【芝居】「15 Minutes Made Volume13」Mrs.fictions
2015.8.21 19:00 [CoRich]
僅か一ヶ月をあけてのショーケース企画。25日まで王子小劇場。120分。
ベンチ入りしたことのないまま三年生になってしまった高校球児ふたり。一年生ひとりが辞退して背番号18を争い、自分がベンチに入るとどんなメリットがあるかといいだす。「ベンチ」(タイタニックゴジラ)
男が空き巣に入った家、その住人の男は恋人とは別の女を連れ込んでいいところで居候の男や恋人が戻ってきて。「停電の夜に魔が差して」(アナログスイッチ)
小学生の女の子、母親は金目当てに娘のあられもない写真を撮って売ろうとするような。ゾンビ化した派遣社員がバットを振り、東大でてしまって外資につとめたがために婚活に失敗している女は血塗れになりながら教養をそぎ落とし、性欲にまみれた男など。世間は薄汚れている。大人になることはいろいろな現実を知ること。「全肯定少女ゆめあ」(DULL-COLORED POP)
幼なじみたちが久し振りに集まって酒を飲んでゲームをしている。女の子とを励ましてほしいと男が集めたのだ。何の飲み会だったの?「ブルーベリー」(Straw & Berry)
精神科医は二つの人格が現れた患者の一人に恋してしまう。おだやかで女性らしい人格に恋をして、もう一つ暴力的な男の人格を消そうとする。「近すぎて遠い」(ポップンマッシュルームチキン野郎)
酒場の裏、もう閉店が近づいた店。おかまのママがゴミだしのついでに化粧を落とし始める。こえをかけてくるミケは店の売り上げを持ち出して逃げていたが、また姿を現す。向こうの店の男も金を持ち逃げしていて、二人で逃げようとしていたのだ。「ミセスフィクションズの祭りのあと」(Mrs.fictions)
タイタニックゴジラは、物語のアジェンダは明確。それが逆ギレし周りに飛び火するということなんでしょう。物語としてはその混乱を教師が納めてしまうのは少々ありきたりで惜しい。小野寺ずるの鬱屈を溜めて爆発する瞬間がいい。
アナログスイッチはがっつりシチュエーションコメディ。トークショーで云われていたように、もっとも若い世代が王道、しかもきちんと安定したコメディというのもおもしろい。照明の点灯・消灯と、物語の世界でのそれが入れ替わっていることの序盤、物語の中で停電が起こり、それによって居てはいけない人物が引き起こす混乱や包丁に勘違いしたコミカル。終幕、暗転で「あれっ」という言葉が、人物たちがその混乱の真実に気づいたとにおわすのが巧い。
ダルカラは、このラインナップの中ではダントツに熱量と力量を感じる一本。子供の目には世界がきらきらして見えているのに、大人はみな疲れて退廃的でゾンビのよう。真実を知ることは大人になることで、子供はそれでも前に進んでいく。 タイトな会話劇が多くなったダルカラだけれど、短い時間に濃密に人物たちを弾けさせる瞬発力で勝負させると強いのは、あの短編集を思い起こさせまます。 ゾンビと化してバットを振り回す派遣社員とか、うっかり学歴を付けて外資に就いてしまったがために婚活に失敗しつづける女が血塗れになりながらスチルウールたわしで教養をそぎ落としてたり、あるいは局部が肥大し続ける男とか。それぞれがそれぞれの大人の辛さだったり哀しさだったりを目一杯につめこんで、それなのにポップで疾走感溢れる面白さ。少女を演じた中村梨那は出オチかと思わせて、イノセントな存在をきっちり。少年を演じた一色洋平は卓越した身体能力で疾走感を物語に加えます。母親を演じた塚越健一は夢に出てきそうな魑魅魍魎感。
Straw&Berryは、去る女とその事情を知る男、事情を知らない幼なじみのカップルという4人。何のために集まった人々なのかあからさまにされないまま、事情を知らないカップルには最後まで明かされません。女が突然着替えるのは少々唐突にすぎるけれど、結婚している女が体中に痣となれば、夫の暴力を想起させます。終盤に至り殺人を起こしたらしいことをにおわせ、なるほど泣きじゃくる女はこれから自首をするのだ、そのために会いたい人々と再会して楽しかった過去に浸たる時間が欲しかったのだということ、更に男はそれを手助けしたのだという物語が花開くのです。
PMCの物語の核は、患者に恋した精神科医が残す人格を私欲にそって選んでしまうという枠に、恋してるのは男の姿をして心が女性という一ひねりを加えて。確かにラジオドラマでもうまくいけそうな一本だし、それを演劇に置き換えてもちゃんと見せる王道な短編。 正直にいえば、おかまバーでSMに明け暮れ破滅的な快楽に加速度的におぼれる男女は、アブノーマルな不穏な雰囲気を与えてはいるものの、物語に対して関与していないのが惜しい。
Mrs.fictionsは、存在意義がよくわからなくなっちゃったオカマのママと、金を持ち逃げした女、あるいはそのほかの女店員たちが酒場の裏で話すひととき。女たちは猫のような名前がついているけれど、猫というわけではなさそうなのは肩すかし。駆け落ち同然で逃げて、でも捕まって穴を掘らされているという圧倒的にまずい状態。それでも男を助けたくてもとの店に戻ってしまう女のまっすぐな感じ。あるいはオンナばりばりな店員たち。ママは一人、昔の男の想いに浸っているという感じもまた「祭りのあと」なのです。花火の火薬のにおいが降りてきて、とかいう台詞や花火のおわりという雰囲気は、どこか前回の開幕・「祭りの準備」で爆弾を抱えていた男のずっと後の姿に重なって見えたりもして、ぐっと奥行きが広がるのです。
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