【芝居】「死んだらさすがに愛しく思え」MCR
2015.6.1 19:30 [CoRich] 2日まで、ザ・スズナリ。110分。
売春婦の母親に幼い頃から繰り返し虐待をうけるうち、殺人を繰り返すようになった男。やがて母親をも殺すが、幼いころからの友達一人だけは殺そうと思わない。出会った男とともに殺人を繰り返す旅をするようになる。その逃避行には女が一緒で、やがて深く愛し合うようになる。ある街で出会った施設で女を預かってもらうが、しばらくしてあった時には女は神を信じるようになっていた。
そんな男の夢を見るようになった男。女に手痛くフられ、呪いをかけられた自分がその殺人狂に近づいている気がしてならない。やがて、その夢の中には現実の自分の周りの人間も現れるようになっている。
当日パンフによれば、連続殺人犯・ヘンリー・リー・ルーカス(wikipedia)の話を下敷きにしたのだといいます。夢の中で語られる犯罪者の姿は、その実話を丁寧になぞっていて、少しばかりの笑いを挟みながらも、緊張感と迫力のある一種の評伝劇として見応えがあります。その外側にどこか作家を匂わせる形で、女にだらしなくてクズと呼ばれる男を配して、その夢の中に現れた物語として描きます。周りの人も巻き込まれていく様もちょっと怖い。
内側の物語は、 暴力を振るう母、その罵倒に耐え、添うことだけが生存戦略。やりたいことなんかなくて、殺人という恍惚だけが自分を突き動かすことに気づいた絶望、殺してしまった母のことはあんなに怖くて嫌いだったのに、そこで染み着かせられたことから逃れられない。 クールな殺人狂はどこまでもフラットであり続けていて怖いけれど、激高型の母親の狂った笑顔も怖い。いっぽうで、ただ一人殺すことが出来ない男が存在していること、あるいは天使とまで言い放つ恋人の存在。完全無欠な悪になりきれない人間っぽさ、という不完全さを少しばかり残していることがリアリティを生みます。
正直にいえば、その 世界的な犯罪者の深い闇に比べると、それを夢に見ている男の存在は、少々物足りない感じではあります。でも夢の話としてそれを並べて見せられると、不思議と違和感を感じないのです。得体の知れないなにものか、にとらえられて逃げられない気持ち、という意味では当事者にとってはそれが闇ととらえられれている、ということなのかと思ったり思わなかったり。
殺人狂を演じた川島潤哉、フラットに狂い続けている男にみえる凄み。時折見せる笑顔は対照的に心底優しい感じそのコントラストも印象に残ります。夢に悩まされる男を演じた有川マコトは、人なつっこい感じで巻き込まれ困り果てている、という役をしっかりと。その男にさらに巻き込まれる男を演じた澤唯は冷静に見えて内心慌ててる雰囲気がちょっと珍しい。恋人を演じた後藤飛鳥は拝見するようになってずいぶん時間が経つけれど、天使と呼ばれて違和感がないという意味で怪物感たっぷり。殺されない男を演じた堀靖明は笑いをとりつつのどこか暖かに見える雰囲気が殺されない説得力。 。元カノを演じた田中のり子は真面目に向き合いながら、しかしきっぱりと別れを告げるのがかっこいい。なにより強い印象を残すのが母親を演じた伊達香苗で、優しい母親風情の見かけなのに、下世話で心底腐っていて、それにも関わらず満面の笑顔という人物の向こう側に、そうしてしか生きてこられなかったのだ、という背景が透け見えるよう。
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