【芝居】「算段兄弟」キューカンバー+三鷹市芸術文化センター
2015.8.8 15:00 [CoRich]
9日まで三鷹市芸術文化センター星のホール。105分。 父親が亡くなると呼ばれる子供たち。父親は結婚と離婚を何度も繰り返し、兄弟たちは一組の双子を除いてみな母親が違っていて、ほとんど一緒にくらしたことすらない。父親は子供たちみんなに看取ってほしいといい、死ぬときまで全員がそろって面倒を見ればという条件の遺言状があるという。長女は父親を許すことができず拒否するが、遺産目当ての兄弟たちは説得を試みるうち、父親は亡くなる。
父親が同じなのにほぼ会ったこともない兄弟たち(全員が初対面というわけではなくて、双子を一組いれて、そこに濃淡を付けるのは巧い)、それぞれの配偶者たちというある意味ほぼ他人同士が急速に近づき変化していくという枠組みの物語。
コミカルで人間くさくどたばたとする人々をみていると忘れてしまいがちだけれど、妻を次々と替え、子供はろくに育てず(金銭面の何かがあったのかも、とは思いつつ)、末期にいたり子供たちを集めたのは何かの意図かと思えば実は借金まみれで子供たちに押しつけよう、という父親は実は極悪人ではないかとも思ったりします。しかし、借金や生まれ境遇を(物語に父親が登場しないことで)天災のように避けられない困難として見せ、写し取ったかのように女たちのもとから逃げ出す男たちにとってのモデルという存在としてこの一人におっかぶせることで特異点のようになっています。それゆえに、登場する人物たちのむき出しな気持ちであったり立場であったりという様々をきっちり見せる、という方向にうまく働くのです。
もっとも、劇中に語られるように、なんで借金を放棄しないんだという疑問はもちろん残ります。あるいは、あれだけ嫌ってた長女が父親の死を境に豹変するのは(人間の心の豹変はままならないものとはいえ)もう一押し、その理由が欲しいな、と思ったりもします。
女性たちはみなしっかりとした人間として造型され、あれこれの災難にあってもブレることなく前に進んで行く人々として描かれます。 長男の嫁にして実はその父親のかつての恋人を演じた七味まゆ味は、エキセントリックな役者という印象が強いのですが、2013年のiakuあたりから目にするようになってきた大人の女性をもう一歩丁寧に。 長女を演じた村岡希美もまたコミカルが強い役者だけれど、こちらも思い悩み、あるいは気持ちに蓋をするという人間らしさ。
対する男たち。見栄っ張りで金に汚かったり細かいことにいつまでも拘泥していたり感激屋だったり。あくまでも人間臭く、コミカルな人々に描かれます。 作家・土田英生の人となりを知る由もありませんが、京都人固有な偏屈さ(や、アタシの偏見ですがきっと)だったり、気弱さだったり、陽気さだったりは、この男たちそれぞれの造型に作家自身の姿をキャラクタライズして写し取ったように思ったりもします。竹井亮介と尾方宣久が演じる双子のどちらも面倒くさい感じの相乗効果がちょっと凄い。
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