【芝居】「東京アレルギー」野の上
2015.8.11 19:30 [CoRich]
2012年初演で、第19回劇作家協会新人戯曲賞最終候補となった作品を、役者を大幅に入れ替えて再演。16日までアゴラ劇場。110分。
東京にくるとアレルギーでくしゃみがでる、という女。故郷にはもう居られないと思う気持ち。都会の冷たさにもまれる日々、もう戻ろうと思っても故郷に場所がなく(故郷でアレルギーを感じてくしゃみをするのは象徴的)、都会で頼ろうと思った場所もまた救いにはならず、という物語は冷静に考えるとえらく救いのない話だと思うのです。 そのベースになっているのはきっと都会に出てくる敷居の高さだったり、ここが自分の居場所ではないという違和感。 ティッシュ配りで理不尽に搾取される感じだったり、メガネっ娘キャバクラで空気を読めず求められてもいない三国志を語ってしまうような生きづらい感じなどは必ずしも地方出身だからということでもないのでしょうが、これもまた、どこか上京してきたけれど友達も少ないまま生きている、というキャラクタの肉付けにうまく機能していて、切実さを感じるのです。
ケイと名乗り希望を象徴する白い服の女と、ゼットと名乗り絶望を象徴する黒い服の女。フォークダンス、手をとって踊り回るのは実にシュール。更に終盤に至り、それまでの人生に登場した人々が走馬燈になって立ち上がるというのも、決して幸せを描いている感じではありません。全体を通して感じるこの諦観が不思議な味わいを持つのです。
元々は青森・とりわけ津軽の役者たちで固められていた劇団ですが、初演から役者は入れ替わりました。必ずしも青森の役者たちばかりではないけれど、いわゆる東京パートは岐阜、愛媛などの出身だという役を含め全員が津軽弁を主体に、青森パートは標準語を主体にする演出は初演そのままにきっちりと作り出しているのです。
赤刎千久子、ぶりぶりなキャラはそう多くないけれど、その作り物っぽさも含めて印象的。 希望(K)を演じた堀夏子のケイの美しさはシンプルな衣装ゆえはっと気づくけれど、キャバクラドレスと牛の被り物の落差にエキセントリックな造型もまた楽しい。絶望(Z)を演じた和田華子はどこかコミカルで、精一杯さがかいま見えるようなところもあって印象に残ります。バイト仲間を演じた中田麦平の優しさ、安定の津軽弁。山田百次はキャバクラの客で次々現れる個性的なメガネっ娘に戸惑う感じがいい。バイト先の男を演じた 松本哲也はケリを入れつつ目をかけている人情派な説得力。宮崎弁でなく津軽弁でも違和感なく造型(発声がどこまで正確なのかは知る由もないけれど) 嫉妬に狂うシスターを演じた仲坪由紀子、舞台でのなんか顔大きくて肌がごわごわな強烈な印象だけど終演後にロビーでみかけると美しく、ああこういう方向にも化けるんだとおもったり。 姦淫におぼれるシスターを演じた山村崇子はううむ、気高さゆえのギャップねらいかと思ったりもするけれど、ちょっとぴんとこない。
2012.11 | 2015.8 | |
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観音寺まりあ | 鳴海まりか | 成田沙織 |
Kちゃん | 藤本一喜 | 堀夏子 |
Zちゃん | 三上晴佳 | 和田華子 |
男1(上司) | 葛西大志 | 松本哲也 |
男2(ヤクザ風情) | 杉原邦生 | 斉藤祐一 |
男3(先輩) | 成田貢 | 中田麦平 |
男4(他店) | 山田百次 | ← |
キャバクラの客 | 山田百次 | ← |
マドカ | 赤刎千久子 | ← |
夏子 | 乗田夏子 | 堀夏子 |
クララ | 三上晴佳 | 和田華子 |
シスターA | 工藤早希子 | 山村崇子 |
シスターB | 乗田夏子 | 仲坪由紀子 |
まりあの父 | 葛西大志 | 松本哲也 |
まりあの母 | ? | 仲坪由紀子・中田麦平・赤刎千久子 |
お坊さん | 杉原邦生 | 斉藤祐一 |
イタコ | 藤本一喜 | 中田麦平 |
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