語のもう一つの片鱗を見せるのです。演じた桐本琢也の声がしびれるぐらいにいい。
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