【芝居】「太陽の棘 彼はなぜ彼女を残して旅立ったのだろう」キャラメルボックス
2014.12.14 18:00 [CoRich]
交互上演されている「ブリザード・ミュージック」と同じく残っていない宮沢賢治の童話に着想を得て空想組曲のほさかようが描く115分。24日までサンシャイン劇場。
電車にはねられそうになった子供を助けた男は命を落とす。現場に居合わせた恋人のことが報道され同情した世間は励ます言葉を浴びせるが、女は自分の気持ちの折り合いがつけられない。男の弟と従姉妹が家の片づけを手伝いに訪れ、男が好きだった宮沢賢治の多くの本の中にただひとつ混じっていた新しい文庫「ペンネンノルデの伝記」に挟まれたメモを発見する。メモには登場人物の名前で訪問を歓迎する言葉がつづられていた。
「グスコーブドリの伝記」(青空文庫)(wikipedia)のもとになっていると云われながら 構想メモ(青空文庫)だけで原稿が残っていない「ペンネンノルデの伝記」が書かれていたというところから作家は、自己犠牲を厭わない主役ではなく、残された側の恋人の想いを中心に物語を進めます。唐突に恋人を失ったつらさばかりか、その自己犠牲が賞賛されてしまうことと自分の気持ちのもって行き場のなさ。
作家はこの女の寂しさをもう一押し描きます。 さらには亡くなった男のことを思い出そうとすると、その全てに宮沢賢治の受け売りが透け見えて、男の本当の想いはどうだったのかを思い出せず信じられない寂しさ。 改訂されて出版されたものは妹になっているけれど、このペンネンノルデでは残されたのは恋人で、それは宮沢賢治がうまく描けなかったために改訂されたという作家の想像力は、これこそが宮沢賢治の受け売りでない男のオリジナルだという結末がいい。
もっとも、太陽の棘を抜きに行く、という小説の中での自己犠牲が熟考を重ねた上の結論なのに、それに対比される、電車に轢かれそうな子供を助けた身代わりの死では熟考とは違う瞬発力のようなものでやや釣り合わないというアタシの友人の感想はまったくそのとおりで、ちょっと惜しいと感じるアタシです。
兄を失った男を演じた鍛治本大樹は若さがともかく先にたつけれど、一歩が踏み出せない臆病さをあわせもつ造型。その男を後押しし、手をひっぱり、物語をドライブしているのは従姉妹を演じた小林春世で、ともかく行動的なイマドキの女の子な雰囲気が凛々しくかっこいい。恋人を演じた岡内美喜子は哀しみに沈み続けてフラットで居続ける役という点でちょっと寂しい感じではあるけれど、丁寧に。岩手の友人を演じた佐東広之は、きっちり岩手弁で田舎の人のいい男という造型に説得力があります。死んだ男の文通の相手だったネギ農家の男を演じた久松信美はああ、年齢を重ねたなという厚み。
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