【芝居】「こわれゆく部屋」水素74%
2015.1.18 14:00 [CoRich]
海辺の一軒家。家出して10年戻らなかった妹が恋人だという飲食店で働く男を連れてやってくる。待っていた姉も看護師の仕事を続けながら、同僚の男と一緒に暮らしていた。 妹はしばらくここで男と共に暮らしたいという。夜の店の仕事をしている男のことがいまひとつ信用できない姉だが結局は二人との同居を承諾する。 10年ぶりの再会をした姉妹。両方とも恋人らしき男が居るけれど、姉はキャリアでは後輩となる男の仕事や「二人で生きる」ことへの拘泥、妹は惚れてはいるけれど結局は金のつながりの男との関係を軸に描きます。
看護師という仕事ゆえに向き合わなければいけない人の死。男がそれに向き合いきれないのは、職業への未熟ゆえか、あるいは心のある種の脆弱さか。それでも男はどこか女よりも少なくとも同等で居なければならないという呪縛は、二人の関係を追い込んでいきます。仕事を替えることも配属を替えてもらうことも沽券にかかわるとばかりに、かたくなな男はしかし、そのストレスを風俗だったりクスリだったりに逃げ込んでしまうのです。女だって人の死になにも感じないわけじゃない、うまく折り合いをつけるために我慢しているだけで、それができているだけなのだという終幕は、女性だからと云うわけじゃないけれど、我慢しなきゃいけない場面が多いジェンダーだけに、それは 普通の感覚に近いのではないかと思うのです。
あるいは妹がつれてきた男、夜の仕事で人なつっこく。男の荷物はやけに少なくという不穏さ。終幕に至り妹が男に入れあげたあげく店に借金をあげく借金を作っていて、その返済をさせるために男が同居し、(返済資金にあてるために)姉の家への同居をすすめたということが語られます。「ワタシが逃げていたら」という女の質問に答えない男のドライさも説得力があります。
姉と恋人が貯めていた結婚資金がなくなったことが明かされるけれど、それがどうなったのかは明確には語られません。恋人が使い込んだというけれど、それは風俗なのかクスリなのか。「半分は自分の」ということは妹の恋人と一緒に通った風俗の金も払ったか。クスリじゃないか、という見方もできるけれど、それは結局その「男の沽券」を保つためのストレスのはけ口が、二人の将来の生活を破壊することになるのに想い至らないほどに追い込まれたということ。無くなった金が、妹の借金返済にあてられた、 ほうが物語の収まりは良さそうだけれど、そうする理由がこの流れの中では作りづらいので難しいところ。
結局残った姉妹、どこか憑き物が落ちたような、すっきりした前向きな印象。あんなに距離感があった二人だけれど、きっと二人で暮らしていけるんじゃないかというちょっといい終幕なのです。
姉を演じた兵藤公美の落ち着いて暮らしてきたという地に足がついた造型の説得力。対してちょっと入れあげてしまった妹を演じた富田真喜の感情の起伏のありよう、はある意味女子力みたいなところはあって、魅力的に映ってしまう、というのはアタシがオヤジだからですかそうですか。
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