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2014.10.19

【芝居】「柚木朋子の結婚」(10月)studio salt

2014.10.13 17:00 [CoRich]

スタジオソルトとしては2年半ぶりの公演。 10月バージョンは土日祝日のみ19日まで鎌倉/古民家スタジオ・イシワタリ。85分。そのあとキャストを替えた11月バージョンも予定されています。

古い家に痴呆の始まった母親と暮らす四十代後半の女。父の居ないなか、生活を支え、弟と妹を学校に通わせ母親の面倒をみているうちに婚期を逃してしまっている。弟と妹はすでに結婚して家を出ていてあまり実家には寄りつかない。妹は妊娠している。
近所の作業所でパンを売る知的障害の男が家に出入りするようになっている。女は彼と結婚するのだと言い出し、弟と妹はそれを受け入れられない。 子供を授かるためのという意味合いが大幅に後退して、結婚というものの位置づけが、(親のことを含めて)どう歳を重ね老いていくのかという生き方、死に方と無縁ではいられない年代。結婚できなかった女の話が大好物だという悪趣味を公言してはばからないアタシですが、今作は笑い飛ばせる軽さよりは、たとえば介護という現実を重ね合わせてシリアスさを強く感じる一本。

いくつか気になることがないではありません。せっぱ詰まった状況で写真を眺めるのは少々違和感があるというアタシの友人の言はそのとおりだし、 母親に対して微妙な距離感を持った呼び方をするなど、思わせぶりなことがあるのにあまり語られている感じがしない(見逃しているだけかもしれない)とか、ちょっと勿体ない感じでもあります。

二人がどうして知り合い、どうして結婚すると言い出すに至ったのか、明確には語られません。見終えた瞬間にはそれが物足りなく感じたのも事実なのですが、時間が経つとワタシの気持ちは少し変わってくるのえす。家族を支え続けるために気を張って生きてきた長女という立場が、母親にすら甘えることができなくなったときに糸が切れたようになってしまう、ということかなと思いはじめるのです。

きっと幼さの残る男との世間話をしていたのでしょう、きっと男は女の頭をゆっくり静かに撫でたのでしょう。それまで誰にも甘えられなかった感情の重なりが堰を切ったようにようにあふれ出した、ということは物語では語られないけれど、終幕近くでその断片をみせることで、あるいは「泣き虫だから」という台詞を効果的に挟むことで、そんな明確な語られないシーンが、私の頭のなかには現れるのです。

あるいは母親と二人縁側で語るシーンはほとんどの席からは背中の二人を観ているだけになりますが、きっと昼ならば風景として切り取られたような美しさがあるように思います。 母親が長女誕生の時の話をする瞬間は間違いなくそこでは母親と娘という関係が現れるのに、それは蜃気楼のようにはかなく消えてしまう哀しさ。

松岡洋子が本当に可愛らしい。泣き虫の、という設定をけっして若くない女が、なのだけれど、このキャラクタの作り方は強い。11月の役者がどう見せてくるかが楽しみになってしまうのです。結婚する相手の男を演じた浅生礼司はこういう素朴さを意識させる役は巧い。妹を演じた萩原美智子の姉への手厳しさ、子供を失ってからの姉妹という関係の暖かさをしっかり。この家で店をやっている男を演じた東享司はスカートのシーンがあったりして中性的な位置付けか、暖かく見守る視座が嬉しい。

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