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2014.10.24

【芝居】「火宅の後」猫の会

2014.10.23 15:00 [CoRich]

26日まで「劇」小劇場。85分。

作家の家。若い女と二人で住んでいて妻や長男たちが守るこの家には滅多によりつかず、食うにも困るありさま。作家は久しぶりに戻ってくる。新しく担当になった女性の編集者が挨拶に訪れ、作家に心酔していることを知り、連作となる「火宅の後」を始めることを約束する。作家自身の体験を元に描かれ、スキャンダラスな内容もあって評判になるが、連載の途中でぱたりと書けなくなってしまう。見慣れない男が訪れて、作家の「火宅の後」が売れると断言する。

私は未読ですが、云わずとしれた「火宅の人」によく似たモチーフ。無頼派というよりは、奔放に暮らす作家、その妻、あるいは囲った若い女、長男、書生の男などを中心に物語が進みます。火宅の人のモチーフで天才ではない男が作家であり続ける物語という風情。自分より先に亡くなった作家や若き天才のことは一発で見抜けてしまうのに、自分はどう逆立ちしても追いつけない、という悔しさ。そういう生き方に対しての憧れか、それともあくまで面白い人という素材として描いているのかはわからないけれど、いままでのこの劇団の作家が描いてきたものとはずいぶん毛色が異なります。

娘が居なかったりと、別れた後からの話を描いているなど、火宅の人そのままというわけではないけれど、病床の息子の存在など似ているモチーフもたくさん。 あきらかに異なるのは、「未来からの編集者」という特異な存在です。主人公の節目節目に現れて、時に状況をかき回し、時に気持ちを後押しする不思議な存在で、それはまるで読み手である私たちが主人公を応援しているかのようでもあります。

自分ばかりか周囲のプライベートも切り売りし、戦友ともいうべき編集者が伴走し、自分より先に亡くなってしまった友人の天才作家の年齢を越えてもまだことを成し遂げておらず、そればかりか後進に天才を見いだしたり。成し遂げてないのに追い抜かれる焦りを内包しつつ、あくまでも無頼というテイで居続けるということだったり。年齢を重ねることへの恐れのようなものがかいま見えたりもします。

女中を演じた徳本直子が可愛らしく。書生と仲がいいけれど、やはり同郷の作家志望を応援してしまうあたり切ない。終幕で大人になった彼女もちょっといい。編集者を演じた杉山薫の成長も素敵に描かれます。わかく酒も飲めない編集者として登場する序盤、次のシーンではもう編集者として、声も心なしか低く大人に。終盤で ビールがのみたい、という序盤とのコントラストも成長を描きます。妻を演じた川崎桜はこういう役はちょっと珍しい気がするけれど、昭和の物静かで強い妻、という説得力。

円形の八百屋舞台に砂を敷いた美しい抽象的な舞台ですが、反面、斜めのところに砂で、その上でたち続けるにしても座るにしても滑りやすく見えて、役者には相当の負荷がかかっていると思います。千秋楽まで事故がないように願うばかりです。

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