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2014.12.19

【芝居】「みえない雲」ミナモザ

2014.12.13 18:00 [CoRich]

16日までシアタートラム。神経も体力も削られる休憩なしの150分。でも不思議と没入して見ていたアタシです。

私は小学生の時に読んで衝撃を受けた本があった。何十年も経って、あれと同じことが現実に起きて、私は作家に会いに行く。
ドイツの原発の事故。警報が鳴り響き学校から帰宅した女の子は家に一人残っていた弟とともに、外出していた両親たちと落ち合うべく、自転車で家を出て列車の駅に向かうが弟は命を落とし、気がついた時には病院で放射線被爆の治療を受けていた。伯母が訪れ父母の死を告げ、引き取られて学校に行くが、同級生の死をきっかけに叔母の元へ行き、被爆者救護センターの設立を手伝うが、避難地域への立ち入りが可能になったのを知り、自分の住んでいた街に向かう。

近未来小説を核に描きつつ、その外側を劇作家・瀬戸山美咲が子供の頃に読み、事故の後になって作家に会いに行ったこと、と自分に向きあい問いかける強い衝動という二重の構造で物語を作り出します。

ヤングアダルト向けに書かれたという内側の物語、私は未読です。原発事故のパニック、成長期の少女が家族を失い、自身の身体にも影響を受け、社会も混乱しているけれど同じ国なのに自分ばかりを最優先に考える人、愛するものを失う混乱、それを支える人もいるけれど他人事だったり思考停止している人々を目の当たりにし。少女自身の生き方の向こう側に絶望しかみえなくなっている状況を描いて、考えさせる小説として描かれているのです。これがチェルノブイリの翌年に描かれ、それから何十年も経っているけれど、たいして日本の状況が変わっているとも思えず、こうなってもおかしくないと思わせる説得力を感じるのです。

悲惨な事故から逃げる序盤、自転車で一緒に逃げ事故に遭う弟を人形に演じさせたのは秀逸。無条件な可愛らしさゆえに喪失したときの悲しさが際だつのです。

外側に描いた、劇作家自身の物語。 その小説を子供の頃に読んでいたこと、作家に会いに行ったというのはドキュメンタリー至上な劇作家の作風ともいえるけれど、そこからもう一歩、その小説の作家がかつてヒトラーを本当に信じていたことからそれに抗うことができなかったこと、今の自分は抗えるか、届かないのかという自問自答は作家という仕事ゆえの深くて答えのでない問いかけ。選挙の前日に観てるアタシですが、こうなってしまった日本、まだ大丈夫、ヒトラーなんか居ない、と高をくくっていたがために、党首が「この道しかない」という実はいつか来た道の足音が。

外側も内側も物語にがっつり分量があって、胃もたれするぐらいに濃いのだけれど、不思議と見続けられるのは、原作のある内側の物語が元々持つ力ばかりでなく、その外側の劇作家の自問自答が荒削りすぎるけれど、彼女の地金に触れたような生々しい手触りと感じるからかもしれません。正直、ほんらい作家の苦悩は観客にはどうでもいいことのはずなのだけれど、どこか愛おしく感じてしまうのも事実なのです。

少女を演じた上白石萌音は長丁場を走りきり、感情の起伏の凄みにちょっと心配になるぐらいに圧巻。作家を演じた陽月華、さすがにタカラジェンヌ。軽やかでもあるし、深刻さだって細やかに。母親・祖母・アルムートを演じた大森美紀子は厚みがしっかりとあって、それぞれの役のダイナミックレンジもいい。 ドラマターグを兼ねる中田顕史郎は、父、祖父、内務大臣などを演じるけれど、祖父の頑固さの造型がいい。叔母を演じた大原研二は、それが笑いにならず、ヒールとして居続ける強さに見えてくる不思議。地元に帰るヒッチハイクの運転手を演じた浅倉洋介がほんとうにカッコイイ。

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