2015.1.17 17:00
[CoRich]
偶然空いてしまった王子小劇場の枠を使い、劇場代表の玉山悟を役者に使ってゲストの役者との二人芝居を劇場職員が作る6本立て。100分。17日まで。
地方のバス停。待ち合わせに遅れて息せききって走ってきた元気な女子高生をまっていたのは、女子高生の制服を着ているが髭面の男だった「バス停」(作演・池亀三太 出演・榊菜津美)
安置所に遺体を取りに行く男、思ったような仕事にもならず、日々が嫌いになっている。いつものように老人だろうと思っていた遺体は、若い女だった。生前いちど病室を通りかかった時に見かけたことがあって、男は思わず「遺体よ、僕とキスをしてくれないか」(作演・裕本恭 出演・うでもげる)
初めて訪れた美容室、美容師を指名した男は三分刈りの頭で三つ編みにしてほしいという、長く延びた髭を。「まねっこ動物」(作演・つくにうらら 出演・田中渚)
通夜番の息子、父親の部屋で見つけた父の卒業アルバムを眺めている。母が父と高校の同級生だったことを初めて知るが、末尾の寄せ書きは、母がページ一杯に書き込んだものだけだった。「白紙」(作演・佐々木琢 出演・辻響平)
若い編集者が重鎮の官能小説家の家へ原稿を取りに行く。その官能的な描写は圧倒的な人気だったが、じつは作家は童貞なのだという。そういえばどこか薄っぺらなのだと気付いてしまった編集者は「楽園の二人」(作演・モラル 出演・川本ナオト)
娘を嫁に出した夫婦。結婚式で夫は花嫁の手紙を聞いて気絶してしまった。こっぱずかしい言葉を耳にすると蕁麻疹がでてしまうという病気で、結婚式で悶絶の末、気絶してしまったのだ。「じんましん」(作演・北川大輔 出演・さとうみみ)
「バス停」は地元の元気な女子高生と待ち合わせた髭面でスカート姿のおじさん、というある意味出オチ。落ち着いて優しげなきっと真面目そうな女子の口調で、徐々に女子高生に見えてきてしまう不思議。ああこれは女子とい芝居なんだとおもっていると、徐々にもたらされる不穏な情報。どうもいじめられていた女子生徒の父親が娘に成り代わり学校に通っているよう。なるほど、序盤で元気な女子高生がじゃれあう「戦国パンツ」なる遊びにしても、恋人がいるらしいことも、父親は当然知るわけもなく。
出オチほどにあからさまな見た目にもかかわらず、元気でやや雑な同級生が気付かない、それゆえに(父親が知らない)情報がもたらされるという構造が緻密です。演じた榊菜津美は女子高生を丁寧に。ロビーを大声でやや走り回ってバス停にたどり着くという序盤もいい。
「遺体よ〜」はうってかわって、いいことのない陰鬱な日々を過ごす男の日常に舞い降りた天使、かとおもうほどの女の登場。しかし彼女は遺体となっていて。病院の中で忌み嫌われる安置室に通う面白くない男という舞台がいい。黒い服にストレッチャーで病室内を動くというのは少々現実感が無い気はするけれど、病室で顔を見て笑顔を見せてくれた女の顔は忘れられなくて、思わず彼女にキスをしてしまう、という衝動は、もしかしたら自分がそうだったらしてしまいそうな説得力があります。キスをしたら目を覚ます(ように思える)のは白雪姫っぽくて素敵だし、この日常から歩み出すというのもいい。
「まねっこ〜」は玉山悟の特徴である長い顎髭のワンアイディアの勝負。美容院に来たのに三分刈り、髭を三つ編みにしてほしいという理由はたった一言、呟くように美容師がしているように、という台詞がきっちり「まねっこ」というタイトルに反映されるのが鮮やかです。もちろんそんなことに気が付くわけもない美容師の動揺、無表情、それが非日常という大笑いのコントラストもいいのです。演じた田中渚を無表情で使うというのも珍しい気がします。
「白紙」は亡くなった父のアルバムの寄せ書きは同級生の妻だけだったぐらいに友達がいないけれど、しかし幸せな家庭を築いた。息子のアルバムには寄せ書きが沢山あった、というコントラスト。父親の安心が物語を包みます。息子のアルバムが言及される終盤までは父親のツッコミの面白さはあれど一人芝居のような感じだけれど、息子のアルバムのことを語れるのは父親だけなわけで、終盤で二人芝居として効いてきます。正直に言えば、あたしの友人の感想と同様、どうにも説明臭い台詞に頼らない形にしたいところ、なんせ独り言です。扉だかふすまだかの向こう側の誰かと大声で話すというのでもいけそうな気がするけれどどうだろう。
「楽園〜」は編集者と官能作家のBL風味。良くも悪くも作家・モラルの通常運転の枠組みの芝居。リアルに見えていた官能シーンが急に嘘くさく感じるというところから、虚構のなかに描かれたリアルってなんだ、という問いかけがあるようにみえるけれど、全体の雰囲気は笑いなので、そこはその問いかけというフックで終わってしまってるのがやや残念。
「じんましん」は歯が浮くようなことをいうと蕁麻疹、という設定の夫婦、というのがいい設定。夫婦の日常会話がずっと続いてきたけれど、娘が嫁にいってちょっと寂しくなった日常。愛してるとか云えないけれど、「ごちそうさま」ということをそれは云うのが当たり前なのだという夫だから、日々を暮らせるのだという妻の視点での描き方が実に素敵なのです。さとうみみは、若くはないように見受けられますが、なるほど寄り添った妻という造型の説得力。
正直、役者としての玉山悟をちゃんと観たことはなかったけれど、こうやって触れ幅の芝居のどれを観てもきっちりで説得力という凄みがあるのです。すごいなぁ。
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