【芝居】「流れんな」iaku
2014.11.1 19:00 [CoRich]
たった5人で見応えのある90分。12日まで三鷹市芸術文化センター。今のところ外れない、というのは高い確率です。 (1, 2) 物販にあるTUNNELは二本の戯曲とインタビューが嬉しい。
食堂を営む家。高校生の頃にトイレで座ったまま脳梗塞のいびきをかいていた母親を寝ていると勘違いして助けられなかったことがトラウマの娘は独身のまま40歳近くになっている。 タイラギという貝が有名な漁港の近く、大きな食品加工会社は行政と組んで地元を貝料理を目玉にしようともくろんだ矢先、貝毒で出荷停止となる。更に食堂を切り盛りしていた父親が肝硬変で入院してしまう。 娘と食品加工会社つとめの常連とともに町おこしに奔走していたが不倫の関係になり、その常連もあまり店には来なくなっている。近所の漁師は幼なじみで娘に恋をしているが、娘の側はまったくそんな気が起きない。 結婚して家を出ていた娘が夫とともに父親の見舞いに行き、さまざまなことを相談もなしに父親と姉だけで決めてしまうことをなじる。さらに父親もそう長くないので、自分はほとんど記憶にない母親のことを教えてほしいというがトラウマを持つ姉は話したくないし、父親を助ける生体肝移植も断っている。夫のつてで脳科学の応用で記憶の映像化をしようとする。妊娠している妹は夫に出生前診断を受けるように頼まれていて、夫は新生児に何かあるのではないかと考えているらしい。食品加工会社の常連はそれを聞いて会社が秘密にしていることを口にしてしまう。
たった五人の濃密な会話。セットを作り込んでいるとはいえ、タッパの高い星のホールを見事に埋めきっています。たった90分に、母を亡くしたトラウマと独身の姉と母をしらないまま結婚し子供ができて母を知りたくなった妹の確執を物語の軸に据え、狭いコミュニティの中で言い寄る男との思い出したくないこと、希望だったはずの仕事や恋がたたれること、あるいは企業の隠蔽、出生前診断、脳科学に至るまで社会につながるあれこれをぎゅうぎゅうに詰め込んだ上に、笑いの多い舞台という見事な奇跡を起こしています。果てはタイラギという貝の毒とかもありそうな、というのはまあ、wikipedia (1, 2) で調べられる(ワタシもそうだ)ぐらいのことなんですが。
狭いコミュニティ、幼い妹を育てあげたけれど結婚できなかった姉の事情と結婚し妊娠した妹の確執という意味では鎌倉で公演中のスタジオソルトの公演 (1 )に似てるモチーフです。もちろん視点はずいぶん異なっていて、中心となる姉が内面の気持ちに向き合う物語であるスタジオソルトに対して、 今作は姉妹のトラウマと内面と確執を核にしつつ、外の社会、さらには日本の今を巡るさまざまな問題につながる物語としてこの人々を描こうとしていると感じるのです。
盛りだくさんで扱ってる題材も正面切って考えれば深刻な話題が多いのですが、軽い会話劇として作り上げるのはこの作家の確かな力です。もちろん役者もそれにきっちり応えていて、とりわけ幼なじみの漁師を演じた緒方晋のほどよい軽さ、時々あさってにボケる感じが見る側にとっては実は屋台骨とリズムの両方を担っているように感じます。姉を演じた峯素子を遊気舎で拝見したのはblogを始める前のころですが、年齢をきっちり重ねて魅力的。少しばかりヒールな役回りである妹を演じた橋爪未萠里は真剣さが前に出る造型、表情がいい。夫を演じた酒井善史はナードな造型、時にボケるのが可愛らしく。スーツ姿の常連を演じた北村守もまた、真面目である造型、それゆえに勝手に気を回して要らんことまで喋ってしまうという役に説得力があります。
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